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重い、というか。だるい、というか。
そういうのより、自分がどこかに行ってしまったような感覚だ。心を失った。どこかに落としてしまった。
人間の身体は袋のようなもので、その中心にいっぱい大切なものを入れて生きている。好きなひととの思い出や、嫌な思い出。思い出したくない記憶。大切な記憶。そういうものをちゃんと持っていられるように、袋を閉じる紐でしっかり握っておかなくてはならないのに、その大切な紐がいつの間にか抜け落ちてしまって、自分はまるでぺらぺらの中身のない紙人形みたいにふわふわとしている。
つかめなくなった。自分とはなんだ。
考えること。あたまに浮かぶこと。それ自体、つまらなくなった。そうか、自分はこんなにもつまらないにんげんなのか。見たくもない、考えたくもない。スルーしていなくちゃ、きっと壊れてしまう。
梅田倖次は布団をかぶって丸くなった。
今日はやけに彼が遅いからだ。自分が変なことを考え初めてしまったのは。酒田耕成のせいにする。
だが、梅田は彼が必ず帰ってくると知っていた。
高校時代からの付き合いで、妙な男だ。自分の後ろばかりついて来る変なやつだと思ったら、やけに面倒見がよく、実はかなり我が強い、変な生き物だった。今でもそうだ。
実生活すらままならないくらいに、虚無に包まれてしまった梅田を独り暮らしのアパートの狭い空間から自分の家に持ち帰って面倒を見ているのだから。
梅田と酒田の間にある関係性はただの同級生であり、強いていうならあだ名が同じ「こうちゃん」というだけの元同級生であり、酒田がどんなに梅田の面倒をみようが一切、彼にメリットはないような気がする。それなのに、持ち前の面倒見の良さを謎に発揮されて、今日も梅田は何もしなくても生命が保持できている。
食っちゃ寝る生活だ。それも、飯だって酒田が作ってくれる。全て酒田が面倒を見てくれる。
彼は俺を見捨てたりはしない。
たくさん面倒になって、彼の足を引っ張って、それでも尚、梅田のなかにはそういう揺るぎのない自身があった。だから、今日もどんなに遅くなっても帰ってくるのだ。
「ただいま」
そんなことを思いながらごろごろと横になっていると玄関の鍵を回す音と扉の開く音、そして彼の帰宅の声が聞こえてきた。
おかえりは言わなくてもいい。何もしなくても、酒田はそれでいいと言ってくれた。
部屋のドアが三回ノックされて彼が入ってくる。外の匂いをたくさんその身体にしみ込ませた彼が入ってくるたび、梅田は眉根をひそめた。この狭い部屋、彼の唯一の世界に浸りきっている自分と外に出て仕事をして、ちゃんと生活をおくっている酒田の違いをやけに生々しく感じる。だが酒田はそこまで気が付く男ではない。楽しそうに梅田の顔の上にそれを置いた。
「なにこれ」
ベッドで寝ている自分の額の上に落ちてきた黄色いものを掴みながら梅田がたずねる。
「外に落ちてた。綺麗だったから持って帰ってきた」
そういうのより、自分がどこかに行ってしまったような感覚だ。心を失った。どこかに落としてしまった。
人間の身体は袋のようなもので、その中心にいっぱい大切なものを入れて生きている。好きなひととの思い出や、嫌な思い出。思い出したくない記憶。大切な記憶。そういうものをちゃんと持っていられるように、袋を閉じる紐でしっかり握っておかなくてはならないのに、その大切な紐がいつの間にか抜け落ちてしまって、自分はまるでぺらぺらの中身のない紙人形みたいにふわふわとしている。
つかめなくなった。自分とはなんだ。
考えること。あたまに浮かぶこと。それ自体、つまらなくなった。そうか、自分はこんなにもつまらないにんげんなのか。見たくもない、考えたくもない。スルーしていなくちゃ、きっと壊れてしまう。
梅田倖次は布団をかぶって丸くなった。
今日はやけに彼が遅いからだ。自分が変なことを考え初めてしまったのは。酒田耕成のせいにする。
だが、梅田は彼が必ず帰ってくると知っていた。
高校時代からの付き合いで、妙な男だ。自分の後ろばかりついて来る変なやつだと思ったら、やけに面倒見がよく、実はかなり我が強い、変な生き物だった。今でもそうだ。
実生活すらままならないくらいに、虚無に包まれてしまった梅田を独り暮らしのアパートの狭い空間から自分の家に持ち帰って面倒を見ているのだから。
梅田と酒田の間にある関係性はただの同級生であり、強いていうならあだ名が同じ「こうちゃん」というだけの元同級生であり、酒田がどんなに梅田の面倒をみようが一切、彼にメリットはないような気がする。それなのに、持ち前の面倒見の良さを謎に発揮されて、今日も梅田は何もしなくても生命が保持できている。
食っちゃ寝る生活だ。それも、飯だって酒田が作ってくれる。全て酒田が面倒を見てくれる。
彼は俺を見捨てたりはしない。
たくさん面倒になって、彼の足を引っ張って、それでも尚、梅田のなかにはそういう揺るぎのない自身があった。だから、今日もどんなに遅くなっても帰ってくるのだ。
「ただいま」
そんなことを思いながらごろごろと横になっていると玄関の鍵を回す音と扉の開く音、そして彼の帰宅の声が聞こえてきた。
おかえりは言わなくてもいい。何もしなくても、酒田はそれでいいと言ってくれた。
部屋のドアが三回ノックされて彼が入ってくる。外の匂いをたくさんその身体にしみ込ませた彼が入ってくるたび、梅田は眉根をひそめた。この狭い部屋、彼の唯一の世界に浸りきっている自分と外に出て仕事をして、ちゃんと生活をおくっている酒田の違いをやけに生々しく感じる。だが酒田はそこまで気が付く男ではない。楽しそうに梅田の顔の上にそれを置いた。
「なにこれ」
ベッドで寝ている自分の額の上に落ちてきた黄色いものを掴みながら梅田がたずねる。
「外に落ちてた。綺麗だったから持って帰ってきた」
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