夏の熱さをおそれているか

阿沙🌷

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✿初稿

18.

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 急に倒れて入院した。
 そう告げられて、千尋は急いで本社に戻った。早帰りできる日がいつもこうだ。
「千尋さん!」
 デスクに座っていた花荻は、駆けつけてきた千尋の顔を見て、立ち上がった。
「先生、先生が!」
「わかっています。でも、気持を切り替えて」
 わかっている。そんなにすぐに切り替えできる話じゃないことくらい。でも、それでも切り替えなけば、雑誌に穴があいてしまう。少なくなる発行部数。毎回赤字を垂れ流す。とにかく出せればいい、ただ出せばいいだけじゃない、面白いものをつっこまなくては! ただこの編集部には今現在、面白い代原はない。隙間を練って全部読んでいるからわかる。ぎりぎり商業レベルには達しているが、ただそれだけの原稿しかない。あるとしたら過去話をぶちこむ、くらいか。でも、それでは――。
「編集長が明日、代原どうするか会議をするって」
「明日!? って、うわ、先生からだ! すみません、出ます」
 なんどこの展開になるんだ、と千尋は思いながら、機械を耳にあてた。そこから、松宮の気の抜けた声がした。
「ちーちゃん、やっほー」
「やっほーじゃないです、先生。どこいってたんですか?」
「え? スッキリしに行って来たんだけど? 相手あんま相性よくなくて三発かましてきたわ」
 お盛んなことで。
「それどころじゃないですって! 原稿、どこまで動きました?」
「はぁー? 今日はやってないよーん。ずっとズッコンバッコン」
「もう、ふざけないでください! 尾張先生落として大変なんですから、あなたまで落とされたら!」
「え? 尾張初子落ちるの? なんで?」
 しまった。と思ったが遅かった。つい、口にしてしまったことをもとには戻せない。
「すみません、いまのはわすれてください。いいから、松葉先生はそのまま締切を守って」
「あれ、嘘でしょ」
「へ?」
「ちーちゃん、俺がよくぶっちぎるから、あえて早めに締切教えているよね? ね? だから、あれ、嘘。つまりまだ余裕いっぱい」
 何をいっているのか。余裕なんて。
「ねえ、代原のあて、あるの? ないんでしょ。ちーちゃんが焦ってるってことは」
「松葉先生、いいからあなたは早く仕事場にもどって古賀さんが先にできることをしてくれているので」
「ああ、オッケー、それなら知ってる。しっかり受け取って来た。さ、ちーちゃん今すぐ受付に連絡いれて俺のこと通してよ」
「え?」
「やっぱさ、ヒーローってのは、遅れてやってくるもんだよね」
 松宮侑汰の襲来に花荻は真っ青な顔をしていた。持ち込みや来客用に使うスペースに案内した松宮は始終その可愛い顔をニヤニヤと下卑た笑みで満たしていた。そして爆弾が爆発した。
「俺が二本、まんがを描く」
「はあ!?」
 頭がいかれているに違いない、とこのときばかりは、いやもともと彼の頭はおかしいとは思っていたが、とにかく、すぽんと何かがとびだしていく勢いで、千尋も花荻も目をひんむいた。
「代原決める会議、明日の何時?」
「朝です、十時から」
「おけおけおっけー、はいはい、余裕じゃん」
「いや、あと十二時間しかないのに!?」
「花荻がある程度リスト化してそのなかから選ぶって形なんだよね」
「ええ、はい、そうです」
 松宮を前に花荻がもじもじと答えた。
「あいからず、いいチ×ポ持ってそうな顔してんなぁ、花荻くぅん」
「ひっ!」
 松宮が花荻にふっと息をかけた。それだけで、花荻は小さく悲鳴をあげて、ぶるぶると震えだしている。
「松葉先生、花荻に何をしたんですか?」
「え~、なんだろ、せんせぇも覚えがないなぁ」
 すっとぼけながら、松宮は作戦を提案しだした。
「とりあえず最低でも十時までにネームまでしあげる。すごい面白い作品だったらきっとGOサインが出るだろう」
「いや、そんなに甘くないよ、先生。失敗したら、穴があくからね」
「ちーちゃん、それなら、代原の代原を用意させればいい。まあ、俺は落とさないから大丈夫」
 一番怪しい人間が何をいうか。
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