俎上の魚は水を得る

円玉

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#018 その件スッポリ抜けてたわ

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「歴代の神子様達までがこうしてご賛同くださっているのですから、ウチとしては先日の話し合いで決着した計画よりも一回りほど大きくしても構わないと思いまして、暫定的ではありますが、新たな企画書を策定して参りました。」

義兄さんはノリノリだった。
以前の別荘規模よりはずいぶん温泉ホテルっぽい企画書を広げて、その場に居るエルンスト様やシモン様、建造省の副大臣などに対しての嬉々としたプレゼンを始めた。

シモン様も副大臣も最初から飛ばす事には、かなり抵抗しているものの、徐々に規模を広げていく分には構わないのでは無いかと、ずいぶん歩み寄りを見せ始めていた。

エルンスト様の気持ちとしては、最初から俺の希望に特段の反対はしていない。
ただ、実際に視察に行った者達が抱いた懸念を鑑みて折衷案を提示しただけだ。
それよりは、長い間ヒトが踏み込む事なく、経済利用が全くできずに居た地域が、それなりの活用法を見いだせるならば、まあ、試してみる価値はあるのでは無いかという感触だ。

今回、俺以外の召喚者の後押しもあった事で、この後の会議でも通しやすくなった模様。



「魔獣関連は問題ないのでしょうか」

ぼそりと背後からの声がした。
マクミランだった。

その言葉に皆が一斉にハッとした。

「確かに、自分は神子様のお言葉を全面的に信じております。神子様が仰るオンセンの有用性なども是非多くの民に広めていただきたいとも思っております。
歴代の神子様達の太鼓判もあるのであればなおさらであります。
ただ、神子様達が元の世界でオンセンを楽しまれていた際には、魔獣や魔物の心配は一切無かったのですよね?
魔物というものが存在しない世界だったとの事なので」

…あ、ヤバい。
その件、一切考えてなかった。

「そもそも、あの山間地域自体が、あの臭い湯気が発生して森が途切れていたり、池に魚が生息していなかったり…ということで、ほぼ人跡未踏の地とも言える状態でした。
そういった、ヒトが滅多に踏み込まない場所には、魔物の巣などがある場合が多いと言えます。
実際に先日視察に行った際、一山離れたところに谷があり、いくつかの魔物の影はありました。
さほど危険そうな物はいないと感じましたが。
無論ダンジョンのように棲み分けが可能な環境であれば何も問題は無いかと思います。
かつ、仮に生息地であったとしても、防壁や結界などで対策はできると思われます。
ただ、いずれにせよ、そちら関連の事前調査も必須では無いかと」

俺は頭を抱えた。
何よりも自分自身にあきれた。
神子としても、冒険者としても、全くダメダメだ。
この世界特有の大事な事を忘れていた。

スケベ心が突っ走るに任せて、夢が膨らんでドキドキでぐふぐふな事しか考えてなかったよ。
いやー、平和ぼけって言うか。お花畑って言うか。

でも、さすがは俺のミラン。
俺がダメなときにはちゃんとフォローしてくれるんだ。

「じゃあ、防壁を設置した際の費用設定も入れて、また試算を出してみるとしましょうか」
「では、周辺の魔物の調査など、騎士団に指示してもらいます」
計画書の地図を見ながら、義兄が言うと、シモン様が続けた。

その場がお開きになった直後に、シモン様は榊さんを呼び止めて「先程の菓子はどこで手に入るのでしょうか」と訊ねていた。
どうやらお気に召したらしい。

「アレは俺…私の手作りです。お気に召していただけたのでしたら、後日またお持ち致しますよ」
嬉しそうにシモン様と約束を交わしている榊さんの背後から、しきりとエルンスト様が「あー、おっほん、コホン」と咳払いをしていたものだから「あ、王弟殿下にも是非」と笑顔で言葉を継いでいた。

俺も、久々に温泉まんじゅうを食った勢いで、気がつけば色々な和菓子の味を思い出してしまっていた。

意を決して、思わず榊さんを追いかけて呼び止める。
なんでしょう?と振り返った榊さんに、俺は息を整えながら懇願した。

「お願い。みたらし団子作ってくれない?最近醤油ができたから」
横合いから仙元さんも「おぉー!」と拍手して喜んだ。

振り返ると、ちょっと離れたところでマクミランが心なし寂しそうに直立していた。

ああ、またやっちゃった。
ついついはしゃいで彼を置き去りにしちゃった。

「ごめんごめん、エンドファン仕込みのショーユで作るお菓子を頼んで来ちゃった。届けてもらったらミランも一緒に食べようね。ちょっと癖になるんだよ。もちもちしていてね」駆け寄りながら謝った。

仕方なさそうに苦笑しながら「お気になさらず」と小首を傾げた。

「思いがけず同郷の士と交流する機会を得れば、誰でもああなりますよ。実際、繁華街で昔の騎士仲間に出くわしたら、俺だってあなたを置き去りにして昔話で盛り上がってしまうと思います。…折角の機会なのですから、あなたが楽しそうなのが一番です」

優しいな。
思わず抱きついて彼の鎖骨にすりすりした。
そして、そのまま足元に魔方陣を展開して、一緒にハズレの村の自宅に転移した。

「おぉ、おかえりなさい!おつかれさまー」
庭に降り立つと、留守中、馬の世話をしてくれるように頼んでおいた牧童のジンデンが声をかけてきた。
留守中ウチの馬たちを面倒見て貰った事へのお礼を言いながら、王都の広場で手に入れてきた菓子の袋を渡した。

ジンデンが勤める牧場には彼以外にも牧童がいるし、牧場の家族もいる。
今回のウチの留守は長かったから、みんなで順番に面倒を見てくれていたらしい。
だからお土産の菓子は大袋でたっぷりある。
祭の時にしか売ってない、花の形の色んな味の菓子だから、ジンデンは喜色満面で抱えて行った。

久し振りに家に踏み入れると、懐かしい我が家の匂いがした。
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