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唇
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昼休み。
普段と何一つ変わりない正午のひと時。
わずらわしい教室が苦手だと逃げてきた屋上には二人しかいない。
フェンスに寄りかかるようにして座り込んだ二人は弁当を広げて昼食をとる。
敦の隣に座る陵が口を開いた。
「そういえばさ、俺、昨日、あんたとキスする夢見たわ」
「はぁ!?」
唐突に落とされた爆弾発言に敦は、大声をあげた。勢いのままに立ち上がったはいいが、衝撃に頭の中真っ白になり、次の動作が出てこない。ただ呆然と立ち尽くしていた。
キス? 俺と??
一瞬の混乱が過ぎれば、脳回路の渋滞も解消される。
「ばか、お前、まじになってんなよ」
けらけらと笑う陵の姿を見て、緊張がほぐれてくる。
「……なんだよ、夢の話かよ」
ドキドキと心臓を弾ませながら、深く息を吸い込み、敦は再び座り込んだ。
まずい。――と、いうのも、最近妙に陵のことが気になる。
いや、正確にいえば、彼の唇が問題なのだ。
先週の放課後、陵と他の友人たちと下校中、妙な話になった。陵が今話題になっている女性アイドルに似ているという話題。
そんなことないと反論する陵だったが、彼は女顔だ。去年の学園祭で女装させられた男子の中で唯一女装が似合った男子生徒である。
「特にさ、唇とかやばくね」
「わかる。口元劇似」
「ちげえって、ばか」
次々に陵を茶化す同級生どもの言葉。
そうか? そんなに口元が似てるのか? そう思って、陵の口元を意識して見てしまったのが間違いだったのかもしれない――。
「おい、敦? どうしたんだよ、急に黙って」
「あ、いや、すまん」
回想にふけっていた敦は陵の声で現実に戻った。
「何? 俺の顔、なんかついてる?」
「い、いや別に」
陵を――正確には彼の口元を――凝視していたことに気が付いて、慌てて視線を逸らした。
「大丈夫か? さっきから大声だしたり、ぼーっとしてたり」
「い、いや、だってさ、妙なこというもんだから」
「あー、確かに。俺もどうせキスするなら、もっとこう、いい匂いのする美少女がいいわあー」
はははと笑って見せて、内心ではお前が言うとそれ以上の美少女なんてなかなかいないんじゃないの、とも思う。陵は女子受けがいいが、彼より可愛い女はなかなかいない。そう思うと――。
「な、いいか、妙なこと、聞いて」
「ん?」
「お前、俺とキスしたとき、どう思った?」
「どうって? いや、うーん、へーって感じ」
「へーって?」
「へー、なるほどー、これがキスかー。そう思ったら目覚まし鳴ってうるさくて起きた。……え、何? 興味あんの?」
薄ら笑いを浮かべて聞いてきた陵。降り注ぐ陽光を浴びて輝く存在に、脳の一部が溶けだしそうだった。敦は無意識に彼に身体を寄せた。
「ある」
小さく答えて、そっと重ねてみる。
一瞬触れるだけのそれは、感覚という感覚も感触という感触も大して感じなかった。
「え」
目を丸くしてこちらを見つめてくる陵から、これ以上彼を見ていてはならないと敦は視線を逸らせた。
「予知夢だったのかもな」
苦し紛れにそうつぶやいて、頭上の空を見上げる。
あー、どうすんだこれ。
無意識にしてはかなりの重罪だ。
それにしても、なんつーか。
味の分からなかったファーストキスが腐れ縁の同級生だなんて。
どうしてくれるんだ、これ。
きっと重ねても何も始まらない。そう分かっているから安心もするし、妙に虚しい気もする。
蝉の声が聞こえてきた。(了)
普段と何一つ変わりない正午のひと時。
わずらわしい教室が苦手だと逃げてきた屋上には二人しかいない。
フェンスに寄りかかるようにして座り込んだ二人は弁当を広げて昼食をとる。
敦の隣に座る陵が口を開いた。
「そういえばさ、俺、昨日、あんたとキスする夢見たわ」
「はぁ!?」
唐突に落とされた爆弾発言に敦は、大声をあげた。勢いのままに立ち上がったはいいが、衝撃に頭の中真っ白になり、次の動作が出てこない。ただ呆然と立ち尽くしていた。
キス? 俺と??
一瞬の混乱が過ぎれば、脳回路の渋滞も解消される。
「ばか、お前、まじになってんなよ」
けらけらと笑う陵の姿を見て、緊張がほぐれてくる。
「……なんだよ、夢の話かよ」
ドキドキと心臓を弾ませながら、深く息を吸い込み、敦は再び座り込んだ。
まずい。――と、いうのも、最近妙に陵のことが気になる。
いや、正確にいえば、彼の唇が問題なのだ。
先週の放課後、陵と他の友人たちと下校中、妙な話になった。陵が今話題になっている女性アイドルに似ているという話題。
そんなことないと反論する陵だったが、彼は女顔だ。去年の学園祭で女装させられた男子の中で唯一女装が似合った男子生徒である。
「特にさ、唇とかやばくね」
「わかる。口元劇似」
「ちげえって、ばか」
次々に陵を茶化す同級生どもの言葉。
そうか? そんなに口元が似てるのか? そう思って、陵の口元を意識して見てしまったのが間違いだったのかもしれない――。
「おい、敦? どうしたんだよ、急に黙って」
「あ、いや、すまん」
回想にふけっていた敦は陵の声で現実に戻った。
「何? 俺の顔、なんかついてる?」
「い、いや別に」
陵を――正確には彼の口元を――凝視していたことに気が付いて、慌てて視線を逸らした。
「大丈夫か? さっきから大声だしたり、ぼーっとしてたり」
「い、いや、だってさ、妙なこというもんだから」
「あー、確かに。俺もどうせキスするなら、もっとこう、いい匂いのする美少女がいいわあー」
はははと笑って見せて、内心ではお前が言うとそれ以上の美少女なんてなかなかいないんじゃないの、とも思う。陵は女子受けがいいが、彼より可愛い女はなかなかいない。そう思うと――。
「な、いいか、妙なこと、聞いて」
「ん?」
「お前、俺とキスしたとき、どう思った?」
「どうって? いや、うーん、へーって感じ」
「へーって?」
「へー、なるほどー、これがキスかー。そう思ったら目覚まし鳴ってうるさくて起きた。……え、何? 興味あんの?」
薄ら笑いを浮かべて聞いてきた陵。降り注ぐ陽光を浴びて輝く存在に、脳の一部が溶けだしそうだった。敦は無意識に彼に身体を寄せた。
「ある」
小さく答えて、そっと重ねてみる。
一瞬触れるだけのそれは、感覚という感覚も感触という感触も大して感じなかった。
「え」
目を丸くしてこちらを見つめてくる陵から、これ以上彼を見ていてはならないと敦は視線を逸らせた。
「予知夢だったのかもな」
苦し紛れにそうつぶやいて、頭上の空を見上げる。
あー、どうすんだこれ。
無意識にしてはかなりの重罪だ。
それにしても、なんつーか。
味の分からなかったファーストキスが腐れ縁の同級生だなんて。
どうしてくれるんだ、これ。
きっと重ねても何も始まらない。そう分かっているから安心もするし、妙に虚しい気もする。
蝉の声が聞こえてきた。(了)
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