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✿#うちの子おやつ争奪戦
しおりを挟む「エル!」
深夜の事務所に、ラージャの声が響き渡った。
ここは、吸血鬼専門の「狩人」たちを統率しているハンター協会の事務所である。と、いっても一見ただのとあるビルの一区画を間借りしただけの簡素なものであるが。
近年、都市部でも増加した闇に感染した者たちの被害を押さえるために、作られた小さな教会支部なのだ。そんな場所に夜遠しで待機しているのが、本日のふたり。
「エル! 聞いているのか? だめじゃないか、一応は勤務中なんだぞ!」
ラージャ――配属されたばかりの新米――が彼のパートナーであるエルガーから、彼が手に持っていたスナック菓子の袋を奪い取った。すかさず、ブーイングと抗議の声をあげるエルガーに言って聞かすのがこの新米の役目である。
「エル。日々の態度が悪いと、俺がボスに言われるんだ。エルがどうのこうのって。こういうの相棒として何とか思わないのか?」
「ラージャ。ボスの顔色ばかり窺っても、ぼくのことは全然かんがえてくれないんだね?」
「きみのことばかり考えているから、だろうに!」
「それなら、それを返したまえ」
「やだ! 夜の暴飲暴食はお肌に悪いんだぞ!」
「へえ? きみ、ぼくのお肌がガサガサだっていうのかい?」
「え?」
「そうか、きみがぼくのこと、そう思っていただなんて、がっかりだよ。そうか。きみはいつもぼくに触れるたびに、エルってば触り心地悪いなあって思っていたんだね」
「な、なななな。なんだ、その言い方は!」
「おいおい、ラージャ。なんで、赤くなった? やましいことでもあるのか?」
「ち、違う! エルが変なこと、言い出すから!」
「変? 変なことをしているのは、きみだよ。ぼくの大切な栄養源を奪っておいて、なんだい、きみは」
「えっ、栄養!? これ、ただの駄菓子だろう?」
「それが、ぼくの生活のしばしの憩いと愛をくれるのさ」
「だめだ、エル。食生活はちゃんとしなくちゃ。ただでさえ素材がいいんだ。きみはもっと恵まれてうまれてきたその肉体を大切にしないといけない」
「してるさ。それでも、まだ足りないというのかい?」
「足りてない! エルはもっと自覚が必要だ!」
「大袈裟な」
「わかった! きみのように――明らかに自炊の出来ないきみのために、これからは、俺があんたの飯を作る」
「ワアオ! それで? きみはぼくに手料理でも食べさせて何がしたいわけ? もしかして――」
ぐいっとエルガーが身を乗り出した。つんとつま先立ちで、ラージャにすがるようにして彼の首に両手を添えた。
「ぼくを餌付けでも、したいのかな?」
ふっと、彼の香りがした。
至近距離から、歩く美貌にささやかれて、ラージャは身を硬直する。
「あは。また赤くなった。こりゃ、噴火は近い、かな?」
エルガーが、ラージャの反応に気をよくしたようだ。急にはしゃぎだす。
「餌付けして、どうする? きみがしたいと思っていること、ぼくに全部させたいわけ? あはは、それで、どうしよう。一生、きみの元に養われて暮らせって?」
「や、養う、つもりは、ないけど……」
真っ赤になりながら、ラージャは言った。
「大事には、したい、から」
エルガーの笑いがいつの間にか、大爆笑に変わった。
「あははは、そりゃ大傑作だなぁ、ラージャ。きみ、ぼくのこと、大事にしたいって? それじゃ、ハニーの大好物を返したまえよ。それがなくちゃ満足できないんだ。夜中のおやつ、最高じゃないか」
「エル!」
「それとも、きみが内裏品くれるのかい?」
「へ?」
「このさびしい唇に」
がくんとラージャは後頭部を鈍器で殴られたようなショックを受けた。な、何を言っているんだ、この相棒は。
明らかにばかにされているのは、わかっているのだが、目の前にこの男がいて、この男に言われると、それだけで、心臓が悲鳴をあげる。
「って、ことで、これはいただきだね」
勝った、とばかりに、エルガーが、ラージャの手からスナック菓子を取り返した。
ひとくち、またひとくち。見せつけるように、エルガーがさくさくと味わっていると、ラージャが、腕を伸ばして来た。
「おっと。どした?」
エルガーはラージャの腕の中で、少し考えてから、どうぞ、とばかりに顔を彼に向けた。
しばらくの間。二人は動かなかった。
「まあ、頑張ってみようと思っただけ、成長したってことかな。でも、そういうのは好きな子のためにとっておきなさい。ラージャくん」
何もしてこないラージャを――いや、何も手出しができなくて震えているラージャを、なだめるようにしながら、彼の腕をくぐりぬけようとしたエルガーであった。(了)
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