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・屋敷編

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「おにぃさぁん、ねえ、おにいさんってばぁ!」
 がしがしと身体が揺れる。いや、揺さぶられているのだ。青年は、うっとおしいその手を振り払った。だが、何度でもその手がからみついてくる。
「ねえ、いつまで寝ているつもりだい? ったくもお、ねえ、起きてってば!」
 もう、やめてくれ。疲れているんだから……。だが、なんだろう。この声は、聞き覚えがある。
 青年は、まぶたを持ち上げた。すぐに、くっつきそうになる目の上の皮は、視界に飛び込んできた者の存在に、大きく見開かれた。
芹那せりな!」
 青年は、彼の名前を呼んだ。しかし、その声は小さく、かすれていた。彼は喉にひりついた痛みを覚えた。
「どうも。昨日はさんざんだったんだって? 身体からだは大丈夫?」
 青年は、起き上がろうとして、ずきりと痛んだ頭を抱えた。
「まあ、うん。まわされたあとは、そうなるわな」
 可憐な表情の彼は、うんうんと、ひとりで何かに納得して、うなづいた。
「朝食をとってきてやろう。少しでも腹にいれたほうがいい。……どこか痛いところは?」
「あ……いや」
「腹痛はある?」
 青年は首を横にふる。
「頭痛だけだ」
「じゃあ、痛み止め、もらってきてあえるから。はい、じゃ、ゆっくりしているんだよ」
 少年に促されて、青年は、横になった。布団の上のひとになると、天井と目があう。木製の板がこちらを見つめていた。
 そっと横を見れば、畳張りの室内が見える。障子からは光がさしこんできていて、目にあたたかい。
 何時だろうか。
 少年に聞きそびれて、青年は、首をひねった。もう正午をすぎているだろう。午後の太陽の優しさが、室内に入りこんでいる。
 青年はふうと、ため息をついた。なんとなく、居心地が良い。そのまま、布団に沈みこんでしまおうと思った。
 だが、脳内で、鮮烈な映像が浮かび上がって来た。
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