七月の花とBLの掌編

阿沙🌷

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✿7.3:水芙蓉

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 優等生には絶対に理解できない。だからこそ、いちいちこちらに指図してくるな。泥沼どろぬまはじめはそう思った。
 彼に苛立ちを与えている存在――その主な存在が生徒会長たる托生たくしょうレンだ。怒涛の生徒会改革により形骸化していた生徒会を甦らせたのみならず、校則破りの摘発、部活動推進事業など寂れていた校舎に活気をもたらしたのはこの人物なのだ。
 そんな人物に泥沼は目をつけられている。理由は髪の色だ。薄いクリーム色の彼の髪は黒髪原則の校則において禁忌そのもの。
 入学後すぐに行われた抜き打ち検査につかまった彼は説明すらする時間を与えずに「黒く染め直してきなさい」と執行委員に言われてしまった。泥沼にとってそれが何よりも屈辱的で、歯がゆく、今思い出しただけでも腹からごうが煮えあがってきそうになっていた。
 それがきっかけで生徒会も、彼らに追随するように学園生活を謳歌するような生徒に対して、妙な抵抗心がうまれてしまったのは。彼らとは真反対を追うように泥沼はおのれだけの灰色の学園生活を構築しそこに安住した。
 だが、その生活に風穴を開ける出来事が起こる。
「おい、そこのきみ」
 廊下で声をかけられて、振り向くとそこには圧倒的美の権化、数々の改革を行った学園の覇者、生徒会長たる托生レンの姿があった。
「その髪、校則違反だぞ」
 そんなことは知っている。だが、どうしろというのだ。
 泥沼は、彼から視線を逸らした。無視を決め込む。どうせこいつらに何を言ったって無駄なのだ。
 黙って去っていく泥沼の肩へ、托生の手が伸びる。
「待って」
 そう言われて待つ人間がこの世のどこにいる。泥沼はその手を振り払って去る。
「きみは一年の泥沼くんだろ? ほかの生徒会メンバーから聞いている。きみだけ、どうしても髪をもとに戻してくれないと!」
 生徒会長さまの声が泥沼の背中を追った。
「ばーか、これがもと・・なんだよ!!」
 たかが髪じゃないか。それにたいして必死そうに黒を主張する彼が腹立たしくて、泥沼は答えた。取り残していく托生の存在がたまらないとばかりに泥沼は唇の先で笑った。

 だが、それでは終わらなかった。
 翌朝、泥沼を校門で待ち構えていたのは、髪を金色に染めた生徒会長の姿だった。
「あ、泥沼くん!」
 彼は泥沼の姿を確認するとすぐさまに声をかけてきた。逃げたい。泥沼はそう思った。
「見てくれ。ぼくも染めてみたんだ」
「生徒会長さま、じきじきに校則違反とはとんだご趣味で」
「ああ、だからこれから校則の変更を学校側に頼んでみる」
「え?」
 泥沼の目の前で彼はぺこりとお辞儀をした。
「すまなかった、泥沼くん」
 目の前で起きた出来事に泥沼は目をぱちくりさせた。
「きみだって大切なこの学校の生徒だ。それなのに、あのくだらない校則のせいできみを傷つけていた。いや、そうじゃなくて――校則にばかり縛られていたぼくたち生徒会の責任だ」
 泥沼の周囲を取り囲むようにして現れた生徒会メンバーたちも会長と同じように頭を下げていく。
「ど、どういうことだ……」
「知らなかったんだ、その色がきみの地毛だったってことを……」
 申し訳なさそうに頭をさげる托生の姿が鮮やかに泥沼の瞳に写った。


(了)

✿7月3日:
水芙蓉すいふようLotus
 はすです。他にも不語仙ふいごせん池見草いけみぐさなどの表現もあるみたいです。泥の中に現れる一輪。花言葉は「清らかな心」だそう。難しい花です。
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