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・屋敷編

8.

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 そこで待ち受けていた彼の姿を見つけて、弥助は、一瞬で顔色を変えた。さっと、身構えたが、遅かった。
「ずいぶんと、待たせるな」
 男の腕が、青年を掴んだ。その手をふりはらおうとして、周囲の視線に気が付て、青年は黙り込んだ。
 ここの――屋敷の中の小さな世界では、この端正な顔立ちの冷徹な男こそが、その名のとおりボスなのである。
 行きかう花売りたち、使用人たちが、ちらほらと視線をこちらに向けてくるのだ。
「ここではやはり目立ってしまいますね」
 芹那が苦笑した。





「ん……っ、ふ……」
 主の書斎から、微かに男の呻き声が聞こえてくる。中では人影がからまりあい、そこから濡れそぼった水音が立つ。
「く……、もう」
 苦し気に息を吐いた青年を追い立てるように、少年が、じゅるりと彼の幹を吸い上げた。激しく音を立てて吸い上げられれば、青年もなすすべなく陥落する。彼の形の良い唇の奥へと、自身の欲望を発射させた。
「あ、ああ……」
 解き放たれた青年はしばし雄の快楽に身をゆだねて、放心した。日頃、客を相手にしているかいあってか、芹那の口技は、深いエクスタシーを彼にもたらした。
 だらしなく横たわった青年の髪を男の指先がもてあそぶ。弥助が、彼の名を呼ぼうとした瞬間、触れるだけの指が凶暴な本性をあらわにして、彼の頭をわし掴んで、顔を上に向けさせた。
 快楽にとろけた顔を見降ろせして、薄気味わるく男が笑っている。
「芹那」
 主に名を呼ばれ、青年の発したものを嚥下して、彼は返事をした。
「……はい」
「もういい、下がれ」
「……!」
 じり、と少年の身体の奥の小さな火が揺れた。青年の痴態に煽られて、彼自身も燃えていたのだ。
「どうした? 聞こえなかったのか?」
「い、いえ……」
 芹那は慌てて、自身の着物を正すと、さっとたちあがった。
「失礼いたします」
 主人の言いつけは絶対だ。部屋をあとにしたあとは、手ごろな使用人でもつかって発散すればいい。
 藤滝に礼をつくして、部屋を出たあと、廊下にいた若い使用人に芹那は声をかけた。
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