Garlic短編帳

木偶舞屋🌷

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✿長い夜の前に

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「あー、もう、やだ!! 絶対、退職してやる!!」
 ラージャが泣きわめきながら、後ろからついてくる。図体だけは相棒のエルガーより大きいのだが、小心者、というより、彼は慎重な性格の持ち主だった。
「ばか言ってんな。ここで応援待ってても、らちがあかないだろ?」
「だからって、あれだけの数、俺たちふたりで制するのは、無理ってもんだろ!」
 深夜。日の当たらない時間に騒がしく街を蠢くものたちがいる。「吸血鬼」と呼ばれるその発症者ヴァンパイアたちは、なかには「理性的な感染者」もいるのだが、たいていお腹を空かせれば、すぐに「本能」のままに、人間を襲い出す。
「こういう、ごちゃっとした下町はあぶねえんだよ。いつからか、闇が濃くなった。知らん顔して横切る人間が、もしかして人間だったりして、被害が大きくなっちまう。叩くのは早い方がいいって」
「だからって~」
 彼が控えている建物の中に、うじゃうじゃとターゲットたちが群がっているのだ。ざっと、三、四体――といったくらい。
「ひどい発症具合だと凶暴化するが、さっきみたところ、そこまで進行しているとは思えない。ちゃちゃっとやっちまうから、ラージャ、お前はそこで指くわえて待ってろ。……咥えるのは俺の指がいいって思っても、そこは我慢な」
「なんで、俺がエルの指なんて!」
 自分より年上の癖に考えかたが幼い――向こう見ずな突進しか頭にない相棒の手にラージャは視線を落とした。彼の手のひらのなかには、小回りの利く拳銃型の対吸血鬼銃が握られている。
「もし、逃がしたらどうする?」
 華奢な白い指先が闇夜に浮かんで見える。いや、それ以外に、彼の長い金色の髪も。
「どうしようもしない。地の果てまで、追いかけて仕留める」
 エルガーは、ただ前のみを見つめてそう言った。ラージャは、何が彼をそこまで思わせるのか、わからない。ただ彼を見て、その横顔からは戦闘前の彼独特の澄んだ美しさが放出されていた。
 相棒となってから少しは日も経ったのだが、この男の飄々としてつかみどころのない普段の態度や、自分をからかいながら、仕事の時はばかみたいに特攻していく彼をつかみきれないでいた。
「長い夜になるぞ」
 エルガーの声から感情が消えた。抑揚がない淡々とした口調である。
「俺も行く」
 初めて、エルガーがラージャを振り返った。
「エル一人にしていいことなんて何もない」
「……後ろから回れるか」
「わかった」
 ラージャはうなづいた。
「危険なのは?」
「承知の上だ、エル」
 残酷な女神は、にやりと満足げに笑った。
「よく言った。ラージャ。帰ったらシャワーを浴びて抱きしめてキスしてやる」
 カッとラージャの頬が赤く染まる。
「ばっ、ふ、ふざけて!」
「何を? 相棒に対するぼくの親愛の示し方が?」
「ぜってー嘘だろ」
「どうでしょう? じゃ、時計合わせるぜ」
「それ、さっきもやった」
「じゃ、呼吸合わせて。ジャスト00に突入で。心配するな。ほぼ全部、ぼくがやる」
「……そういうのが、心配になるんだって」
 溜息をつきながら、ラージャがエルガーに背中を向けた。
「いっとくけど、さっきの、まじだからね」
 エルガーが背中越しに言った。
「本当、そういうの、いりませんから」

(了)

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