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・屋敷編
3.
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日が暮れ始めると、世間とは真逆でこの『屋敷』は活気を増し始める。どこからやってくるのか、仕立ての良い衣服に身を包んだ紳士たちが、次々に、この豪華な牢獄のなかへと吸い込まれていく。
室内では、準備を終えた花々が次々と座敷の中で嬌声を上げ始めていた。だが、まだ支度の整っていない組がひとつ、ある。
「く、くそ……っ! 離せ!」
黒服の男たちの群れの中から、青年の声が響きわたった。彼ら使用人が数人がかりで取り押さえているその間から、何度も反抗の声があがる。
いや、叫び声だけではない。彼は全身でその意を表明した。顔を殴られた使用人が、怒りに任せて、青年をぶった。
皮膚を打たれる鈍い音が部屋じゅうに響き渡った。花たちの寝起きのための部屋だ。ここに客も主人もいないことが幸いした。だが、売り物である花に手を上げるというのは、法度だ。
「よせ」
一度殴っただけでは気が済まない使用人に対して、彼の手首を別の使用人が掴んでそうたしなめた。
「これはご主人さまのお気に入りだぞ」
そう言われて、使用人の顔色が変わった。この『屋敷』の絶対規則であり王者である藤滝美苑が、なぜかわからぬが、この青年をいたく可愛がっているのだ。
否、可愛がっている、というより、脱走癖があり、反抗的なこの青年には手を焼かされている。
だが、平常の彼であれば、手を焼かす花に対して容赦がない。ここで売買されている媚薬を適量以上にあえて仕込んで、与えられる快楽なしでは生きていけないような身体にしてそういう売り物として売り出す。
いつかはこの青年も薬漬けにされるのであろうと考えていた使用人たちだったが、いまだに彼を漬物にせよと命令は下っていない。それどころか、金にならない彼に与えられた部屋は、主人が気に入っている花たちが寝起きしている部屋である。あげくの果てに、主人自ら調教と称し、彼を味わってさえいる。
この状況に、危機感を覚えて青年に必要以上に冷たくあたる使用人さえいた。だが、そうと発覚ししだい、主人の沙汰で彼らは別の部屋へと飛ばされる。
愛でられているわけではない。あくまで、売る者と売られる者の関係だ。けれど、あきらかに特別扱いをされているこの青年に対して、主人がどう沙汰を下すのか、想像がつかない。
下手に手をうったら、自分の首を絞めることになるかもしれない。だから、彼ら使用人のなかでさえ、この手のつけられない青年ひとりに手を焼かされる。
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