俎上の魚は水を得る

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#003 部分的具体的妄想

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「申し訳ありません。俺が…余計なことを言ってしまったばかりに…」

帰宅したらマクミランがしょげていた。
「え、それって、俺の誕生日を喋っちゃった方?それとも一緒に風呂入ったことがバレちゃった方?」

彼の顔がカーッと赤くなる。
「あ、いえ、あの、ど、どっちも…」
なんだよその反応。
まったくいつもながらウブな坊やみたいな反応だな。くっそ可愛い。
これがベッドの中では絶倫大魔王に変わるなんて誰が想像出来るだろうか。
とんだギャップ萌えだよ。

「俺はさあ、ミランと二人だけの誕生日が密かに楽しみだったんだよなー」

彼が朝からちまちまと仕込んで、色々と頑張って作ってくれるお祝いの晩餐とか。
俺の好きなテレサのミートパイを、夕方に合わせて注文してくれてたりとか。
一番綺麗に咲いている薄紫色の野生のネリネに似た花を、森の奥から採ってきて家中飾ってくれたりとか。

あと、元の世界で言うギターと同じくらい、若者にメジャーな楽器である竪琴を胸に抱えて弾き鳴らし、誕生日を祝う歌をちょっと照れながら歌ってくれて。

誕生日のプレゼントも決して高価では無いけれど、思い出の花である白いハヨルクをガラスの中に閉じ込めたお揃いのペンダントをくれたり。

そういった手作りの、素朴な誕生日が心に染みて好きだったから。

まあ、皆に祝ってもらえるのが、決して、イヤというわけではないのだけど…。
でも、ぶっちゃけ歳が歳じゃん。大々的に公表されて祝われるのも、ねえ。

「…そうなんですか?」
遠慮がちに喜びを浮かべてマクミランが俺を見る。
「いつも、あまり大したお祝いが出来なくて、申し訳ない気持ちだったのですが…。それこそ義兄さんに頼めば、もっと豪華な席を設ける事も出来はしたんですが、そうなると義兄さんが仕切りたがりそうだし…」
ギクシャクと言い訳のようなことを語り出したから、思わず抱きついてキスで黙らせた。

「君が俺のために用意してくれた、唯一無二のお祝いの席だよ?世界一に決まってるよ。何の不満もないよ。満ち足りて、しあわせが溢れて、どうしていいのか分からなかったくらいだよ」

「…そう思ってもらえていたんなら、嬉しいです…」
照れくさそうにはにかみながらそう答える彼にもう一度唇を重ねる。


今度は、触れるだけでは無く舌を絡めてまさぐるような、貪るような。濃厚な甘いキス。
途中からは、いつものように彼の舌技に痺れて腰砕けになってしまう。
膝の力が抜けて、崩れ落ちそうになったところを抱きとめられて、やっと解放される。
ああ、体の芯が熱くなって、このままなだれ込んでしまいたくなる。
そんな欲望を必死に押さえ込んで、彼の胸にもたれかかってしばらく息を整えた。

「でも、今回は頑張るよ。欲しいものができたから」
「…まさか、あの時言っていた“おんせん”ですか?」
ウンと頷いて体を離し、たわいもないお喋りをしながら夕餉の下ごしらえだけして、先に風呂に入った。

入りながら、自分の肌をなぞってみる。
やっぱり20代の頃とは違う。10代の頃なんかと比べれば言うにおよばずだ。
…でも。

思ったんだが。
元の世界でも別に俺は、比較的容姿は悪くなかった方だと思う。
でも、そんなにか?とも思うのだ。
自分としては、中のやや上…くらいかな、と言う認識だ。

ひょっとするとこれは、召喚者が元の世界から世界線を飛び越えてくるときに、チート能力を授かるのとセットで、多少美化をかけて貰っているのかもな…なんて思った。
こちらの世界の鏡のせいか、確かに前の世界に居たときより、若干綺麗になって居る気はする。

まあ、どう見ても俺なんだけど。

俺からすれば、この世界の人々の方がよほど美男美女が多い。
そんな中で、俺が美しいとか言われるのってどうなのよ。

まあ、それはともかく。
俺ももう34だ。
この世界は成人が早いから二十歳越えてたらだいたい既婚者という。お貴族様なら早め推奨だからかなりの割合で。
後宮の妃達も10代で輿入れするのが普通だった。
そうなると34歳となると、もう子供の婚約者を決めているか結婚の準備しているかだ。
30代後半ともなると、孫のことを考える頃合い…?うわっ…。

今が忙しいというせいもあるが、何だか召喚されてすぐの頃に比べたら、当然ながら疲労感が取れにくくなってきているのを実感している。

温泉は今の俺には必須だろう。

幸いシャンド王国のクラーケン討伐の報賞で授かった、お米と海辺の別荘のおかげで白飯と刺身は確保出来た。地元の失業者などに指導して、干物を作らせたりもしている。
そして、今は生産職の研究員に頼んで日本酒を作って貰っている。醤油と米酢もだ。
今はビネガーで代用しているけど、酢飯はやはりビネガーだとちょっとな。
天ぷらがドーナツの油で揚がっていたらビミョーな気分になるのと一緒だ。

とにかく。
命の洗濯に必要そうな物は揃いつつある。
最後の大詰めが!…そう。温泉だ!

浴衣も作って貰うことにしよう。

ミランの湯上がりの浴衣姿。絶対色っぽい。
干物とか刺身を肴に熱燗を差しつ差されつ。
良い感じにほろ酔い気分になる頃には少し浴衣が着崩れてきたりなんかして。

ああぁあッ!!

ヤバい俺。
こういう発想がもう既におっさんじゃねえ?

思わず俺は両手でお湯を掬って顔を洗った。
駄目だ。
アンチエイジングのためにも、温泉は必須だ。

視察だ。
明日でも明後日でも、できるだけ早いうちに。
現地を見たうえで、ある程度のイメージを相談する。

ああでも、なんかまた、フリーネン義兄さんを儲けさせてやる話になっちゃうな~なんて悦に入る。

ちょっとテンション上がる。
この世界にもスパセンターを作るゾ。

異世界初の温泉オーナーに、俺はなる!
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