俎上の魚は水を得る

円玉

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#016 最高の“プレゼント君”

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うっすらと意識が戻ると、既に身支度を調えたマクミランがいた。
俺が目を覚まして、もぞ付く気配を感じると、直ぐにベッドに寄ってきた。

「大丈夫ですか?」
「…うん。大丈夫…」

そう答える俺の目の前に果実水が差し出された。体を支えて飲むのをサポートしてくれる。

既に介護されている気分だ。
確かにいつもに比べれば回数は少なかったし、自宅にいるときよりは遠慮があったといえるだろう。
だが、バラ風呂によって色々と、色々なものの上昇が早かった気がする。

やばいな。
絶対に温泉の湯の中ではああいうお戯れはダメだな。
やめといた方が良い。

残念だ。
星空を眺めて、温泉に浸かりながらイチャイチャする。
それは男のロマンだろう。

あ、でも、露天風呂は屋外なんだから、時折外気で冷ましながらなら…。
いや、そんな冷静な対処ができるのか?あの状況になったときに。俺。

ぐるぐるとそんなアホみたいな事を結構真剣に悩んでいたら、マクミランが心配げに覗き込んできた。

「本当に大丈夫ですか?…なんなら、もう少し休みますか?」
その言葉が終わらないうちに俺の腹の虫が鳴った。
瞬間彼の形の良い唇に微笑みが乗った。

俺が洗面している間に、侍従のように新しい服を持ってきて、甲斐甲斐しく着衣の世話も焼いてくれた。
これも“プレゼント君”の仕事らしい。

「『ミクラさん』は封印したの?」
 少し屈んで俺のボタンをはめてくれていた、ミランの髪を軽くいじりながら訊いた。
バラ風呂からベッドコースの中で、『タカシさん』は出たけど『ミクラさん』は出なかった。
やっぱり外泊だとちょっと遠慮があるのかな、とも思ったけど、よく考えたらお城では出たんだよな。

「…だって」
ボタンをはめ終わって立ち上がった時に、少し拗ねたように目をそらされた。
「皆さん、普通に呼んでらっしゃいましたし」

ん?
皆さん?

「………」

暫し沈黙した後で、あ!と思い出した。
「え?アレ?…あの、仙元さんと榊さんとの…」
確かにあの二人は普通に俺の事『三倉さん』て呼んでいた。
でも、日本人なら普通だ。
そもそも向こうも元々は召喚神子なんだから『神子様』って呼ぶのも変だ。

「や、でも、元の世界ではアレが普通だから。逆にあまり親しくない相手だからこそ家名に“さん”付けってのがね」

「俺だけに許された特別な呼び方だと思っていたのに…」

ブフォッと思わず吹き出してしまった。
笑われた事で、あからさまにショックを受けた顔をされたから、慌てて言い訳をした。

「ちっ、違うよ!言葉の内容を笑ったんじゃ無い!あんまり反応がかわいくて!そんな拗ねたみたいな顔して…いや、“みたい”じゃなくて、マジで拗ねたんだよな。んん…ぐふ」

ダメだ。また緩んでしまった。ちょっと彼が泣きそうになっているから収まれ、俺。

「あれは元の世界ではむしろ普通。だから仙元さんや榊さんにああ呼ばれても何とも感じないよ。
でも、ミランに呼ばれるとゾクゾクする。まあ、今となってはアレの時だけの呼び方になってるから余計にだけど…。…でもさ。…まあ、だから…」

俺は両手でミランの頬を挟んで背伸びしながら鼻の頭にちゅっとキスをした。

「重要なのは、なんて呼ばれるかじゃなくて、誰に呼ばれるか、なんだよ」

未だ納得できていない表情の、ミランの髪をかき混ぜるみたいに撫でながら「早く飯にしよう。腹減っただろ?」と催促した。

食事中もどこか釈然としていない風だったけれども、俺は時折襲ってくる萌え感情を堪えるのに必死だった。

あんなかわいい拗ねっ子発言、バラ風呂の中で聞かされなくて良かった。
あそこでぶちかまされていたら、俺、二重の意味でのぼせて鼻血吹いていたんじゃなかろうか。
ミラン…、恐ろしい子!

しかし…。
朝食というか、ブランチだけど…そこにも室内楽が付くんだね、義兄さん…。

そして、チェックアウト前には、何やらちょっと重めのプレゼントの箱。
持ち上げてみたときに、何となく液体が入っている瓶のようだったから「ワインかな?」と思った。

何でかきらびやかなワゴンに、生花のアレンジメント共々乗せて運んできたフロアマネージャーっぽい紳士が、撮影魔道具を構えて、俺がその包装を解くのを待っている。

まあ、そうだよな。
プレゼントは基本、もらったら直ぐに開けるもんだよな。

ガサゴソとしゃれたリボンを解いて開けると、ちょっとお高そうな瓶に入った白と黒の液体。
厳密に言えばシトリン色と限りなく黒に近い焦げ茶色の。

「おぉ!米酢と醤油だ!これもう商品化されるって事?コレ、第一号?」

はしゃぐ俺に、開けた箱を手前に傾けてカメラ目線をくれろと指示を出すフロアマネージャー。
…義兄さん…。

いやまあ、最高のプレゼントをもらったから良いんだけどね。

さあ、チェックアウトするか、と思ったら。
そのままホテルの庭園に誘導された。

そこには古代の神殿みたいな、石柱で囲まれた広めのバーゴラが設置されており、庭園を散策する宿泊客にとっての憩いの場のようだった。

そして、その場にはなんとも微妙な面々が揃っていた。

まず、エルンスト様。シモン様。仙元さん、榊さん。そして義兄さん。
テーブルから一歩離れたところに、建造省の副大臣とグリエンテ商会の建設部門の責任者。

俺とマクミランが近づくと、皆一斉に立ち上がって礼をとってくれた。

それぞれと一通り、互いに挨拶を交わし合ってから着席すると、流れるように執事風の接客係が茶を出してくれた。
テーブルの上には菓子も並んでいる。
どう見ても俺たちの到着を待っていた様子?

わー、じゃあ予め言ってくれよ!
知らなかったから、朝からバラ風呂とか、サカっちゃったじゃん。
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