21 / 30
#021 ヌシ様
しおりを挟む
硫化水素を含む湯気が、飛竜達に及ぼす影響を現時点では分かっていなかった事もあり、匂いの強い箇所ではあまり高度を下げずに旋回して観察した。
そのうちに一騎、手振りで合図を見せてから、植生のはげた部分を避けて、低木がちらつく原野に向けて降りていった。
乗っていた文官が酔ってしまったようだった。
それに続いて全員がその近くに降り立ち、一旦地上で休憩を取る事にした。
具合が悪くなった文官は俺が治癒した。
もともと、それほど乗り物酔いしやすい人では無かったからこそ、今回の任務に選ばれたらしかったのだが。
真っ直ぐに飛んでいた分には良かったが、速度が落とされたり、旋回しながら降下したり浮上したりの運動に少々参ったらしい。
どちらにしても、飛竜達にも少し休憩を与えたかったところだったと、マクミランも言っていたからちょうど良かった。
軽く水分補給や軽食を摂ったり、見える範囲でウォーキングしてリフレッシュを図る。
「いや、確かに噂通りの変な匂いですね。腐った卵のような…」
へえ。
こんなキラキラしたカリスマ的美貌の元帥閣下でも、腐った卵の匂いを知ってんだ、などと思ったりもした。
俺は一応、硫化水素ガスが、飛竜達に何らかの影響を与えては居ないかを探ったが、彼らの体調に特段の変化は無く、ほぼ人間と同じ反応と思って良かろうと判断した。
人間よりも体が大きい事で、悪影響の蓄積率も低いと思って大丈夫だとは思う。
念のために読み込んでみた“鑑定”でも、特段の注意事項は無かった。
無論臭いの濃いエリアには極力入らないようにするし、仮に入るならば空気の層の結界を施す必要があるだろう。
一度訪れて、大体の様子が分かっているシモン様が、ウォーキングついでにリオネス様に説明をしながら、あちこち案内をし始める。
大分距離をとりながら騎士達や文官達もついて回って、魔道具に記録をとったりしていた。
この辺りにも、真水の湧く泉もあったのだけれど、大事をとって飛竜達には水魔法で出した水を飲ませた。あと、インベントリから出したリンゴや肉類もあげる。
そうして、人間達も飛竜達も休憩を取っている間、俺とマクミランは原生林地帯全体の魔物や魔獣の生息状況を、かなり広範囲の索敵でざっくりと確認した。
まあ、それなりにいるはいる。
居そうだなと感じるところに普通に生息している。
彼らが迂回しなければ来られないエリアを拠点とするのが得策だろう。
無論、飛翔系の魔獣には無意味とも言えるが、地上を移動する多くの魔獣には有効だから。
ただ、ざっと見た感じ、彼らの殆どは原生林内である程度生態系が成り立っており、よほど妙な刺激でも無ければ攻撃して来そうでは無い。
実際に、あのメゾンのスタッフ嬢の地元での聞き取りでは、原生林近辺に時折猟師が鳥やウサギ、鹿などを仕留めに足を踏み入れるらしいが、それよって魔獣が暴走したりなどのトラブルは聞いた事が無いという事だった。
ただ。
最も奥深いところに、魔物とも違うものを感じる。
危険な気配では無かったが、少し気になった。
地元民に訊いて分かるだろうか。
それらの事をシモン様に話すと、近隣の村にも立ち寄り、その辺の聞き取りもしてみようという事になった。
一応、休憩を終わらせ、一旦原生林の周辺を上空から、索敵も含め遠目にもやや接近できるところは接近してみて観察し、魔道具に記録などを収めてから、いくつかの近隣の村に寄って、原生林に踏み込んだ事のある猟師や村人、言い伝えの類いをよく知る古老などからの聞き取りをして、帰路についた。
古老達の話から察するに、おそらくそれは地下深くに眠る“神竜様”の気配であろうという事だった。
いわゆる山を含む、この辺り一帯の“主”にあたる存在らしい。
なるほど、と思った。
そういった存在は大切に祀らなくてはいけないよな。
お山や土地の齎してくれる恩恵に常に感謝をこめて。
ならば、次に訪れるときにはお供物を持って来なくては。
祭壇をこしらえ祈りをこめて、土地の恵みを利用させてもらうお許しをいただく儀式をするべきだ。
開発の第一歩は道を整備する事という方針で、建造省とも折り合いを付けてあったが、それより先に、まずはヌシ様へのご挨拶が先だろう。
その日はそこまでで帰還した。
文官さん達を同乗させた王家の飛竜騎士団の面々と、元帥閣下ご夫妻というか…リオネス様とシモン様…は連れだって王城に向かい、俺とミランを乗せたディアナはグリエンテ商会の、ディアナのホームに戻った。
「ご苦労様!ディアナ。また行く事になると思うけどよろしくな」
何度も首を撫でて、いくつもリンゴをあげて労った。
茜色の残照も藍色に変わった空に向かって、キャオと可愛い鳴き声が響いた。
その夜は義兄宅に泊まり、来たときと同じように馬で翌朝ハズレの村に帰った。
ハズレの村に戻って数日後に魔の森から数十頭の群れの大角岩山羊と10頭前後のフェンリルの群れ、それに刺激を受けたホーンボアが村に向かって疾走してくるのが確認された。
ただ、季節的に村に滞在している冒険者パーティも多く、彼らのためにも多めに確保していた武器の在庫も多く、投石機や弩弓砲などの兵器も準備万端だった。
問題があるとすれば陽が落ちてきて、戦闘時には宵闇になる事だったが、俺や魔法に特化した先達達の指導で、コントロールを覚えた婦人や子供達が展開した照明魔方陣などのおかげで、そのマイナス面を埋め、最小限の負傷者、最小限の防塁や囲壁の破損で済んだ。
終わってみれば大漁という事で、村人も冒険者達もホクホクだ。
俺とミランは極力、直接的には手を出さず、本当に危ない局面だけフォローするにとどめた。
そのうちに一騎、手振りで合図を見せてから、植生のはげた部分を避けて、低木がちらつく原野に向けて降りていった。
乗っていた文官が酔ってしまったようだった。
それに続いて全員がその近くに降り立ち、一旦地上で休憩を取る事にした。
具合が悪くなった文官は俺が治癒した。
もともと、それほど乗り物酔いしやすい人では無かったからこそ、今回の任務に選ばれたらしかったのだが。
真っ直ぐに飛んでいた分には良かったが、速度が落とされたり、旋回しながら降下したり浮上したりの運動に少々参ったらしい。
どちらにしても、飛竜達にも少し休憩を与えたかったところだったと、マクミランも言っていたからちょうど良かった。
軽く水分補給や軽食を摂ったり、見える範囲でウォーキングしてリフレッシュを図る。
「いや、確かに噂通りの変な匂いですね。腐った卵のような…」
へえ。
こんなキラキラしたカリスマ的美貌の元帥閣下でも、腐った卵の匂いを知ってんだ、などと思ったりもした。
俺は一応、硫化水素ガスが、飛竜達に何らかの影響を与えては居ないかを探ったが、彼らの体調に特段の変化は無く、ほぼ人間と同じ反応と思って良かろうと判断した。
人間よりも体が大きい事で、悪影響の蓄積率も低いと思って大丈夫だとは思う。
念のために読み込んでみた“鑑定”でも、特段の注意事項は無かった。
無論臭いの濃いエリアには極力入らないようにするし、仮に入るならば空気の層の結界を施す必要があるだろう。
一度訪れて、大体の様子が分かっているシモン様が、ウォーキングついでにリオネス様に説明をしながら、あちこち案内をし始める。
大分距離をとりながら騎士達や文官達もついて回って、魔道具に記録をとったりしていた。
この辺りにも、真水の湧く泉もあったのだけれど、大事をとって飛竜達には水魔法で出した水を飲ませた。あと、インベントリから出したリンゴや肉類もあげる。
そうして、人間達も飛竜達も休憩を取っている間、俺とマクミランは原生林地帯全体の魔物や魔獣の生息状況を、かなり広範囲の索敵でざっくりと確認した。
まあ、それなりにいるはいる。
居そうだなと感じるところに普通に生息している。
彼らが迂回しなければ来られないエリアを拠点とするのが得策だろう。
無論、飛翔系の魔獣には無意味とも言えるが、地上を移動する多くの魔獣には有効だから。
ただ、ざっと見た感じ、彼らの殆どは原生林内である程度生態系が成り立っており、よほど妙な刺激でも無ければ攻撃して来そうでは無い。
実際に、あのメゾンのスタッフ嬢の地元での聞き取りでは、原生林近辺に時折猟師が鳥やウサギ、鹿などを仕留めに足を踏み入れるらしいが、それよって魔獣が暴走したりなどのトラブルは聞いた事が無いという事だった。
ただ。
最も奥深いところに、魔物とも違うものを感じる。
危険な気配では無かったが、少し気になった。
地元民に訊いて分かるだろうか。
それらの事をシモン様に話すと、近隣の村にも立ち寄り、その辺の聞き取りもしてみようという事になった。
一応、休憩を終わらせ、一旦原生林の周辺を上空から、索敵も含め遠目にもやや接近できるところは接近してみて観察し、魔道具に記録などを収めてから、いくつかの近隣の村に寄って、原生林に踏み込んだ事のある猟師や村人、言い伝えの類いをよく知る古老などからの聞き取りをして、帰路についた。
古老達の話から察するに、おそらくそれは地下深くに眠る“神竜様”の気配であろうという事だった。
いわゆる山を含む、この辺り一帯の“主”にあたる存在らしい。
なるほど、と思った。
そういった存在は大切に祀らなくてはいけないよな。
お山や土地の齎してくれる恩恵に常に感謝をこめて。
ならば、次に訪れるときにはお供物を持って来なくては。
祭壇をこしらえ祈りをこめて、土地の恵みを利用させてもらうお許しをいただく儀式をするべきだ。
開発の第一歩は道を整備する事という方針で、建造省とも折り合いを付けてあったが、それより先に、まずはヌシ様へのご挨拶が先だろう。
その日はそこまでで帰還した。
文官さん達を同乗させた王家の飛竜騎士団の面々と、元帥閣下ご夫妻というか…リオネス様とシモン様…は連れだって王城に向かい、俺とミランを乗せたディアナはグリエンテ商会の、ディアナのホームに戻った。
「ご苦労様!ディアナ。また行く事になると思うけどよろしくな」
何度も首を撫でて、いくつもリンゴをあげて労った。
茜色の残照も藍色に変わった空に向かって、キャオと可愛い鳴き声が響いた。
その夜は義兄宅に泊まり、来たときと同じように馬で翌朝ハズレの村に帰った。
ハズレの村に戻って数日後に魔の森から数十頭の群れの大角岩山羊と10頭前後のフェンリルの群れ、それに刺激を受けたホーンボアが村に向かって疾走してくるのが確認された。
ただ、季節的に村に滞在している冒険者パーティも多く、彼らのためにも多めに確保していた武器の在庫も多く、投石機や弩弓砲などの兵器も準備万端だった。
問題があるとすれば陽が落ちてきて、戦闘時には宵闇になる事だったが、俺や魔法に特化した先達達の指導で、コントロールを覚えた婦人や子供達が展開した照明魔方陣などのおかげで、そのマイナス面を埋め、最小限の負傷者、最小限の防塁や囲壁の破損で済んだ。
終わってみれば大漁という事で、村人も冒険者達もホクホクだ。
俺とミランは極力、直接的には手を出さず、本当に危ない局面だけフォローするにとどめた。
85
あなたにおすすめの小説
【完結】俺の顔が良いのが悪い
香澄京耶
BL
顔が良すぎて祖国を追い出されたルシエル。
人目を避けて学院で研究に没頭する日々だったが、なぜか“王子様”と呼ばれる後輩ラウェルに懐かれて――。
「僕は、あなたそのものに惚れたんです。」
重くて甘い溺愛攻め × こじらせ美形受
おしまいのそのあとは
makase
BL
悪役令息として転生してしまった神楽坂龍一郎は、心を入れ替え、主人公のよき友人になるよう努力していた。ところがこの選択肢が、神楽坂の大切な人を傷つける可能性が浮上する。困った神楽坂は、自分を犠牲にする道を歩みかけるが……
偽りベータの宮廷薬師は、氷の宰相に匂いを嗅がれ溺愛される
水凪しおん
BL
「お前の匂いがないと、私は息ができない」
宮廷薬師のルチアーノは、オメガであることを隠し、自作の抑制薬でベータと偽って生きてきた。
しかしある日、冷徹無比と恐れられる「氷の宰相」アレクセイにその秘密がバレてしまう。
処刑を覚悟したルチアーノだったが、アレクセイが求めたのは、ルチアーノの身体から香る「匂い」だった!?
強すぎる能力ゆえに感覚過敏に苦しむ宰相と、彼の唯一の安らぎとなった薬師。
秘密の共有から始まる、契約と執着のオメガバース・ロマンス!
片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー
エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。
生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。
それでも唯々諾々と家のために従った。
そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。
父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。
ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。
僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。
不定期更新です。
以前少し投稿したものを設定変更しました。
ジャンルを恋愛からBLに変更しました。
また後で変更とかあるかも。
完結しました。
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる