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✿7.6:露草
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「好きなやつが出来たから」
恐れていた言葉をついに彼が吐いた。
水露と青草は幼馴染だ。両親が親友同士なこともあって、文字通りの生まれてきて幼いころから親友をやっている。それどころか、近所同士であるふたりは義務教育期間も同じ校舎で学び、同じ高校にすら進学してしまった。
まるで一心同体のような有人関係――いや、水露にとっては、それ以外にも思うことがあった。だからこそ、青草が恋に目覚めるそのときをひそかに恐れ、それを水面下に隠して生きてきたのだ。
それが今、弾けとんだ。
足元から地面が崩壊するような錯覚に襲われるも、彼の前だ。なんとかして平然を装う。
「おう、よかったな」
無理やり引きずり出した言葉は歪んでいた。それにどうか気付かないでほしいと願う。
ふたりきりの初夏の通学路。生い茂る道端の緑が揺れた。
「でさ。俺、どうすりゃいいわけ?」
「は?」
青草は照れくさそうに自身の頬を人差し指でこすりながら告白した。
「俺、一度も女子のこと、好きになったことがない」
「お、おう」
「だから、今、好きなやつ出来たけど、どうしていいのか分からない」
「おう」
「だからさ、あの……水露、俺の女になって」
くらり、と眩暈がするようだった。まるで甘い毒水を一気に飲まされたように水露の脳奥がしびれてくる。
「い、いや、待って、どういうことだよ」
「だから、水露なら女子の気持ち分かりそうじゃん」
「分かんねえよ」
「そんなことない。水露は綺麗だ。その辺の女子よりも可愛いし、いける。お前は今から女子だ」
「何が!?」
「だから、告白の練習させてよ。あと、デートとか」
「はぁ!? いや待て待て」
「何パターンか、その子に好きっていうのを考えてみたから、これから順にやっていくね。どれが一番いいか水露、あとで意見よろしく」
「いやいや、待って。え? はい!?」
「だめ?」
じっと、青草に見つめられて水露は言葉に詰まった。弱いのはこっちなのだ。
蝉の声が大きい。だから大丈夫だ。心の脈拍にはきっと青草は気付かないだろう、永遠に。
結局のところ、惚れたほうが負けだ。自分が施した下書きの上に、彼の片思いの相手が乗りかかって上書きされる運命だ。いつか青草の中から消える。そう分かっていても、頷いてしまうのは、きっと既に自分は青草に負けているからだ。
「い、いいよ」
「やった、ありがとう。ぜったい、彼女、ゲットしてみせるね」
にっこりと笑う青草の表情が麻薬になる。
染みついた夏の匂いと彼の笑顔がいつまでも離れないと思う。残酷で愛おしい、彼が。
(了)
✿7月6日:
露草day flower
英語名が好きです。一日花。あとは染め物の下書きの青というイメージ。染めあがったら落ちてしまって完成品には存在しなくなる感じでいこうと思いました。花の青色が美しい。
恐れていた言葉をついに彼が吐いた。
水露と青草は幼馴染だ。両親が親友同士なこともあって、文字通りの生まれてきて幼いころから親友をやっている。それどころか、近所同士であるふたりは義務教育期間も同じ校舎で学び、同じ高校にすら進学してしまった。
まるで一心同体のような有人関係――いや、水露にとっては、それ以外にも思うことがあった。だからこそ、青草が恋に目覚めるそのときをひそかに恐れ、それを水面下に隠して生きてきたのだ。
それが今、弾けとんだ。
足元から地面が崩壊するような錯覚に襲われるも、彼の前だ。なんとかして平然を装う。
「おう、よかったな」
無理やり引きずり出した言葉は歪んでいた。それにどうか気付かないでほしいと願う。
ふたりきりの初夏の通学路。生い茂る道端の緑が揺れた。
「でさ。俺、どうすりゃいいわけ?」
「は?」
青草は照れくさそうに自身の頬を人差し指でこすりながら告白した。
「俺、一度も女子のこと、好きになったことがない」
「お、おう」
「だから、今、好きなやつ出来たけど、どうしていいのか分からない」
「おう」
「だからさ、あの……水露、俺の女になって」
くらり、と眩暈がするようだった。まるで甘い毒水を一気に飲まされたように水露の脳奥がしびれてくる。
「い、いや、待って、どういうことだよ」
「だから、水露なら女子の気持ち分かりそうじゃん」
「分かんねえよ」
「そんなことない。水露は綺麗だ。その辺の女子よりも可愛いし、いける。お前は今から女子だ」
「何が!?」
「だから、告白の練習させてよ。あと、デートとか」
「はぁ!? いや待て待て」
「何パターンか、その子に好きっていうのを考えてみたから、これから順にやっていくね。どれが一番いいか水露、あとで意見よろしく」
「いやいや、待って。え? はい!?」
「だめ?」
じっと、青草に見つめられて水露は言葉に詰まった。弱いのはこっちなのだ。
蝉の声が大きい。だから大丈夫だ。心の脈拍にはきっと青草は気付かないだろう、永遠に。
結局のところ、惚れたほうが負けだ。自分が施した下書きの上に、彼の片思いの相手が乗りかかって上書きされる運命だ。いつか青草の中から消える。そう分かっていても、頷いてしまうのは、きっと既に自分は青草に負けているからだ。
「い、いいよ」
「やった、ありがとう。ぜったい、彼女、ゲットしてみせるね」
にっこりと笑う青草の表情が麻薬になる。
染みついた夏の匂いと彼の笑顔がいつまでも離れないと思う。残酷で愛おしい、彼が。
(了)
✿7月6日:
露草day flower
英語名が好きです。一日花。あとは染め物の下書きの青というイメージ。染めあがったら落ちてしまって完成品には存在しなくなる感じでいこうと思いました。花の青色が美しい。
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