2 / 7
kaidan ~夢~
黒 参
しおりを挟む
「今夜は、お客様が来るから…はやく2階へ上がりなさい。」
祖母に言われて、なつみは部屋の階段を登った。
祖母の家は、二つの家が繋がっていて…
互いのキッチンとリビングを挟む廊下に、2階へ向かう階段があった。
階段の上には、小さな客間がいくつも並んで、その中の、一番手前の部屋を寝室として使わせてもらっていた。
もう夜になって、小窓をあければ…
すぐ隣にあるレストランから、ニンニクの香りが香ばしく漂っていた。
なつみはひとり、その部屋で人形遊びをしていた。
祖母とつくった手作りの熊の人形。
不恰好だったが、思い入れがあってとても可愛がっている。
「いつもなら、お客様が来たときにご挨拶しなさいっ…っていうのに…」
個人商店を営んでいた祖母は、決まって人が来ると挨拶をしなさいと言っていた。
…所が、その日はそうではなかったのだ。
「あの人は、子供が嫌いなんだよ。 だから、絶対に顔を出してはいけないよ」
…―祖母はそう言っていた。
子供嫌いで…顔を出したらいけないなんて、一体どんな人なのだろう?
「ねぇ、くまさん…子供が嫌いな人なんて…いないよねぇ?」
なつみの問いかけに、人形が答えることもなく…。
そうして遊んでいると、後ろの方から男の声が聞こえた。
「えっ?」
振り返ってみると、開け放たれた小窓の外…
目の前のレストランの2階の窓から、男が顔をだしてたばこを吸っていた。
壁が目の前にあるほど近いのだ。
なつみは気分を悪くして、バタンとその窓を閉め、急いでカーテンを閉めた。
すると、今度は部屋のドアの外から誰かが会話をする声が聞こえてきた。
ひとつは、祖母の声。
もうひとつは…聞いたこともない、男の人の声…
「くろ、さん…」
…―なつみが部屋に入る前に、祖母はもう一度繰り返し言っていた。
「くろさんが来るから、絶対顔をだしたらだめだよ」
なつみは、静かに…ドアノブに手を掛け…
音をならさないように、そっとドアに隙間を開けた。
…―良く見えない。
なつみは寝っ転がって、ドアをぐいぐいと手前に引きながら、目の前の階段の下を覗き込んだ。
そこに、祖母の姿が微かに見えた。
…―でも、もうひとりが見えない。
確かに祖母は会話をしている…なのに…なにかが邪魔をするように…もう一人の姿がぼやけて見えないのだ。
廊下の横半分くらいまで、なつみの顔が出た。
なつみは、やっと…もう一人の姿をとらえることができた―…が。
…―何あれ。
そこには、真っ黒な影がぼんやり立って祖母と会話を続けているのだ。
真っ黒なのに、歯は白く…口の中は真っ赤な色をしているのが良く見える。
ガタン。
開け放ったドアが、部屋の中の壁にぶつかり、大きな音を鳴らした。
…―ゆっくりと。
黒い影が…
こちらに、振り返る―…
「みぃ………つけたあ………」
影は、なつみに向かって階段を駆け上がってくる。
「ひいい、いやぁぁ!!」
…―こっちに向かってくる!!
なつみは部屋から飛び出して、長い廊下を走った。
もうひとつ、下へ向かう階段がある。
そこへ向かって、必死に走った。
…―このままじゃ…、追い付かれる………っ!!
階段を駆け下りて、もう、すぐそこまで。
…―くろさんの手が肩を掴もうとしたその時…
……朝ですよ、起きて、起きて。
目覚ましの音が鳴り響いていた。
なんとも、恐ろしい夢だった。
パジャマは汗で濡れていた。
「夢で…よかった………」
なつみは、着替えて階段を下りた。
「おばあちゃん、おはよう」
「おはようなつみ、今夜は、お客様が来るからね…今日はやく2階へ上がるんだよ」
黒 参…―おわり
祖母に言われて、なつみは部屋の階段を登った。
祖母の家は、二つの家が繋がっていて…
互いのキッチンとリビングを挟む廊下に、2階へ向かう階段があった。
階段の上には、小さな客間がいくつも並んで、その中の、一番手前の部屋を寝室として使わせてもらっていた。
もう夜になって、小窓をあければ…
すぐ隣にあるレストランから、ニンニクの香りが香ばしく漂っていた。
なつみはひとり、その部屋で人形遊びをしていた。
祖母とつくった手作りの熊の人形。
不恰好だったが、思い入れがあってとても可愛がっている。
「いつもなら、お客様が来たときにご挨拶しなさいっ…っていうのに…」
個人商店を営んでいた祖母は、決まって人が来ると挨拶をしなさいと言っていた。
…所が、その日はそうではなかったのだ。
「あの人は、子供が嫌いなんだよ。 だから、絶対に顔を出してはいけないよ」
…―祖母はそう言っていた。
子供嫌いで…顔を出したらいけないなんて、一体どんな人なのだろう?
「ねぇ、くまさん…子供が嫌いな人なんて…いないよねぇ?」
なつみの問いかけに、人形が答えることもなく…。
そうして遊んでいると、後ろの方から男の声が聞こえた。
「えっ?」
振り返ってみると、開け放たれた小窓の外…
目の前のレストランの2階の窓から、男が顔をだしてたばこを吸っていた。
壁が目の前にあるほど近いのだ。
なつみは気分を悪くして、バタンとその窓を閉め、急いでカーテンを閉めた。
すると、今度は部屋のドアの外から誰かが会話をする声が聞こえてきた。
ひとつは、祖母の声。
もうひとつは…聞いたこともない、男の人の声…
「くろ、さん…」
…―なつみが部屋に入る前に、祖母はもう一度繰り返し言っていた。
「くろさんが来るから、絶対顔をだしたらだめだよ」
なつみは、静かに…ドアノブに手を掛け…
音をならさないように、そっとドアに隙間を開けた。
…―良く見えない。
なつみは寝っ転がって、ドアをぐいぐいと手前に引きながら、目の前の階段の下を覗き込んだ。
そこに、祖母の姿が微かに見えた。
…―でも、もうひとりが見えない。
確かに祖母は会話をしている…なのに…なにかが邪魔をするように…もう一人の姿がぼやけて見えないのだ。
廊下の横半分くらいまで、なつみの顔が出た。
なつみは、やっと…もう一人の姿をとらえることができた―…が。
…―何あれ。
そこには、真っ黒な影がぼんやり立って祖母と会話を続けているのだ。
真っ黒なのに、歯は白く…口の中は真っ赤な色をしているのが良く見える。
ガタン。
開け放ったドアが、部屋の中の壁にぶつかり、大きな音を鳴らした。
…―ゆっくりと。
黒い影が…
こちらに、振り返る―…
「みぃ………つけたあ………」
影は、なつみに向かって階段を駆け上がってくる。
「ひいい、いやぁぁ!!」
…―こっちに向かってくる!!
なつみは部屋から飛び出して、長い廊下を走った。
もうひとつ、下へ向かう階段がある。
そこへ向かって、必死に走った。
…―このままじゃ…、追い付かれる………っ!!
階段を駆け下りて、もう、すぐそこまで。
…―くろさんの手が肩を掴もうとしたその時…
……朝ですよ、起きて、起きて。
目覚ましの音が鳴り響いていた。
なんとも、恐ろしい夢だった。
パジャマは汗で濡れていた。
「夢で…よかった………」
なつみは、着替えて階段を下りた。
「おばあちゃん、おはよう」
「おはようなつみ、今夜は、お客様が来るからね…今日はやく2階へ上がるんだよ」
黒 参…―おわり
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。
意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。
隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる