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✿7.5:庭石菖
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平坦だ。
あきれるくらいに。
部活が盛んな高校に入学しながらも、特にやりたいこともなく帰宅部になってしまた庭石は大きくため息をついた。一人で何度も行ったり来たりを繰り返す通学路。変わり映えのしない毎日がこれからも永遠に続いていくような、停滞する圧迫感が彼の胸をじわじわと押しつぶそうとしている。
変わろうと思えば変われるのだろう。
だが、そうして得られた変化も日常という大きな化け物に食い荒らされていずれ陳腐化していく経路が真っ先に浮かぶ。楽しい、楽しくないという基準は過ぎ去った。
庭石にあるのは、昨日から地続きの今日だけだ。
「あ、あの!」
背後から声をかけられて、庭石は振り返った。
「これ、落ちましたけど」
同じ制服に身を包みながらも、圧倒的に違う人間のオーラを出しながら、その少年は手に持っていたハンカチを差し出した。庭石のものだ。
「ありがとう、拾ってくれたの」
「え、あ。はい」
ポケットに入れていたものが滑り落ちていることにすら気が付かなかった。虚無が深い。
手を伸ばすことすら億劫な気分だ。それでも、と手を伸ばしてみる。
「王子様じゃなくてごめんなさい」
だが、庭石の手がハンカチに届く前に、その手にハンカチが押し付けられた。ふわりと戻ってきた布一編に、ほのかに花が香る。
「え……」
「あ、いや。こういうとき、落し物拾ってさしあげるのって、王子様が一番上手でしょ」
真顔で返してきた少年の言葉に絶句する。だが、次第に腹の奥底から何かが吹きあがってきて、それが庭石の全身を支配した。
「ふ、あはははは!!」
急に笑い出した庭石に少年はびくりと肩を揺らした。
「おもしろ、なにそれ。まるで絵本の世界だな!!」
こらえようとおもっても、できないくらい強烈な快感が笑いになって噴き出した。
忘れていた。
自分にもこんな感情を持っていたことを。
「あ、えっと……」
少年が不思議そうに庭石を見つめる。庭石もハンカチ拾いの王子様を見つめた。
「名前は?」
たずねればおずおずと返ってくる。
「石菖です」
「俺は庭石」
名乗ったところで何も始まらないのは分かっている。だが、庭石は直感した。
何かが、始まりそうだと――。
(了)
✿7月5日:
庭石菖Blue eyed grass
花言葉は「繁盛」と「豊かな感情」だそうです。豊かな感情路線でいきたかったのですが、最終的になんじゃこりゃになりました。
あきれるくらいに。
部活が盛んな高校に入学しながらも、特にやりたいこともなく帰宅部になってしまた庭石は大きくため息をついた。一人で何度も行ったり来たりを繰り返す通学路。変わり映えのしない毎日がこれからも永遠に続いていくような、停滞する圧迫感が彼の胸をじわじわと押しつぶそうとしている。
変わろうと思えば変われるのだろう。
だが、そうして得られた変化も日常という大きな化け物に食い荒らされていずれ陳腐化していく経路が真っ先に浮かぶ。楽しい、楽しくないという基準は過ぎ去った。
庭石にあるのは、昨日から地続きの今日だけだ。
「あ、あの!」
背後から声をかけられて、庭石は振り返った。
「これ、落ちましたけど」
同じ制服に身を包みながらも、圧倒的に違う人間のオーラを出しながら、その少年は手に持っていたハンカチを差し出した。庭石のものだ。
「ありがとう、拾ってくれたの」
「え、あ。はい」
ポケットに入れていたものが滑り落ちていることにすら気が付かなかった。虚無が深い。
手を伸ばすことすら億劫な気分だ。それでも、と手を伸ばしてみる。
「王子様じゃなくてごめんなさい」
だが、庭石の手がハンカチに届く前に、その手にハンカチが押し付けられた。ふわりと戻ってきた布一編に、ほのかに花が香る。
「え……」
「あ、いや。こういうとき、落し物拾ってさしあげるのって、王子様が一番上手でしょ」
真顔で返してきた少年の言葉に絶句する。だが、次第に腹の奥底から何かが吹きあがってきて、それが庭石の全身を支配した。
「ふ、あはははは!!」
急に笑い出した庭石に少年はびくりと肩を揺らした。
「おもしろ、なにそれ。まるで絵本の世界だな!!」
こらえようとおもっても、できないくらい強烈な快感が笑いになって噴き出した。
忘れていた。
自分にもこんな感情を持っていたことを。
「あ、えっと……」
少年が不思議そうに庭石を見つめる。庭石もハンカチ拾いの王子様を見つめた。
「名前は?」
たずねればおずおずと返ってくる。
「石菖です」
「俺は庭石」
名乗ったところで何も始まらないのは分かっている。だが、庭石は直感した。
何かが、始まりそうだと――。
(了)
✿7月5日:
庭石菖Blue eyed grass
花言葉は「繁盛」と「豊かな感情」だそうです。豊かな感情路線でいきたかったのですが、最終的になんじゃこりゃになりました。
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