ーANDROIDAー 禁忌の“ココロ” 僕らは――もうどこにも存在しない 【完結】

ゆずたこぽんず

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3.終焉

23_現実世界

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 彼が、コルテクスオンラインの会社に再び戻ってから、さらに数年の時が過ぎていった。 彼は人間として日々を過ごし……新しく入社した他の研究員とも打ち解けていた。 その振る舞い方とフレンドリーさに、彼がアンドロイドであると疑う者は、誰一人いなかった。

『アグレーさん、今日も定時にお帰りになりますか?』
『ええ、大切な妻がおりますので……何かあれば、私にメッセージを送信してくださいね』
『分かりました。 それでは、お疲れさまでした』
『お疲れ~また明日~』

 アグレーが静かに研究所を後にした、その後ろで……職員たちはヒソヒソと『博士って、ほんと……愛妻家よね。 毎日研究ノルマを達成して、妻の元に定時には帰るんですもの』と彼の事を話していた。

『ただいま、明美・・
『オカエリナサイ……レント、サマ』

 藤ヶ谷蓮人の、自宅の地下……誰にも気が付かれないように作られた入り口から、こっそりと部屋の中へ入っていく。 数年の眠りから覚めたゼロワンは、すでに明美としての感覚を失っていた。

『ダメじゃないか、もっと美しく、大人っぽい声でいないと、君は明美だろう?』
『ピピピ、ごめんなさい……レント様……本日は、何をお召し上がりになりますか……?』
『あぁ、鮭定食だな。 でも……またにするよ、そんなにお腹すいてないんだ』
『そうですか……何か、私に出来る事はありませんか?』

 アグレーはそっと、ゼロワンの髪を撫でた。 にこりと笑って……ギュッと彼女を抱きしめ……静かに首の後ろの起動ボタンを押した。 ……彼女はゆっくりと目を閉じ、体から力が抜けて行く。 倒れる寸前になって、アグレーにもたれかかると、すぐに再起動を始める音が部屋の中に流れた。

『このところ、何度試しても駄目だ……コールドスリープしている明美の意識と通信してくれない。 何故だ……何故……』
『ピピ……再起動完了……レント様……? ホンジツノ、オ食事ハ……?』
『くそおおっ!!何故目を覚まさない、明美!!私は、藤ヶ谷蓮人だぞ!最愛の人を忘れたのか……!』

 アグレーは、何度も何度も、朝になるまで彼女を再起動し続けていた。 その度に、ゼロワンは、妻としての役割を果たそうと……繰り返し、壊れた人形のように、朝食の話を繰り返していた。 求めた明美にならないことに、怒り狂ったアグレーは、テーブルをどんどんと叩き続けていた。

 朝になり……ボタンを押されたゼロワンが、ゆっくりと瞳の光を閉じて……彼女は、静かに壁に寄りかかった。 アグレーは、無言のまま部屋を後にし、外に止めてあった車へ乗り込んだ。

 彼の車は、会社から譲り受けた古い型で――アグレー自身が、わざわざそれを選んでいたのだ。 かつての俺……藤ヶ谷蓮人が愛用していた車だったらしい。

『おはようございます皆さん』
『おはようございます、アグレー博士。 本日のご報告は……』

 研究員の一人は淡々として、アグレーに報告を繰り返した。 彼女は生身の人間であるにもかかわらず、まるでロボットのように感情の無い話し方をしていた。 正直、どちらが本物の“人間”なのか見分けがつかない程だった。

『君は、まるで……他人を機械のように扱うね。 それとも、君はアンドロイドなのかな?』
『悪い冗談はハラスメント、そうとらえてもよろしいでしょうか?』
『いやいや、悪い冗談にしておいてくれ。 また獄中はうんざりだからね』
『では、以降は言葉にお気を付けください。 アグレー・・・博士』

 アグレーは、にこにこと笑いながら、研究員の一人に手を振っていた。 彼が、自分のテーブルの上のモニターへ振り向く時、キッと眉をひそめたのを、俺は見逃さなかった。

『よし……皆さん、集まってください』
『はい』
『大方の作業は終わりました。 あとは……このスイッチを押せば、現実世界への仮想空間の構築が始まるでしょう』
『おおお!!ついに、ついにやりました!!皆!!アグレー博士に拍手を!!』

 パチパチと、研究所内に拍手喝采が鳴り響いた。 アグレーはにこやかに手を振りながら立ち上がり、しばらく拍手が続いた後……アグレーが笑顔のまま動かないでいると、研究所内はシーンと静まり返った。

『私の研究はついに完成した……もう、ここに思い残すことは無い。 本日付で、退職させてもらうよ』
『えっ!?博士、辞めちゃうんですか!?』
『優秀すぎても良くないんだ……それは、僕が一番良くわかっている。 ここいらで、お暇させてもらおうと思ってね』
『ま、待ってください……私、博士がずっと憧れで……!』

 アグレーは、自分よりも身長の低い女性の研究員の口に、自分の指を当て『私に憧れるなんて、もったいないよ』と囁いた。 研究員はしょんぼりしながら……アグレーに一つの小箱を手渡した。

『博士がいつも仰っていた……藤ヶ谷蓮人さんのコーヒーカップです……倉庫を掃除してたら、見つけました』
『おお……これは嬉しい。 彼は僕の憧れだからね』
『はい。そう思って、お渡しする機会をうかがっていたのです!それが最後の日になるとは思わなかったです』

 アグレーはそっと頷いて、それを受け取った。 かつてこの研究所で長く使われていた物だったらしい。 彼はそれを大切そうに受け取った。

『ははっ、ありがとう。 では、さようなら皆さん』

 アグレーは、拍手で研究員たちから見送られ……彼は、一度も振り向くことなく――コルテクスオンラインの会社を後にした。

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