7 / 20
✿ぶっかけ自販機
しおりを挟む
自販機前。
買ったばかりのコーラの缶に口を付けようとした瞬間、ラージャを衝撃が襲った。
「ハイ、ラージャ!」
背中を思い切りたたかれて、口の中に入り込んで着ようとしていた液体を吹いた。
ぶしゃっと嫌な音を立てて前方に噴出された茶色いそれは、それを販売していた自販機のパネルに飛び散れば、周囲にコーラの独特の香りが広がる。炭酸を打ち付けられた自販機の表面からは、シュワシュワと小さな音がはじけては消えていく。
「おいおい、いきなりぶっかけかよ。だが、ぶっかける場所とモノが違うだろォ?」
この妙な口調の超がつくほど空気が読めない奇妙な男はエルガー、ラージャの仕事上の相棒だ。
その容姿もかなり変わっていて――いや、傍から見れば美男子であることには間違いないのだが、一番に目につくのは、長い髪。陽光を全て反射しきってやると決意を固めているかのような派手な色合いの肩甲骨くらいまである金髪をハーフアップにまとめている。華奢な体躯も相まって、後姿だけ見れば少し背の高い女性に見間違えられそうだ。
ただし、中身に可憐な部分など一握りもない。むしろ彼はトラブルを呼び込む邪悪なやつだとラージャは既に学んでいる。
「ば、いきなり押すな!!」
エルガーを振り向いたラージャが顔を赤くして怒鳴った。
エルガーは、ふっと表情が引き締まる。にやけた顔の筋肉が萎み、急に真面目な顔つきに変化した。
だが、その顔で発する言葉はラージャの感情を逆なでする。
「お前、可愛いな」
「茶化すな! つか、やめろって!!」
叫んだ時、口元に垂れていたコーラの液体が雫になって飛んだ。
慌てて拭き取ろうと袖口を口元に持っていこうとしたラージャだったが、手首が動かない。そう思いきや、エルガーの方向へと手首が引っ張られる。
いや、違う。
ラージャが、袖で唇を拭い取ろうとするその前に、エルガーの白い手がラージャの袖口を掴んだ。そのまま引っ張ると間が縮まる。
「……なっ!!」
次の光景にラージャは瞳を一杯に見開いた。驚きで心臓が止まりそうになる。
「ん、甘いな」
エルガーはつま先立ちでラージャの口元まで背伸びをすると、じゅっと音を立てて液体を啜った。
「ぎゃあああああ!!!!」
ラージャの脳がその行為を確認するまで、一秒間。
自分の唇と彼の唇が触れ合うその感覚に全身の毛孔が急速収縮させて、喉奥から悲鳴が上がった。
「な、ななな、何してんじゃああああ!!!!」
腕の全筋力を使って、自分の身体に引っ付いていたエルガーを引きはがすと一定の距離を取りながらラージャは絶叫する。
「何って、おしぼりの代わり? みたいな?」
小首を傾げながら答えるエルガーについていけないラージャは、何も言えずにはくはくと口を開けたり閉じたり。
「ウェットだったろ?」
にやり。完全に確信犯の笑みを浮かべてラージャを視線で射抜けば、火山が噴火直前のごとくラージャの顔が赤面を通り越して、真っ赤そのものになる。
「わあお、ラージャ、お前、トマトみてぇ」
エルガーが明るく声をあげた。
「くそっ!! 俺の唇を……よくも……!!」
肩を震わせながら嘆くラージャに、エルガーは、ひゅうと口笛を吹く。
「奪っちゃった、奪っちゃったぁ」
妙なメロディを付けながら茶化せば、「もうお婿には行けない……」と調子の外れた口調でラージャはつぶやきがっくりとその場に崩れそうになる。
「おいおい、いいじゃねえか。今の何てキス・ノーカンだぜ?」
「カウント出来る出来ないじゃないんだ、エル……」
「まあ、悪かったって。小さいことは気にしない、だろ?」
「エル、俺には大きなことだ」
「ぼくには小さなことだ。それより、ラージャ、いい事を教えてやろう。ジンジャーエールに罪深き赤き果実たっぷりのトマトジュースを混ぜると、すごく美味しいんだ。こんなちゃちなコークよりもね」
地面に転がっている真っ赤なコーラの缶をつま先で蹴りながらエルガーが言う。
「たまには健康的なものをたしなんだほうがいいぞ、ラージャ」
「好き嫌いが激しいエルにだけは言われたくない」
「何言ってんだ。その好き嫌い激しいやつに気にいられてんだから、お前は幸せだなぁ」
「まるで生絞りとか言ってトマトそのまま手で握りつぶしてジュースにしてそうな人間と一緒にいて本当に幸せだと思うか?」
「お、いいねぇ、ナマ絞り。お前の果実も絞って果汁にしてやろうかァ?」
この人が言うと何故か妙な気分になるのはなんでだろう。
ラージャはエルガーから、ゆっくりと距離を取ろうとする。
「おい、なんでさっきから逃げようとすんだよ」
「いや、何ていうかエル、寒気が……あ、それより」
振り返ってみて、惨状を思い出す。
コーラがぶっかけられたままの自販機はそのままにはしておけない。
どうすんだ、これ。
(了)
買ったばかりのコーラの缶に口を付けようとした瞬間、ラージャを衝撃が襲った。
「ハイ、ラージャ!」
背中を思い切りたたかれて、口の中に入り込んで着ようとしていた液体を吹いた。
ぶしゃっと嫌な音を立てて前方に噴出された茶色いそれは、それを販売していた自販機のパネルに飛び散れば、周囲にコーラの独特の香りが広がる。炭酸を打ち付けられた自販機の表面からは、シュワシュワと小さな音がはじけては消えていく。
「おいおい、いきなりぶっかけかよ。だが、ぶっかける場所とモノが違うだろォ?」
この妙な口調の超がつくほど空気が読めない奇妙な男はエルガー、ラージャの仕事上の相棒だ。
その容姿もかなり変わっていて――いや、傍から見れば美男子であることには間違いないのだが、一番に目につくのは、長い髪。陽光を全て反射しきってやると決意を固めているかのような派手な色合いの肩甲骨くらいまである金髪をハーフアップにまとめている。華奢な体躯も相まって、後姿だけ見れば少し背の高い女性に見間違えられそうだ。
ただし、中身に可憐な部分など一握りもない。むしろ彼はトラブルを呼び込む邪悪なやつだとラージャは既に学んでいる。
「ば、いきなり押すな!!」
エルガーを振り向いたラージャが顔を赤くして怒鳴った。
エルガーは、ふっと表情が引き締まる。にやけた顔の筋肉が萎み、急に真面目な顔つきに変化した。
だが、その顔で発する言葉はラージャの感情を逆なでする。
「お前、可愛いな」
「茶化すな! つか、やめろって!!」
叫んだ時、口元に垂れていたコーラの液体が雫になって飛んだ。
慌てて拭き取ろうと袖口を口元に持っていこうとしたラージャだったが、手首が動かない。そう思いきや、エルガーの方向へと手首が引っ張られる。
いや、違う。
ラージャが、袖で唇を拭い取ろうとするその前に、エルガーの白い手がラージャの袖口を掴んだ。そのまま引っ張ると間が縮まる。
「……なっ!!」
次の光景にラージャは瞳を一杯に見開いた。驚きで心臓が止まりそうになる。
「ん、甘いな」
エルガーはつま先立ちでラージャの口元まで背伸びをすると、じゅっと音を立てて液体を啜った。
「ぎゃあああああ!!!!」
ラージャの脳がその行為を確認するまで、一秒間。
自分の唇と彼の唇が触れ合うその感覚に全身の毛孔が急速収縮させて、喉奥から悲鳴が上がった。
「な、ななな、何してんじゃああああ!!!!」
腕の全筋力を使って、自分の身体に引っ付いていたエルガーを引きはがすと一定の距離を取りながらラージャは絶叫する。
「何って、おしぼりの代わり? みたいな?」
小首を傾げながら答えるエルガーについていけないラージャは、何も言えずにはくはくと口を開けたり閉じたり。
「ウェットだったろ?」
にやり。完全に確信犯の笑みを浮かべてラージャを視線で射抜けば、火山が噴火直前のごとくラージャの顔が赤面を通り越して、真っ赤そのものになる。
「わあお、ラージャ、お前、トマトみてぇ」
エルガーが明るく声をあげた。
「くそっ!! 俺の唇を……よくも……!!」
肩を震わせながら嘆くラージャに、エルガーは、ひゅうと口笛を吹く。
「奪っちゃった、奪っちゃったぁ」
妙なメロディを付けながら茶化せば、「もうお婿には行けない……」と調子の外れた口調でラージャはつぶやきがっくりとその場に崩れそうになる。
「おいおい、いいじゃねえか。今の何てキス・ノーカンだぜ?」
「カウント出来る出来ないじゃないんだ、エル……」
「まあ、悪かったって。小さいことは気にしない、だろ?」
「エル、俺には大きなことだ」
「ぼくには小さなことだ。それより、ラージャ、いい事を教えてやろう。ジンジャーエールに罪深き赤き果実たっぷりのトマトジュースを混ぜると、すごく美味しいんだ。こんなちゃちなコークよりもね」
地面に転がっている真っ赤なコーラの缶をつま先で蹴りながらエルガーが言う。
「たまには健康的なものをたしなんだほうがいいぞ、ラージャ」
「好き嫌いが激しいエルにだけは言われたくない」
「何言ってんだ。その好き嫌い激しいやつに気にいられてんだから、お前は幸せだなぁ」
「まるで生絞りとか言ってトマトそのまま手で握りつぶしてジュースにしてそうな人間と一緒にいて本当に幸せだと思うか?」
「お、いいねぇ、ナマ絞り。お前の果実も絞って果汁にしてやろうかァ?」
この人が言うと何故か妙な気分になるのはなんでだろう。
ラージャはエルガーから、ゆっくりと距離を取ろうとする。
「おい、なんでさっきから逃げようとすんだよ」
「いや、何ていうかエル、寒気が……あ、それより」
振り返ってみて、惨状を思い出す。
コーラがぶっかけられたままの自販機はそのままにはしておけない。
どうすんだ、これ。
(了)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる