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#022 神子の会のお茶会
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考えてみればハズレの村だって、魔の森があり、そこに生息している魔物やら魔獣と、普段はある程度の棲み分けが出来ているのだ。
それが何かの刺激で突発的に暴走が起きる。
その原因が何かはよく分からない。その時その時でまた違うのかも知れない。
では、温泉地として開発しようとしているチノ山原生林地帯の魔物達でも同じ事は言えるのでは。
楽観視して進めるのは危険だろう。
だとするならば、最初は拠点予定地までの街道敷設工事からだが、現場に本腰入れた結界は張っておかなくてはいけないな。
俺達はまた暫く村を出て、ストグミク市を拠点に数日間、チノ山原生林地帯へと視察に行くことにした。
「だいぶ深く眠っているようですね」
現場で“神竜”様の気配に意識を集中して確認した後、ミランの言葉に頷く。
それ以外もとても安定した気が漂い、植生のはげている部分以外は、長閑な原生林や原野だ。
野性の小動物なども生息している。草を分ける獣や梢を揺らす野鳥などの気配をそこここに感じる。
三日続けて視察して回った。
三日目。その日も無事、夕方にディアナのホームに戻ると、グリエンテ商会の若い子が俺に来客の報告に来た。
俺に来客?グリエンテ商会の事務所に?
そう思って導かれるまま応接室に向かうと、仙元さんと榊さんが居た。
「実はコレを持ってきたのですよ」
榊さんが彼のインベントリから、キレイに積まれたみたらし団子を出した。
「うわぁーーーっ」
思わず声が出た。
「そして、コレもね」
すかさず横合いから仙元さんが茶缶を出してきた。
開けて見てよ、と言われ、パカリと開けるとそこには緑茶の茶葉が!
缶を開けた瞬間に、既にもう懐かしい日本茶に近いお茶の香りがした。
「このお茶が、色々と試した中では最も日本茶に近かったんだよ。ほんの少し渋目だけどね。
でも、少し風味が落ちたら煎ると、ほうじ茶そのものになるし、そこそこ、お団子とかおまんじゅうにも合うと思う。お刺身には間違いなく合うね」
「わわ、ありがとうございます!!よく見つけましたね!ああ、やっぱり和菓子には緑茶ですよねー!」
その場で仙元さんがそのお茶を淹れてくれることになった。
メイドが淹れようとしたのを、「入れ方を伝授しますから」と言って、教えていた。
次からはきっと、グリエンテ商会に来た時には、緑茶をリクエスト出来るようになるだろう。
「で、どんな感じなんですか?温泉の進捗は」
みたらしとお煎茶もどきで、徒然に近況報告などしつつ、まったりしていたら、榊さんが訊いてきた。
「さっき王城の方で、統括執務室長様のところに温泉まんじゅうをお届けにあがって、ちらと聞きかじったんですけど、どうやらヌシ様がいらっしゃるようだとかなんだとか…」
「ええ、そうなんですよ。整備を始める前に一応、地鎮祭的なものは行おうとは思っていたんです。とにかく先ずはヌシ様をお祀りしないといけないな、と」
先輩神子達がウンウンと頷いていたのを、マクミランが不思議そうに見ていた。
“地鎮祭”というものも“ヌシ様”と言う概念も、日本人としては比較的普通なんだけど、この世界のマクミランには馴染みが無い。
一度、家で説明して「へえ…」という薄い反応をもらってはいるが、最低限の言葉で我々神子組が意識共有できているのを見て、きっと更に、無意識下の文化の違いを感じているのだろう。
どうやら気を遣ってくれたらしき仙元さんが、彼に説明を始めてくれた。
因みに、ミランは俺の護衛として付いていることになって居るから、本来ならば背後の方に直立しているはずなのだが、ここでも仙元さんが気遣って、ミランの分もお茶を淹れて、同席を促してくれた。
我々が生まれ育った元の国、日本では国家的な宗教というのは特にないんだけど、無意識下に八百万やおよろずの神ってのが浸透していて…とかなんとか。
「ヤオヨロズ」
「文字で書くと八百万て書くんだ。800万というのはとてもとても大きい数という意味合いで、本当に信仰している神々の数がちょうど800万柱居るという意味では無いよ」
ミランは目を見開いて「800万…」と呟きながら固まっていた。
人間の数より多いじゃ無いか、と思ったのかも知れない。
大きなものから小さなものまで、森羅万象全ての事象に神様が宿っていると言う考え方なんだよ、と言うと「むしろ精霊のようなモノなのでしょうか」と、思考を巡らせていた。
うん。どちらかというとそっちの方が近いよね。
だいたいドコの土地にもそこを護っている自然神が居て、それは時に長年その地にすむ蛇とかフクロウとか、狼とか、あるいは巨木とか巨石とか、そういった姿を依り代にしたりするとも考えられている。
だから、そのそういった生き物やその気配を『ヌシ様』として、つまり神の依り代として、決して害すること無く崇めてお祀りしなくちゃいけない。
おそらくぼんやりと、ミランにも伝わる部分が有ったらしく、虚空に目線を彷徨わせながら頷いていた。
「先ずは祭壇を築いて、祈りを捧げるとして…」
なんせ、ここには三人神子が集まっているんだから、三人で祈ろうかという話にもなった。
翌日はミランが、仙元さんと榊さんをディアナに乗せて現場に連れて行ってくれることになった。
俺は単独で現場に転移する。
仙元さんと榊さんも、一度行った場所であれば、その後は転移が出来るという事だった。だから、逆に帰りは仙元さんと榊さんは転移で帰宅して、俺とミランがディアナで戻る、と言った寸法だ。
ざっと、祭壇に捧げるお供物の一覧を書き出して、互いに持ち寄るモノを振り分けた。
ところが、その段階で王宮側から「待った」がかかった。
それが何かの刺激で突発的に暴走が起きる。
その原因が何かはよく分からない。その時その時でまた違うのかも知れない。
では、温泉地として開発しようとしているチノ山原生林地帯の魔物達でも同じ事は言えるのでは。
楽観視して進めるのは危険だろう。
だとするならば、最初は拠点予定地までの街道敷設工事からだが、現場に本腰入れた結界は張っておかなくてはいけないな。
俺達はまた暫く村を出て、ストグミク市を拠点に数日間、チノ山原生林地帯へと視察に行くことにした。
「だいぶ深く眠っているようですね」
現場で“神竜”様の気配に意識を集中して確認した後、ミランの言葉に頷く。
それ以外もとても安定した気が漂い、植生のはげている部分以外は、長閑な原生林や原野だ。
野性の小動物なども生息している。草を分ける獣や梢を揺らす野鳥などの気配をそこここに感じる。
三日続けて視察して回った。
三日目。その日も無事、夕方にディアナのホームに戻ると、グリエンテ商会の若い子が俺に来客の報告に来た。
俺に来客?グリエンテ商会の事務所に?
そう思って導かれるまま応接室に向かうと、仙元さんと榊さんが居た。
「実はコレを持ってきたのですよ」
榊さんが彼のインベントリから、キレイに積まれたみたらし団子を出した。
「うわぁーーーっ」
思わず声が出た。
「そして、コレもね」
すかさず横合いから仙元さんが茶缶を出してきた。
開けて見てよ、と言われ、パカリと開けるとそこには緑茶の茶葉が!
缶を開けた瞬間に、既にもう懐かしい日本茶に近いお茶の香りがした。
「このお茶が、色々と試した中では最も日本茶に近かったんだよ。ほんの少し渋目だけどね。
でも、少し風味が落ちたら煎ると、ほうじ茶そのものになるし、そこそこ、お団子とかおまんじゅうにも合うと思う。お刺身には間違いなく合うね」
「わわ、ありがとうございます!!よく見つけましたね!ああ、やっぱり和菓子には緑茶ですよねー!」
その場で仙元さんがそのお茶を淹れてくれることになった。
メイドが淹れようとしたのを、「入れ方を伝授しますから」と言って、教えていた。
次からはきっと、グリエンテ商会に来た時には、緑茶をリクエスト出来るようになるだろう。
「で、どんな感じなんですか?温泉の進捗は」
みたらしとお煎茶もどきで、徒然に近況報告などしつつ、まったりしていたら、榊さんが訊いてきた。
「さっき王城の方で、統括執務室長様のところに温泉まんじゅうをお届けにあがって、ちらと聞きかじったんですけど、どうやらヌシ様がいらっしゃるようだとかなんだとか…」
「ええ、そうなんですよ。整備を始める前に一応、地鎮祭的なものは行おうとは思っていたんです。とにかく先ずはヌシ様をお祀りしないといけないな、と」
先輩神子達がウンウンと頷いていたのを、マクミランが不思議そうに見ていた。
“地鎮祭”というものも“ヌシ様”と言う概念も、日本人としては比較的普通なんだけど、この世界のマクミランには馴染みが無い。
一度、家で説明して「へえ…」という薄い反応をもらってはいるが、最低限の言葉で我々神子組が意識共有できているのを見て、きっと更に、無意識下の文化の違いを感じているのだろう。
どうやら気を遣ってくれたらしき仙元さんが、彼に説明を始めてくれた。
因みに、ミランは俺の護衛として付いていることになって居るから、本来ならば背後の方に直立しているはずなのだが、ここでも仙元さんが気遣って、ミランの分もお茶を淹れて、同席を促してくれた。
我々が生まれ育った元の国、日本では国家的な宗教というのは特にないんだけど、無意識下に八百万やおよろずの神ってのが浸透していて…とかなんとか。
「ヤオヨロズ」
「文字で書くと八百万て書くんだ。800万というのはとてもとても大きい数という意味合いで、本当に信仰している神々の数がちょうど800万柱居るという意味では無いよ」
ミランは目を見開いて「800万…」と呟きながら固まっていた。
人間の数より多いじゃ無いか、と思ったのかも知れない。
大きなものから小さなものまで、森羅万象全ての事象に神様が宿っていると言う考え方なんだよ、と言うと「むしろ精霊のようなモノなのでしょうか」と、思考を巡らせていた。
うん。どちらかというとそっちの方が近いよね。
だいたいドコの土地にもそこを護っている自然神が居て、それは時に長年その地にすむ蛇とかフクロウとか、狼とか、あるいは巨木とか巨石とか、そういった姿を依り代にしたりするとも考えられている。
だから、そのそういった生き物やその気配を『ヌシ様』として、つまり神の依り代として、決して害すること無く崇めてお祀りしなくちゃいけない。
おそらくぼんやりと、ミランにも伝わる部分が有ったらしく、虚空に目線を彷徨わせながら頷いていた。
「先ずは祭壇を築いて、祈りを捧げるとして…」
なんせ、ここには三人神子が集まっているんだから、三人で祈ろうかという話にもなった。
翌日はミランが、仙元さんと榊さんをディアナに乗せて現場に連れて行ってくれることになった。
俺は単独で現場に転移する。
仙元さんと榊さんも、一度行った場所であれば、その後は転移が出来るという事だった。だから、逆に帰りは仙元さんと榊さんは転移で帰宅して、俺とミランがディアナで戻る、と言った寸法だ。
ざっと、祭壇に捧げるお供物の一覧を書き出して、互いに持ち寄るモノを振り分けた。
ところが、その段階で王宮側から「待った」がかかった。
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