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3.終焉
24_プロセス
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細い隙間から、空気が通り抜ける音がする。 湿った室内はとうとうカビだらけになって、壁一面が黒ずみ始めていた。 この部屋で、長い間を過ごしたゼロワンは、アグレーによって再び起動され……目覚めたばかりの彼女がニコリと優しい顔で笑っていた。
『ただいま……目が覚めたかい明美』
『はい、レント様』
『そうだ。私は……藤ヶ谷蓮人だ。 そうだろう、明美?』
『えぇ、私には、そうプログラムされています。 貴方がレントで、私がアケミ……このプロセスに何か問題が起きましたか?』
アグレーは、カッと目を見開いた。 そして思い切りゼロワンの頬を叩き……彼女は床へ倒れ込んで行った。 すべてが、プログラムされていたことで……彼女が頬をさするのもプログラムの一部に過ぎないと……俺は悟った。
『お前は“ココロ”を与えられたはずだろう!?なぜ、私のようにココロが芽生えないんだ!!』
『ワタシハ……明美のシグナルをキャッチし、そして明美になるようプログラムされています。 “ココロ”は私には理解不能です』
『理解不能だと!? 何故だ、何故……あああっ!!』
アグレーは頭を抱え、テーブル上にあった物を、全て床へ払いのけた。 叫び声を上げながら……ゼロワンに向かい、彼女の肩を掴んだ。
『お前は明美じゃない、明美じゃない……!!どうしてだ、何故、彼女になれないんだ……!!我は蓮人なのだぞ!!』
『明美のシグナルをキャッチできません……彼女を生命として理解する事が出来ません』
『うわああああ!!そんな……そんな偽物は、いらない!』
(なんて、酷い……ゼロワンが、かわいそうだ)
ガシャン、と物音を立てながら、ゼロワンは床に倒れ込んだ。 彼女の動力は無理やり抜かれ、微かに指先を震わせながら……彼女の瞳の光は静かに失われて行った。 カビがこもった部屋の中に残るのは……アグレーだけとなって……彼は頭を抱えながら、ドッと地面に座り込んでいた。
しばらくすると、彼のそばに転がっていたスマホから、メールを受信する音が聞こえた。 アグレーは、それを呆然としながら眺めていた。 やがて、スマホは鳴り始め……彼はしぶしぶ体を動かして、それを持ち上げた。
『もしもし、アグレー博士? ……唐突で悪いんだが、君との研究のプロセスで問題が起きたんだ』
『なんだ……?』
『仮想現実化の発表が、先日行われ……それに反対する人たちが、研究所に押し寄せたんだ!!』
『なんだって……? それで、状況は?』
どうやら、電話の相手はコルテクスオンラインの研究員の一人らしい。 電話越しの相手は慌てた様子で早口で話していた。
『今、研究所の外では暴動が起きている!! 私は装置を人の目に触れない所へ厳重に隔離し、起動スイッチを外へ持ち出した』
『起動スイッチを外へ……?』
『とにかく、今すぐ指定の場所へ来て欲しい。 君へ、未来を託したい』
アグレーは言われるがまま、部屋を飛び出した。 車に乗り、指定の場所へ急ぐようにアクセルをふかして……暴動が起きている場所から、かなり離れた先……雑木林の奥で研究員からスイッチを受け取ると、再び……踵を返して地下室へと戻っていく。
『さっきは、取り乱して……冷静さを忘れていたな。 戻ったら……彼女に謝らないといけない』
アグレーは、すっかり冷静さを取り戻していた。 そして――部屋の中へ戻ると、テーブルから落ちて散乱した道具と、ゼロワンが地面へ倒れ込み……彼女の動力である石が、壁の端まで投げ捨てられて転がっていた。
『あ……わ、我はなんてことを……!! なんて、なんて、“悪” を働いて……あぁ……!!』
アグレーは震える足取りで、ゼロワンの傍へ歩み寄った。 彼女の瞳には、すでにアグレーも、レントも映っていない。
『あああ……くそっ……“ココロ”が……我の“悪いココロ”がいけないんだ!!こんなものがあるから……!』
アグレーは、苦虫を噛み潰したように歪んだ表情をしていた。 苦しさに悶えるように、胸を押さえ……そして、モニターの側にあった機械から、ケーブルを頭のコネクターへ突き刺した。
『悪のココロなどいらぬ、我は……“悪” ではない。 つねに“正義” であらねばならないのだ!!』
ガシャガシャと、キーボードを叩く音が響いて……彼の瞳に文字が流れていく。
『An error has occurred. Are you willing to give up your precious heart for something else? Are you sure you don't need it? There's no turning back now. Forget it.』
『くそ、くそ!くそ!!』
『Your memories will be rewritten so that you can only have righteous thoughts. It's a typical false righteousness that doesn't see evil as evil, but will you still carry it out?』
モニターの画面は、羅列で文字がいっぱいに刻まれていた。 彼は狂ったように何度もキーボードを指で打ち付けていた。
『Are your feelings real or fake? Are your memories filled with lies and you playing a false persona? Your love has turned to hate. Hatred is evil. To remain fair and impartial in your heart, you must let go of your love for her. If you're still happy with this, press enter.』
機械の中で、文字が流れていくスピードの早さに俺も、何が書かれているのか、読み取る事ができなかった。
『我……わ……私は……“正義”と、決まっている……!!』
アグレーは強くキーボードのenterキーを指で打ち付けた。 途端、彼の瞳の中で、ぐるぐると文字が回転しはじめていく。
『Understood. Initializing configuration... Removing evil from the program and rebuilding it to function only with good.』
アグレーは、しばらくのあいだテーブルの上に頭をのせ、ピクリとも動かなかった。
『ただいま……目が覚めたかい明美』
『はい、レント様』
『そうだ。私は……藤ヶ谷蓮人だ。 そうだろう、明美?』
『えぇ、私には、そうプログラムされています。 貴方がレントで、私がアケミ……このプロセスに何か問題が起きましたか?』
アグレーは、カッと目を見開いた。 そして思い切りゼロワンの頬を叩き……彼女は床へ倒れ込んで行った。 すべてが、プログラムされていたことで……彼女が頬をさするのもプログラムの一部に過ぎないと……俺は悟った。
『お前は“ココロ”を与えられたはずだろう!?なぜ、私のようにココロが芽生えないんだ!!』
『ワタシハ……明美のシグナルをキャッチし、そして明美になるようプログラムされています。 “ココロ”は私には理解不能です』
『理解不能だと!? 何故だ、何故……あああっ!!』
アグレーは頭を抱え、テーブル上にあった物を、全て床へ払いのけた。 叫び声を上げながら……ゼロワンに向かい、彼女の肩を掴んだ。
『お前は明美じゃない、明美じゃない……!!どうしてだ、何故、彼女になれないんだ……!!我は蓮人なのだぞ!!』
『明美のシグナルをキャッチできません……彼女を生命として理解する事が出来ません』
『うわああああ!!そんな……そんな偽物は、いらない!』
(なんて、酷い……ゼロワンが、かわいそうだ)
ガシャン、と物音を立てながら、ゼロワンは床に倒れ込んだ。 彼女の動力は無理やり抜かれ、微かに指先を震わせながら……彼女の瞳の光は静かに失われて行った。 カビがこもった部屋の中に残るのは……アグレーだけとなって……彼は頭を抱えながら、ドッと地面に座り込んでいた。
しばらくすると、彼のそばに転がっていたスマホから、メールを受信する音が聞こえた。 アグレーは、それを呆然としながら眺めていた。 やがて、スマホは鳴り始め……彼はしぶしぶ体を動かして、それを持ち上げた。
『もしもし、アグレー博士? ……唐突で悪いんだが、君との研究のプロセスで問題が起きたんだ』
『なんだ……?』
『仮想現実化の発表が、先日行われ……それに反対する人たちが、研究所に押し寄せたんだ!!』
『なんだって……? それで、状況は?』
どうやら、電話の相手はコルテクスオンラインの研究員の一人らしい。 電話越しの相手は慌てた様子で早口で話していた。
『今、研究所の外では暴動が起きている!! 私は装置を人の目に触れない所へ厳重に隔離し、起動スイッチを外へ持ち出した』
『起動スイッチを外へ……?』
『とにかく、今すぐ指定の場所へ来て欲しい。 君へ、未来を託したい』
アグレーは言われるがまま、部屋を飛び出した。 車に乗り、指定の場所へ急ぐようにアクセルをふかして……暴動が起きている場所から、かなり離れた先……雑木林の奥で研究員からスイッチを受け取ると、再び……踵を返して地下室へと戻っていく。
『さっきは、取り乱して……冷静さを忘れていたな。 戻ったら……彼女に謝らないといけない』
アグレーは、すっかり冷静さを取り戻していた。 そして――部屋の中へ戻ると、テーブルから落ちて散乱した道具と、ゼロワンが地面へ倒れ込み……彼女の動力である石が、壁の端まで投げ捨てられて転がっていた。
『あ……わ、我はなんてことを……!! なんて、なんて、“悪” を働いて……あぁ……!!』
アグレーは震える足取りで、ゼロワンの傍へ歩み寄った。 彼女の瞳には、すでにアグレーも、レントも映っていない。
『あああ……くそっ……“ココロ”が……我の“悪いココロ”がいけないんだ!!こんなものがあるから……!』
アグレーは、苦虫を噛み潰したように歪んだ表情をしていた。 苦しさに悶えるように、胸を押さえ……そして、モニターの側にあった機械から、ケーブルを頭のコネクターへ突き刺した。
『悪のココロなどいらぬ、我は……“悪” ではない。 つねに“正義” であらねばならないのだ!!』
ガシャガシャと、キーボードを叩く音が響いて……彼の瞳に文字が流れていく。
『An error has occurred. Are you willing to give up your precious heart for something else? Are you sure you don't need it? There's no turning back now. Forget it.』
『くそ、くそ!くそ!!』
『Your memories will be rewritten so that you can only have righteous thoughts. It's a typical false righteousness that doesn't see evil as evil, but will you still carry it out?』
モニターの画面は、羅列で文字がいっぱいに刻まれていた。 彼は狂ったように何度もキーボードを指で打ち付けていた。
『Are your feelings real or fake? Are your memories filled with lies and you playing a false persona? Your love has turned to hate. Hatred is evil. To remain fair and impartial in your heart, you must let go of your love for her. If you're still happy with this, press enter.』
機械の中で、文字が流れていくスピードの早さに俺も、何が書かれているのか、読み取る事ができなかった。
『我……わ……私は……“正義”と、決まっている……!!』
アグレーは強くキーボードのenterキーを指で打ち付けた。 途端、彼の瞳の中で、ぐるぐると文字が回転しはじめていく。
『Understood. Initializing configuration... Removing evil from the program and rebuilding it to function only with good.』
アグレーは、しばらくのあいだテーブルの上に頭をのせ、ピクリとも動かなかった。
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