ーANDROIDAー 禁忌の“ココロ” 僕らは――もうどこにも存在しない 【完結】

ゆずたこぽんず

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3.終焉

22_機械の孤独

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 手を取り合って語り合う、彼らの声が遠のいていく……俺の目は再び、白い光の中に包まれて行った。 眩しさに思わず瞼を閉じて、物音が聞こえ、ゆっくりと目を開いた。 目の前のベッドに横たわる……老人の、俺……その顔はさらに老け込んで、手を震わせながら、傍に居たアグレーに手を伸ばしていた。

『君の紹介で、コルテクスオンラインの会社へ“人間”として就職する事となって……十数年……我は、“ココロ”を持つ少女型アンドロイドを完成させ、君との研究を……世に知らしめた』

 アグレーは、そっと老人の手を取った。 長いチューブに繋がれた老人は……もうすでに呼吸も浅く、命の終わりを予感させていた。

『“ココロ・・・”を、機械に与えてはいけなかったのだ。 我の作り上げた少女型アンドロイドたちは……醜い思想に囚われ、暴走を始めた。結果的に……我は世界を混沌に陥れた。 その罪で我はこの後逮捕され、投獄されるだろう』
『そうか……アグレー……。 すまんが、わしにはもう……どうする事もできないんだ。 この身体はもうもつまい』

 老人は肩を大きく揺らすように呼吸を始めた。 アグレーは悟ったような顔をして、彼の反対側の手もしっかりと握りしめ、老人のか細い声を捉えるように顔を近づけた。

『明美……ああ、ゼロワンは……ひとりぼっちなってしまうのか』
『……ココロを持ったアンドロイドたちは破壊されていく。 ゼロワンは、君の自宅の地下……僕らが生まれた場所で、起動を止めている。 すまないが、君との約束は果たすことが出来ないかもしれない』
『地下……そうか――それを聞いて、安心したよ。 明美のコールドスリープは、あと数百年はもつだろう……君が、獄中から出ることが出来れば……その時は……』

 老人は、アグレーの耳元で『機械と人が、優しく手を取り合える素晴らしい世界を作ってくれ……そして、明美をよろしく頼む……』と、囁いた。 その瞳はまっすぐにアグレーを見つめ……やがて、一定のリズムを刻んでいたモニターは、波打つことをやめ、老人はその時を終わらせた。

『蓮人……人間は何故……死んでしまうのだ』

 アグレーは、老人をその場に残し……部屋を後にした。 そして……俺の自宅の前に立つ……誰も住むことが無くなった、藤ヶ谷蓮人の家は……アンドロイドである、彼の手によって破壊された。 瓦礫の土の中に、ゼロワンたちの存在を隠すように。

『大丈夫だ。 ここではない場所から、中へ入ることは出来る……だから、待っていてくれ……必ず、ここへ帰る』
『見つけたぞ!リズム・アグレー博士!! 暴走するアンドロイドを製造した罪で逮捕、連行する!!』
『我……私は、逃げも隠れもしませんよ?さあ、煮るなり焼くなり何なりと』

 アグレーはひとり、独房の中で……壁を向いて起動を止めていた。 食事の時間になれば再び静かに起動をはじめ……運ばれてきた液体を飲み込んだ。 飴を食べていたくらいだから、この時も動力の足しにしたのだろう。 残りは、トイレの中へ流して、食べたように見せかけるほど……人間として擬態するための知識を獲得していた。

――アグレーが投獄されてから、何年もの月日が過ぎて行った。 彼は老いる事もなく、若々しい姿のまま……時を過ごしていた。 時折姿を現す看守が、ゾッとした顔をしながら、アグレーを見ていた。

『ここへ入って、もう、数十年は過ぎたか……ゼロワンたちは見つからずにいるだろうか』

 アグレーは、天井を見つめた。 真っ白で何もない……冷たい独房の中で、アグレーはふと寂しそうに笑った……。 彼が一体何を考えていたのか、俺には分からない……ただ、その背中から感じたのは……死ぬことのない、機械の孤独さだった。

『リズム・アグレー……出るがいい、君に釈放の許可が下りた。 君に、ある会社から……多額の釈放金が支払われたからな。 全く、運のいい奴だ』
『やっと……やっと……“帰る”ことが出来るのか……』

 アグレーは、外の世界へ戻って行くと、一台の車が彼を待ちわびていた。 その車には大きく『コルテクスオンライン』のロゴが刻まれていた。 

 真っ白だった世界が、急激に色が付いて……外の世界では、低かった家々がさらに高さを増していた。 空にはパトロールや、商業用のドローンが飛び交い広告やメッセージが掲げられていた。 今の世界は想像もできない程……彼が独房で過ごした数十年のうちに世界は変わっていた。

 アグレーはそんな事には無関心に、迎えに来た車に乗り込んだ。 中に居た研究員は、彼に『これから、コルテクスオンラインの研究施設へ向かう。 仮想世界の現実への構築を――もう一度手伝ってほしい』と、静かに告げた。

 流れて行く景色の中、人々は相変わらず、ピタリとしたスーツを着て汗をかきながら道を歩く。 道行く親子の笑い声と、流れるように進む車。 電車の音はガタゴトと鳴り響く。 アグレーは、現地に着くまで、目を閉じ……自ら起動を停止させていた。
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