265 / 281
・屋敷編
Thuー02
しおりを挟む
「……ふ、藤滝」
そこに佇んでいた男の姿をみて、きりっと胸がいたんだ。屋敷の主たる男だ。そんな彼の隣に、恰幅のいい男が立っていた。
「あ、昨日の!」
あのとき相手をした壮年と目があった。彼は、いかにも男らしい笑みを浮かべて、青年に手を振った。
「ああ、どうも、昨日はよかったぞ」
そのひとことで、昨夜のことを身体が思い出してしまい、カッと頬が熱くなった。
「んな、なんで!?」
なんで、客が昼間に、しかも、屋敷の主と一緒にいるのだ?
「……やっぱり、お前か」
ほがらかな態度の男と違って、藤滝はいかにも不愉快そうな表情だった。
「面倒なことを持ち込みやがって」
小言を吐くように藤滝が無表情でつぶやく。
「これを見ろ」
近くで控えていた使用人が持っていたアタッシュケースを目の前で開いた。中から何かが床に零れ落ちた。入っていたのは、札束だった。
「うわ、な、え? これ、お札?」
鞄のなかにパンパンに入っていたお札を見て、青年は目を丸くした。こんな量のお金を人生で一度もみたことがない。初めての光景だ。これだけあれば屋敷を抜けられるのではないか。ふとそんなことを思った。
「……まだ足りないけどな」
藤滝が青年の思ったことを察知して先回りした。
「お前、自分で反抗している間にたまっていた利子のこと、考えてねえだろ」
「……」
「といち、っていいたいところだが、だいぶ譲歩してやってる」
「嘘つきめ」
青年に睨み付けられて、なぜか藤滝が安堵したかのように目を細めた。
「んで、なんの用だよ。なんで俺がここに連れて来られなきゃならねえんだ?」
「それは、この羽振りのいいお客に聞け」
藤滝は顎であの男を指した。
「こいつ、たった一晩のお戯れで、これだけ支払うっていいやがる。こんなクソみたいなガキに興奮して、クソみたいな感性してやがる」
「クソみたいなガキ……それって俺のことかよ」
「まあ、よかったな、これで少しは借金が減る。お前の豚箱行きも撤廃だ」
撤廃?
あまりにもあっけなくことがすすんで、青年は目を丸くした。
「い、いやいやいや、ええええ!? これ、全部、俺の稼ぎかよ!?」
「八割は屋敷に入る金だがな」
「すげえぶんどるなぁ!」
「そういう商売だろ」
「さすが藤滝サマは鬼畜が違うな」
「おい、誰に向かって口きいてやがる?」
剣呑な雰囲気になりそうになったとき、客の男が、笑い出した。
「いや、いやはや、すまんすまん。あの藤滝どのが、こんな顔もするんだな、と」
腹を抱えて笑ってしまった男が何度も弁明した。
「そんなにおかしいなら、さっさと失せろ」
「いや、その前に、商品をいただかないとな」
男はにやりと笑って、藤滝をみおろした。
そこに佇んでいた男の姿をみて、きりっと胸がいたんだ。屋敷の主たる男だ。そんな彼の隣に、恰幅のいい男が立っていた。
「あ、昨日の!」
あのとき相手をした壮年と目があった。彼は、いかにも男らしい笑みを浮かべて、青年に手を振った。
「ああ、どうも、昨日はよかったぞ」
そのひとことで、昨夜のことを身体が思い出してしまい、カッと頬が熱くなった。
「んな、なんで!?」
なんで、客が昼間に、しかも、屋敷の主と一緒にいるのだ?
「……やっぱり、お前か」
ほがらかな態度の男と違って、藤滝はいかにも不愉快そうな表情だった。
「面倒なことを持ち込みやがって」
小言を吐くように藤滝が無表情でつぶやく。
「これを見ろ」
近くで控えていた使用人が持っていたアタッシュケースを目の前で開いた。中から何かが床に零れ落ちた。入っていたのは、札束だった。
「うわ、な、え? これ、お札?」
鞄のなかにパンパンに入っていたお札を見て、青年は目を丸くした。こんな量のお金を人生で一度もみたことがない。初めての光景だ。これだけあれば屋敷を抜けられるのではないか。ふとそんなことを思った。
「……まだ足りないけどな」
藤滝が青年の思ったことを察知して先回りした。
「お前、自分で反抗している間にたまっていた利子のこと、考えてねえだろ」
「……」
「といち、っていいたいところだが、だいぶ譲歩してやってる」
「嘘つきめ」
青年に睨み付けられて、なぜか藤滝が安堵したかのように目を細めた。
「んで、なんの用だよ。なんで俺がここに連れて来られなきゃならねえんだ?」
「それは、この羽振りのいいお客に聞け」
藤滝は顎であの男を指した。
「こいつ、たった一晩のお戯れで、これだけ支払うっていいやがる。こんなクソみたいなガキに興奮して、クソみたいな感性してやがる」
「クソみたいなガキ……それって俺のことかよ」
「まあ、よかったな、これで少しは借金が減る。お前の豚箱行きも撤廃だ」
撤廃?
あまりにもあっけなくことがすすんで、青年は目を丸くした。
「い、いやいやいや、ええええ!? これ、全部、俺の稼ぎかよ!?」
「八割は屋敷に入る金だがな」
「すげえぶんどるなぁ!」
「そういう商売だろ」
「さすが藤滝サマは鬼畜が違うな」
「おい、誰に向かって口きいてやがる?」
剣呑な雰囲気になりそうになったとき、客の男が、笑い出した。
「いや、いやはや、すまんすまん。あの藤滝どのが、こんな顔もするんだな、と」
腹を抱えて笑ってしまった男が何度も弁明した。
「そんなにおかしいなら、さっさと失せろ」
「いや、その前に、商品をいただかないとな」
男はにやりと笑って、藤滝をみおろした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
610
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる