釣った魚、逃した魚

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#06 冒険者の相棒

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 神子様担当の護衛騎士は俺一人。
それでも一応俺にも非番の日というのがある。月に3度。割合としては10日に1度だ。

その日は後宮警備部から代理の護衛が派遣されてくる。
当初俺は神子様のお側を離れることを渋り休暇は要らないと言ったのだが神子様に窘められた。

「ミランは律儀すぎだよ。そんな事言ったら君が俺に執着していると思われちゃうじゃん」

路地裏の宿屋の一室で俺の寝台に腰を下ろした神子様が苦笑する。

現在神子様は、表向き後宮の自室で既に就寝済みだ。何か有ったときのためにダミーをベッドに仕込んできている。クローゼットに入っているただのヘッド付きトルソーだが、神子様がすやすやと眠っているように見える魔法が施されている。

それを設置した後、街外れの俺と約束した場所に転移してくる。
俺が非番の日はそうやって外で会う。
夜はベッドで眠っている。夕方は長椅子でお昼寝か読書か、をしているダミーを置き、ユノに読書の邪魔をしないよう伝えて。
日によっては窓際の椅子で考え事の時もある。

そして神子様はこうやってお忍びで外出した特には認識阻害魔法で髪の色と瞳の色を偽装している。
フードのある長めのケープ付き修道服のような粗末なローブ姿でただの道端の木切れにしか見えない杖を持ち、くすんだ茶色の髪と瞳の平凡な面持ちの魔法使い。そんな出で立ちだ。
その姿の時、タカという名で登録されている冒険者でもある。

俺は冒険者としての登録免許が今でも有効だから、騎士となった後も非番の時にはギルドに行きすぐに片付きそうな依頼をこなしては小銭を稼いでいた。

今では神子様・・・タカはそのとき限定の俺の相棒だ。
登録の仕方や資格などを教えたのは俺だった。後宮に入って暫くしたときにさりげなく冒険者時代のことを訊かれたのがきっかけで。

「君はあくまでも、陛下の寵愛を失って後宮の最果てでくすぶっている冴えない男妾おとこめかけの護衛の任を押しつけられた不運な騎士で、ご下命だから渋々付いて回っているだけって体で居なきゃ」

苦笑しながら難しい使命を言い渡される。
俺はかけひきとか演技とかそんなに得意じゃないんだ。
・・・何より俺が神子様に執着しているのは事実。

非番の日に、俺の代わりに派遣される騎士が誰なのか。その日の神子様はどう過ごすのか。
その者と言葉は交わすのか・・・。
・・・ついそんな事を考えてしまうくらい。

神子様は・・・気づいていらっしゃるんじゃないのか。・・・多分。

神子様・・・いや、タカはシーツの上に既に換金された本日の獲物の報酬を並べ、二山に分けた。
やや片方が多い。

そして、その少ない方を小さな巾着に入れ、自分の魔法袋に収納する。
もう一山の方の硬貨をかき集めて俺に差し出し「はい。じゃあミランの分ね」と俺に手を差し出すよう眼で催促する。
俺の差し出した掌にそれをのせ、その掌を両手で覆って握らせ押し戻す。

神子様と護衛騎士の時にはあり得ないスキンシップに心臓が跳ねた。
顔が熱くなる。耳の先まで火照っているのが分かる。

「コラ!」
タカが顔をのぞき込んで指先で俺の額をつつく。

「そういうウブっぽい反応すんなよ。狙われんぞ」

「・・・誰にですか」

「・・・ん~・・・。ウブな若者を食い物にする性悪女とか。君みたいな細マッチョのイケメンが好きなおっさんとか・・・。」

「・・・イケメン?・・・俺がですか?」

タカはビックリして「鏡見たこと無いの?」と笑った。
「爽やか系短髪の金髪といい、エメラルドみたいな翠の瞳、通った鼻筋、意志の強そうな眉と口許。背も高いしスタイルも良い・・・どこからどう見たって非の打ち所が無いよ」

そんな。気恥ずかしくなるほど褒めなくても・・・。照れくさくて思わず俯き鼻の頭を掻く。

「今日もギルドのバーで女性達に絡まれていたじゃん?奢ってよとか、今度一緒に組んでよとか。モテモテだよね?俺、彼女たちに何度か睨まれてビビったよ」

女達?・・・ああ、興味ない。

「・・・神子さ・・・、タカは・・・好きですか?」
「ん?なにが?」
「・・・俺の、・・・容姿・・・」

一瞬の沈黙の後吹き出す。うろたえながら可笑しいこと言いましたか俺?と訊くと首を振りながら。

「まあ、好みかどうかと訊かれれば嫌いでは無いよ。すごく、カッコいいと思う。・・・でも俺はミランの容姿よりも・・・その、実直で純朴な性格が好きだな」

好き・・・という言葉に胸が高鳴った。収まりかけてきた顔の熱が又上がるのを感じる。

「ありがとうございます」

どうしても口許が緩んでしまう。視線が泳ぐ。思わず顔を隠すかのように頭を下げた。隠れてなどいないのだが。
タカはどんな顔で俺を見ているのだろう。そちらを見ることが出来ない。
ふっと笑ったのか溜息なのか分からない息の音がしてタカはフードをかぶった。

「じゃあ、俺は部屋に戻るよ。今日もありがとう。又明日から護衛よろしくね」

床に人一人を乗せられる程度の魔方陣が現れ、タカはそれに一歩足を踏み入れたと思うと足下から次第に蒼白い光の幕に覆われて消えていった。

彼が消えた後も薄らと残る魔方陣の光が完全に消えてすすけた宿の床板だけになった後も俺はその場所を暫く見つめた。
彼が腰掛けていた寝台のふちに視線を動かす。そこに彼の姿を回想する。

俺は汗ばむほど力が入っていた、彼に金を握らされた拳を見つめ。
その拳を包んだ両手の感触を思い出した。

そして、震えながらその己の拳に唇を付けた。
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