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「銀杏だ」
梅田がつまみあげたものは秋に色づいた銀杏の葉だった。薄暗い部屋の中でもその色は鮮明だった。外ではもうそんな季節なのかという感じだ。自分の生活に季節がなくなっていたことに気が付いたが、梅田はなんとも思わなかった。ただ、外はそうなのかというだけだった。戻りたいとも、思わない。
「俺さ、この葉っぱすげえ好きなんだ」
酒田がどっしりと腰をベッドの端におろした。揺れてギシリと鳴った。
「見てみろよ。これ、まるでふたつがひとつになっているように見えないか」
酒田が銀杏を指さして言った。
「どういうこと」
「だから、ここのやつとここのやつが、合体しているように見えないか」
酒田は銀杏の葉の左右の部分を指して言った。どういう感性をしているのか。梅田は首をかしげた。
「そういう見方もあるのか」
「お前はどう見るんだ」
「分かれているように見える」
と、いうより、そういう先入観があるのだ。
「フランスでは政教分離のシンボルマークとして街に植えられているとかって話、聞いたことがあって」
「へえ、流石、梅田。お前、昔から物知りだよなぁ」
感心したようなふうの酒田に少し、心を逆なでされる。
昔は彼をばかだと思っていた自分がいた。しかし、今ではまっとうなのは酒田のほうだし、酒田のほうがより人間らしい。
なにより感性がある。
酒田には何を見ても何を嗅いでも、自分の五感を使って自分なりの物の見方で物事を捉えることが出来る。それに対して、梅田にはそれが出来ない。自分の内側から湧き上がるものがなにもないのだ。
そうだ。自分は自分の虚無さを隠すために、たくさんの情報を身体の中に入れて、そこから物事を見てきた。外にあるものばかり寄せ集めて作られたのが梅田倖次という存在であるなら、なぜ自分は存在しているのか。
「大丈夫か。顔色が悪いぞ」
お前のせいだぞ、とまでは言えずに梅田は黙った。
「水飲むか。持ってくる」
「要らない。それよりも」
お前のような心が欲しかった。
梅田は酒田に手を伸ばした。
(了)
梅田がつまみあげたものは秋に色づいた銀杏の葉だった。薄暗い部屋の中でもその色は鮮明だった。外ではもうそんな季節なのかという感じだ。自分の生活に季節がなくなっていたことに気が付いたが、梅田はなんとも思わなかった。ただ、外はそうなのかというだけだった。戻りたいとも、思わない。
「俺さ、この葉っぱすげえ好きなんだ」
酒田がどっしりと腰をベッドの端におろした。揺れてギシリと鳴った。
「見てみろよ。これ、まるでふたつがひとつになっているように見えないか」
酒田が銀杏を指さして言った。
「どういうこと」
「だから、ここのやつとここのやつが、合体しているように見えないか」
酒田は銀杏の葉の左右の部分を指して言った。どういう感性をしているのか。梅田は首をかしげた。
「そういう見方もあるのか」
「お前はどう見るんだ」
「分かれているように見える」
と、いうより、そういう先入観があるのだ。
「フランスでは政教分離のシンボルマークとして街に植えられているとかって話、聞いたことがあって」
「へえ、流石、梅田。お前、昔から物知りだよなぁ」
感心したようなふうの酒田に少し、心を逆なでされる。
昔は彼をばかだと思っていた自分がいた。しかし、今ではまっとうなのは酒田のほうだし、酒田のほうがより人間らしい。
なにより感性がある。
酒田には何を見ても何を嗅いでも、自分の五感を使って自分なりの物の見方で物事を捉えることが出来る。それに対して、梅田にはそれが出来ない。自分の内側から湧き上がるものがなにもないのだ。
そうだ。自分は自分の虚無さを隠すために、たくさんの情報を身体の中に入れて、そこから物事を見てきた。外にあるものばかり寄せ集めて作られたのが梅田倖次という存在であるなら、なぜ自分は存在しているのか。
「大丈夫か。顔色が悪いぞ」
お前のせいだぞ、とまでは言えずに梅田は黙った。
「水飲むか。持ってくる」
「要らない。それよりも」
お前のような心が欲しかった。
梅田は酒田に手を伸ばした。
(了)
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