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29.
しおりを挟むしあがった。
ほとんど放心状態で、千尋は机のうえにつっぷした。
やらなくてはならないと思っていた、アウトラインどころか、初稿までかきあげていた。一体、いまは何時だろう。
机の上に置いてある置時計に目を向けた。
「あっ!」
午前零時七分。
とっくに去年が終わっていた。
「あはは、除夜の鐘、聞き忘れた……」
それ以上に、七時から今までずっと、ぶっとおしで集中していた自分がいることに笑える。
長時間の過剰ともいえる集中のせいで、ふらふらする。指先が麻痺したかのような変な感覚だ。それに――。
「あー、だめだ。しんどい。もうぼくも歳だなあ」
二千二十三から、千九百八十五を引き算しようとしたが、頭がまわらなかった。もういくつでもいい。いっそ、永遠の十七歳でもいいや。そんな気がする。
「楽しい、もう、楽しいんだ。こんなになっても」
守谷に連絡してしまえ。
千尋はスマホを手に取った。
「もしもし、あけましておめでとう!」
電話口一番にそう伝える。守谷の声が聞こえて来た。
「千尋、あけおめ! つか、どうした? テンション高いな、酔っ払いか?」
「ああ、酔っている、今、ぼくは自分に酔っているよ!」
「そりゃよかった。モリヤンも自分に酔っている、爆竹公演は大成功だった! 次は暴れ馬公演だ!」
「ああ、ぼくも、ぼくも、最高だった、漂流ものは!」
「おっと、かけたのか?」
「いま、初稿があがった。このテンションだから、冷静じゃない。寝て頭を切り替えて推敲しないととてもひとには見せられない!」
「そりゃ最高だ! いっそ読ませてくれ!」
「だから、嫌だっていってるだろ!」
「千尋、おめでとう、あけましておめでとう」
「ああ、そうだね、おめでとう、あけまして、おめでとう!」
電話を終えた。それでも、まだ千尋のなかで興奮が消えてくれない。
「だめだな、ぼくは、ほんとうにしょうもない……」
いっそ苦しいくらいだ。楽しい、嬉しい、愉快。だけど、苦しい。
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そう、彼だからだ。
他の誰かでは、もう、代用できない。
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