七月の花とBLの掌編

阿沙🌷

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✿7.1:姫百合

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「か、可愛いからです……」
 赤面する後輩に比瑪ヒメは硬直した。
 体育館裏。周囲には誰もいない。温度差の違うふたりの間を、緑色の初夏の風が吹き抜けて行った。だが肌に触れる新鮮な空気の心地よさよりも、ねっとりと自身に絡みつくような彼の歪さにじむ感受性が理解できない。
 今まで可愛いとわれたことがないわけではない。
 けれど、この男子高校生の目線から見て、しかも年上である比瑪が可愛いと思える存在なのだろうか。そう思うと、比瑪に襲い掛かってくる感覚は不快感そのものだった。
「せ、先輩?」
 後輩が、うつむいたままの比瑪が気になるとばかりに声をかけてくる。顔を覗かれそうになって、バッと腕で後輩を振り払った。
「やめろよ!!」
「あ、はい……」
「そういうのやめろって!!」
 比瑪が全力で睨みつけてくるので、後輩は動作を固くした。
「最近、妙に誰かに見られている感覚があったからさ、誰かと思ったら、一年坊主で。それじゃあ、俺に用があったとしても話しかけにくいのかなと思ってみて、こっちから出向いてやったら、『可愛いから見てました』。そんなオチがあっていいと思うかぁああああ!!!!」
「でも、可愛いものは可愛いんです!!」
「どこがだ!!」
「えっと身体小さい癖に部長務めているところとか」
「ちっさくねー!! まだ伸びる!!」
 などと叫びながらも比瑪はこの後輩の胸元までしか身長がない。
「身体小さい癖に誰よりも目立ってるところとか」
「おい、てめぇ、今、身長小さいから目立つって言ったか? 言ったか?」
「言ってません!! 誰よりも先輩がいつも神々しく輝いているからです!!」
「あああ?」
「先輩、俺、毎朝先輩が朝練しているのを見てるんです」
「勝手に見るな!! 見世物じゃねえっつーの!!」
「でも、朝日が差し込んでだんだん溶けていく世界に、たった一人ボールいじっている姿、本当に美しい。口が悪くてすぐに怒るから苦手だったんですけど、初めて先輩の自主練を見て、惚れた。俺の一等星なんです」
 何かに浸るように語る後輩に、比瑪は直感した。こいつ、本気マジだ。
 小学生のころ、女子みたいだとからかわれてから、絶対に男前になってやると決めた。誇りが欲しかった。泣いてばかりいないで、からかわれてばかりいないで、そういうものを全て跳ね飛ばしてしまえる自分になりたかった。
 身長が伸びるという都市伝説を聞いてバスケを始めたり、筋肉と技術をつけるために毎朝、自主練したり。そんな比瑪の姿に憧れをともして見つめてくる年下の男が今、目の前にいるのだ。
「悪かったな、口が悪くて」
「いいえ。むしろ、惚れてから先輩の可愛さに目が覚めました」
「は?」
「だから、惚れたので先輩の日常も観察するようになったら大発見の連続で。ほら、棚とか一番上届かないじゃないですか。必死に手を伸ばしている姿とか可愛くて。つま先立ちの足なんて生まれたてのバンビちゃんのようにぷるぷると震えてて」
「誰がバンビちゃんだ!!」
「それから、購買部の昼飯混雑中に、必死になって人ごみに抗っている姿とか。小さいから気を抜くと他の生徒に踏みつぶされちゃいますもんね」
「誰がミジンコサイズだ!!」
「いや、ミジンコとは言ってないです」
「ふざけんな!! 俺は男だぞ!!」
「はい。男性でも可愛いひとはいるんだなぁっと思って。好きです」
 ふ・ざ・け・ん・な~!!!!
 比瑪の怒鳴り声混じる薫風が、校舎のすり抜けて天上へと流れて行った。

(了)

✿7月1日の誕生花:
姫百合ヒメユリMorning star lily
 花言葉は「誇り」だそうです。小ぶりで可愛いイメージのある花だったので、つい、わけの分からないわんこ系後輩くんとくっつけたくなってしまう。
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