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#002 美肌の秘訣
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堪えきれないとばかりにリシェンナ王妃殿下が肩を揺らして笑う。
「冗談抜きで、神子様のお肌は我々女達から見ても、妬ましいくらいにお美しいですわ。日々、どのような化粧品をお使いでらっしゃるのか、わたくし達だけにこっそり教えてくださいませんかしら…?」
その場に居た女性達が一斉に瞳を輝かせて、頷きながら俺を見た。
思わずたじろぐ。
俺の人生でも初めてだよね。これほどまで積極的に若くて華やかな大勢のご婦人に囲まれて迫られてるのって。
正直、悪い気はしない。が。
迫られている理由は、若干望んでいるものとは違う。
「…いえ、特に化粧品などは…ああ、エンドファンの師匠レシピの石けんのおかげでしょうか」
「そんなの、もうここに居る殆どの女達は使っていますわよ!
グリエンテ商会の宣伝が『あなたにも神子様と同じ艶やかな肌を』って謳っているのですもの!
誰だって買い求めますわッ」
責められているような言われ方だ。なんでやねん。
豪商グリエンテ商会は、俺の伴侶マクミランの唯一の肉親であるお姉さんの婚家だ。
若会頭フリーネンさんは義兄という事になる。
彼にはことある度にお世話になっているのだが、逆にこちらも随分お返し出来ているんじゃないの?
何しろ、今回話題の石けんもそうだけど、何かに付け「神子様お勧めの」とか「神子様ご愛用の」などというキャッチコピーを使ってくれている。
しかも俺がその商品を指さしたり手に持ったりしている画像付きだよ。
そして、そうすることで売り上げがかなり違うらしい。
自慢じゃないけど俺、元の世界では一応トップ営業マンだったんだよ。
いや、自慢ですけど、実はね。
だから、まあ確かに言える。笑顔は売り物です。
けど、こちらの世界では俺の職業って一体何なの。
副業いっぱいだよ。
いや、こうなると本業は何だろう。もはやよく分からない。
自分としては一介の冒険者だけど、神子であり、治癒師でもあり、子供達への魔法の先生でもあり、辺境の村人。
王立学園魔道学科のアドバイザー兼たまに講師。
そして、最近では大手商会のモデルまでかい!(笑)
「そうではなくてー!」
綺麗な女性陣に、更に詰め寄られる俺のごまかし笑いが、やに下がって見えたのかマクミランが割って入った。
「自分が思うに、風呂ではないでしょうかッ」
「風呂ッ?」
女性達の視線が一斉にマクミランに向いた。
「神子様が『元の世界ではこうだった』と仰る入浴の仕方が、我々のそれとは異なっているように思います。
我々にとっての入浴は、湯の中で体を洗い清めるのが目的だと思いますが、神子様は洗い流すのは湯の外で行い、湯船にはただ浸かるだけなのです。そして、その浸かっている時間が長い。まるで自らを茹でているかのように…」
この世界では毎日入浴出来るのは王族や高位貴族だけ。
しかもマクミランが言っていたように、汚れを落とすのがメインで、ゆっくり浸かるという習慣は無いらしい。
ご令嬢達は洗うだけではなく、湯の中で侍女達にマッサージされたりなんかはあるらしいが。
「まあ、デスタスガス卿ったら、さすがは伴侶ですわね」
「神子様のご入浴の作法まで熟知してらっしゃるなんて」
「ご一緒してらっしゃいますの?ご入浴」
「えっ、あっ、い、いえ、べっ別に一緒には…」
…まあ、何度かはしたけどな。
嘘のつけないマクミランの目が泳ぐ。真っ赤になっていて可愛い。
なぜか興味津々のご婦人方。
その興味の方向性は入浴法なのか、俺達の裸の触れあいなのか。
「まあまあ、そこのご詮索はご勘弁ください。…そうですね。長く浸かると体の芯から温まって、血行が良くなるし、汗と共に老廃物が流れ出るという効果が有るんですよね」
皆の意識が完全に脱線する前に、軌道修正を図ってみる。
「ろうはいぶつ?」
「はい。毛穴の奥の汚れだとか、あとは体にたまった良くない脂肪分とか、毒素とかが、汗に溶け込んで一緒に体の外に流れ出るんですよ」
「ま、まぁ!体にたまった脂肪分ですって?」
ざわめきが起きる。
無事に皆さんの意識が戻ってきて、俺の話に食いついてくれる。
「本当は温泉だともっと効果的なんですが…」
「おんせん…?」
「お湯が吹き出てくる池や泉の様な所は有りませんか?…この世界にも火山はあるみたいだから、多分何処かには有ると思うんですが…。無色透明も多いですが、茶色かったり、白濁したり、うっすら色が付いているお湯も多いので、見たら分かると思いますが。そういうお湯に浸かったり、遊泳…みたいな習慣は無いのですか?」
「…あ…!」
メゾンのスタッフ嬢の一人が声を上げた。
「私の出身地の山の方に、そういうお湯が出てくる場所がございました!」
「えっ、マジで?どこ?」
しまった。ついタメ語になってしまった。
「あ、でも、多分あれは良くないものですわ。だって、もうニオイが酷くて…。周辺の草木も枯れてしまっているし。瘴気ほど危険な物では無いようですが…。村の老人達もあそこには近づくなって…」
ニオイ!硫黄泉かな?
いやしかし、勿体ない!そんな素晴らしい資源があるのに手つかずなんて!
とっさに俺は彼女から場所を教わり、近日中にそこに出かける決意を固めた。
神子様ご生誕祭という、祭のダシに引っ張り出されるのを俺が望んでいるわけではない事は国王陛下始め王家の三兄弟は知っている。
だからといっても、知ってしまった以上スルーする訳にもいかない、というのが彼らの事情だろう。
だからこそ、一応彼らからの打診があったのだ。
今回のこのイベントに駆り出す対価として、何か望むものが有れば言って欲しい、と。
望むもの!
温泉!
決まりじゃん!
「冗談抜きで、神子様のお肌は我々女達から見ても、妬ましいくらいにお美しいですわ。日々、どのような化粧品をお使いでらっしゃるのか、わたくし達だけにこっそり教えてくださいませんかしら…?」
その場に居た女性達が一斉に瞳を輝かせて、頷きながら俺を見た。
思わずたじろぐ。
俺の人生でも初めてだよね。これほどまで積極的に若くて華やかな大勢のご婦人に囲まれて迫られてるのって。
正直、悪い気はしない。が。
迫られている理由は、若干望んでいるものとは違う。
「…いえ、特に化粧品などは…ああ、エンドファンの師匠レシピの石けんのおかげでしょうか」
「そんなの、もうここに居る殆どの女達は使っていますわよ!
グリエンテ商会の宣伝が『あなたにも神子様と同じ艶やかな肌を』って謳っているのですもの!
誰だって買い求めますわッ」
責められているような言われ方だ。なんでやねん。
豪商グリエンテ商会は、俺の伴侶マクミランの唯一の肉親であるお姉さんの婚家だ。
若会頭フリーネンさんは義兄という事になる。
彼にはことある度にお世話になっているのだが、逆にこちらも随分お返し出来ているんじゃないの?
何しろ、今回話題の石けんもそうだけど、何かに付け「神子様お勧めの」とか「神子様ご愛用の」などというキャッチコピーを使ってくれている。
しかも俺がその商品を指さしたり手に持ったりしている画像付きだよ。
そして、そうすることで売り上げがかなり違うらしい。
自慢じゃないけど俺、元の世界では一応トップ営業マンだったんだよ。
いや、自慢ですけど、実はね。
だから、まあ確かに言える。笑顔は売り物です。
けど、こちらの世界では俺の職業って一体何なの。
副業いっぱいだよ。
いや、こうなると本業は何だろう。もはやよく分からない。
自分としては一介の冒険者だけど、神子であり、治癒師でもあり、子供達への魔法の先生でもあり、辺境の村人。
王立学園魔道学科のアドバイザー兼たまに講師。
そして、最近では大手商会のモデルまでかい!(笑)
「そうではなくてー!」
綺麗な女性陣に、更に詰め寄られる俺のごまかし笑いが、やに下がって見えたのかマクミランが割って入った。
「自分が思うに、風呂ではないでしょうかッ」
「風呂ッ?」
女性達の視線が一斉にマクミランに向いた。
「神子様が『元の世界ではこうだった』と仰る入浴の仕方が、我々のそれとは異なっているように思います。
我々にとっての入浴は、湯の中で体を洗い清めるのが目的だと思いますが、神子様は洗い流すのは湯の外で行い、湯船にはただ浸かるだけなのです。そして、その浸かっている時間が長い。まるで自らを茹でているかのように…」
この世界では毎日入浴出来るのは王族や高位貴族だけ。
しかもマクミランが言っていたように、汚れを落とすのがメインで、ゆっくり浸かるという習慣は無いらしい。
ご令嬢達は洗うだけではなく、湯の中で侍女達にマッサージされたりなんかはあるらしいが。
「まあ、デスタスガス卿ったら、さすがは伴侶ですわね」
「神子様のご入浴の作法まで熟知してらっしゃるなんて」
「ご一緒してらっしゃいますの?ご入浴」
「えっ、あっ、い、いえ、べっ別に一緒には…」
…まあ、何度かはしたけどな。
嘘のつけないマクミランの目が泳ぐ。真っ赤になっていて可愛い。
なぜか興味津々のご婦人方。
その興味の方向性は入浴法なのか、俺達の裸の触れあいなのか。
「まあまあ、そこのご詮索はご勘弁ください。…そうですね。長く浸かると体の芯から温まって、血行が良くなるし、汗と共に老廃物が流れ出るという効果が有るんですよね」
皆の意識が完全に脱線する前に、軌道修正を図ってみる。
「ろうはいぶつ?」
「はい。毛穴の奥の汚れだとか、あとは体にたまった良くない脂肪分とか、毒素とかが、汗に溶け込んで一緒に体の外に流れ出るんですよ」
「ま、まぁ!体にたまった脂肪分ですって?」
ざわめきが起きる。
無事に皆さんの意識が戻ってきて、俺の話に食いついてくれる。
「本当は温泉だともっと効果的なんですが…」
「おんせん…?」
「お湯が吹き出てくる池や泉の様な所は有りませんか?…この世界にも火山はあるみたいだから、多分何処かには有ると思うんですが…。無色透明も多いですが、茶色かったり、白濁したり、うっすら色が付いているお湯も多いので、見たら分かると思いますが。そういうお湯に浸かったり、遊泳…みたいな習慣は無いのですか?」
「…あ…!」
メゾンのスタッフ嬢の一人が声を上げた。
「私の出身地の山の方に、そういうお湯が出てくる場所がございました!」
「えっ、マジで?どこ?」
しまった。ついタメ語になってしまった。
「あ、でも、多分あれは良くないものですわ。だって、もうニオイが酷くて…。周辺の草木も枯れてしまっているし。瘴気ほど危険な物では無いようですが…。村の老人達もあそこには近づくなって…」
ニオイ!硫黄泉かな?
いやしかし、勿体ない!そんな素晴らしい資源があるのに手つかずなんて!
とっさに俺は彼女から場所を教わり、近日中にそこに出かける決意を固めた。
神子様ご生誕祭という、祭のダシに引っ張り出されるのを俺が望んでいるわけではない事は国王陛下始め王家の三兄弟は知っている。
だからといっても、知ってしまった以上スルーする訳にもいかない、というのが彼らの事情だろう。
だからこそ、一応彼らからの打診があったのだ。
今回のこのイベントに駆り出す対価として、何か望むものが有れば言って欲しい、と。
望むもの!
温泉!
決まりじゃん!
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