俎上の魚は水を得る

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#023 儀式はちょい和風?

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我々神子達が『ヌシ様』と呼んでいる神竜様に対して、鎮めの儀式をするのならば、王家が素知らぬ顔をすることは出来ないという事だった。

祭壇の設えや、祈りの形式は俺達が決めて構わないけど、その式典には参列させろとの事。

え、コレって…。

誕生日の二の舞とか…?

どんどん大仰になるとかは、ホント勘弁して欲しい。

まあ、でも日本でも企業が新社屋を建設とかになったら、重役クラスの皆さんが揃って地鎮祭やるからな。

「いって20人くらいですかね。重役クラスと、あと施工業者の現場監督とか営業担当者。地主じぬし施主せしゅが違うときはどちらも、って感じですか?
それと神主かんぬし
それなりの規模だと神主が複数名だったりも見た気がしますが…。
まあ、神主に当たるのは我々三人で良いとして。
この場合、地主じぬしは国。
施工業者はグリエンテ商会。
施主せしゅは…施主って…この場合、国の建造省になるんですか?
それとも三倉さんになるんですか?」

神子会メンバーの3人がヒソヒソ相談した結果、やはりシモン様にお伺いを立てることにした。
そこで、シモン様に儀式の出席者を俺達やグリエンテ商会関係者も込みで、何とか20名以下までに絞り込んでくれとお願いした。

儀式の形式は俺達に一任されたから、どうせ神子が三人居るし、和のテイストも盛り込んじゃうことにした。

王家やグリエンテ商会の担当者との調整が必要だったこともあり、結局地鎮祭は5日後になった。

その分、支度に時間がある程度かけられたから、俺達は義兄の配下の工房に頼んで鈴を作ってもらった。

ホラ良く、巫女さんが、巫女舞いで使う鈴、三番叟鈴っていうんだっけ?…アレみたいなものを作って欲しいと。

でもこの世界には、日本ではお馴染みの猫の首輪に付けるみたいな、あの形の鈴って無くて。
だから、ああいうシャンシャン綺麗な音が出れば良いという事で、手に持って振る事が出来る、携帯用ウインドチャイムのようなモノを作ってもらった。

そして、中振り袖が付いているようにも見えるケープ付きの白いローブを羽織った三人の神子が、巫女さんみたいに輪になってその鈴を振りながら回るのをやろうと言う話に。

当地の穀物や果物、酒、魚、肉、菓子、穀物の加工品(日本でいうモチにあたるモノという事でパン)などをお供えした祭壇前で。

アレもやるよ。小山を築いて、鍬やスコップで「エイ、エイ、エイッ」とかけ声かけて打ち込むヤツ。
そして、辺りにお酒を撒くんだ。





…と言うわけで、5日後にそれなりにお偉いさんと言って良い面々が揃う中、その儀式を執り行った。

あのみたらしのお茶会の翌日は、結局仙元さんと榊さん加えての、現地確認だけで戻った。当初はその際に祭壇築いてパパッと地鎮祭も、と思っていたのだけど。

そうそう。その時にはやはり仙元さんと榊さんも、神竜様の気配をちゃんと感じた。
で、俺とミランが数日前に行ったときよりも、少し気配が強まっていた気がする。

ずっと誰も足を踏み入れてなかった土地に、ここ最近になって人間共がわちゃわちゃ動き回るようになって、少し目が覚めかけているんだろうか。

少し不安だけど。
でも、気配としては邪悪な感じでは無いんだよな。害意とか攻撃的な波動は一切無い。



まあ、そんなこんなで、祭壇を築いて、一連の祈りの儀式を実施した。

おっさん3人の巫女舞ならぬ神子舞いが、こちらの世界の人々には不思議と神聖にして神秘的に感じたらしく、終わった瞬間、見ていた皆さんから溜息と共に拍手を頂いた。

神子舞いはミランもいたく気に入ったらしく、思い出しては「美しかったです。素晴らしかったです。異世界の儀式はなんて典雅なのか」と何度も言っていた。
本当はうら若き乙女達が舞うものなのに、おっさん三人でゴメンなと、ちょっとした罪悪感を感じたよ。

因みに、祭壇のお供物には、大皿いっぱいにピラミッド積みした温泉まんじゅうもドドンとお供えした。

そうしたら、不思議な事があったんだ。

一連の地鎮祭の儀式は午前中に終わって、ちょうどお昼時だったんで、俺達は一旦そこで昼食休憩を取った。

持ってきたお弁当を平らげて、少し腹ごなしに辺りを散策する者も居た。
その場で図面を広げて、果実水を飲みながら熱心に話し込んでいる一団も。

そうして軽く、何度目かの現地視察も兼ねた時間つぶしをしたのち、一応屋外に放置とは行かないから、祭壇は片付けようということになった。

酒樽が空になっていたんだよ!
そして!
パンと温泉まんじゅうが消えていた!

祭壇が設えられている場所は源泉のある山に向けて、少し植生がはげかけていた所だったから、硫化水素臭を避けて、我々が昼食休憩を取った場所は10分近く離れた草原だった。

誰も見ていない間に消えたんだよ。

でも、そんな神竜様クラスの大物が動いたら絶対気配で分かる。
少なくとも神子である俺達には分かるはずだ。

でも何も感じなかった。

後で片付けにいった建造省やグリエンテ商会の者達とも、みんなで首を捻った。

「きっと、精霊様達が“ヌシ様”の元へとお給仕してくれたんですよ」
なぜかほんわかと幸せそうにミランが言った。
夢見る子供のように頬を染めて遠い目をして。
何そのピュアピュア無垢無垢攻撃!可愛すぎてコワッ!

しかものままの作物…穀物とか果物とか、あとは魚と肉などは、ちょっと不自然なほど萎びまくっていた。
そのものと言うよりはそれらの精気のようなものを吸い取られたんだろうか?
萎びた品々はそのまま土に埋めた。

実際に消えたのは酒・パン・菓子という加工品ばかり。

どうしてだろう?

何にせよ、ヌシ様が美味しくお召し上がりになったならよかったと思う。


――――――――――――――――――――――――――――――

「地主」と「施主」が紛らわしいのでルビ振りました。

ついでに「神主」も振ったのは「○主」という熟語が多すぎたので、念のために。
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