7 / 31
✿7.7:梔子
しおりを挟む
「なあ、慈! 次、数学なんだけど教科書、貸してぇ!」
二限目の小休憩。
彼――慈の双子の弟である透――が隣の教室から現れる。すると決まって学友は「またかよ」と言葉をこぼし、慈は嬉しそうに口元を緩める。だが、兄であり彼を諌める立場であるとばかりに、微笑を押し殺し、自身の教科書を彼に手渡した。
「だめだよ。ちゃんと昨日、準備してこなくちゃ」
「わり、さんきゅ。次の休み時間、返す」
「こっちは数学、五限だから、それまでだったらいつでもいいよ」
「まじ? さんきゅ。じゃ、昼に」
「了解」
嬉しそうに本を抱えて立ち去っていく弟を眺め終えると、慈は席に戻った。
「また来たな、弟くん」
睨みつけるような視線の先には学友がいる。
「まあ、あの子、うっかりさんで可愛いでしょ」
「お前、あいつうざならちゃんと叱れよ」
「叱ってる。だめなものにはだめって」
「そうじゃなくてさ……あまやかしすぎてないか?」
学友の指摘に、そうかもしれないと思ってしまうのは、自分でも透に対して甘いと思うところがあるからだ。だが、ひとの家の関係にたかが同じクラスの友人だからといって口出しされるのは、少しだけむっとする。
「いいでしょ。俺たち兄弟なんだから」
「それも双子。一心同体っていいたいんだろ?」
じろりと慈の心の中を覗き込むような学友の目つきに、慈の心臓が跳ねた。
「な、なんだよ、急に」
「別に? ただ、兄弟にしてはなんか甘ったるいなぁと思ってさ」
「何が言いたい?」
「いーや、べつに? まるで恋人を眺めるような目つきだなと思っただけ。でも俺の勘違いだよな? だって、兄弟なんだから」
ぐさりと差し込まれたものに慈の頬に赤みが差した。指先が震えるのを必死にこらえる。
「あんた、最低だな」
学友への侮辱しか吐けないのをそのままに、言葉を投げかけると彼のほうがうわてだった。
「まあ、近親相姦しそうなやつよりゃましだろ」
ふざけやがって。
慈は、椅子の足を蹴った。蹴られてパイプが軋む音が響く。苛立ちを行動でおさめて、なんとか平常に戻さなくては。
そんな慈の救世主のように、次限をつげる鐘の音が響いた。
学友がなにか物足りなさそうにしながら、慈から遠ざかっていく。ほっと胸をなでおろすようにして歴史の教科書を机上で開いた。
彼にはきっと分からない。そういう思いが慈にはある。
透は慈にとって世界のすべてだ。
たとえ彼が大人になって、慈の手を滑り落ちてゆこうとしても――むしろそのために、今、自分がいるのだという認識を慈はしている。
惚れたなんて感情ではない。好きとかそういうものでもない。ましてや恋人になりたいわけでもない。
いつか自分から飛びたってしまいそうな存在が、まだ自分を必要としてくれているのだ。そのことが、慈にとって唯一の幸福なのだ。
「透……」
誰にも聞こえないように、彼の名前を呼んだ。
きっと誰にも聞こえていない。
(了)
✿7月7日:
梔子Gardenia
個人的に好きな花です。葉っぱは幼オオスカシバの大好物! 個人的に虫は苦手なので実物には悲鳴をあげてしまうので、お写真を拝見するたびに可愛い成虫のオオスカシバさんの美麗かつキュートなお姿にキュンキュンします。透明な翅が美しくて好きです。あと色合い。鶯あんみたいな胴部の色が可愛い。オオスカシバは可愛いです(二度目)。梔子の花言葉は「わたしはしあわせです」だそうです。あなた、ぼりぼり葉っぱ食われて妙な形の糞をまき散らされていますが、本当にしあわせなんでしょうか。しあわせって一体何なのでしょうか。
二限目の小休憩。
彼――慈の双子の弟である透――が隣の教室から現れる。すると決まって学友は「またかよ」と言葉をこぼし、慈は嬉しそうに口元を緩める。だが、兄であり彼を諌める立場であるとばかりに、微笑を押し殺し、自身の教科書を彼に手渡した。
「だめだよ。ちゃんと昨日、準備してこなくちゃ」
「わり、さんきゅ。次の休み時間、返す」
「こっちは数学、五限だから、それまでだったらいつでもいいよ」
「まじ? さんきゅ。じゃ、昼に」
「了解」
嬉しそうに本を抱えて立ち去っていく弟を眺め終えると、慈は席に戻った。
「また来たな、弟くん」
睨みつけるような視線の先には学友がいる。
「まあ、あの子、うっかりさんで可愛いでしょ」
「お前、あいつうざならちゃんと叱れよ」
「叱ってる。だめなものにはだめって」
「そうじゃなくてさ……あまやかしすぎてないか?」
学友の指摘に、そうかもしれないと思ってしまうのは、自分でも透に対して甘いと思うところがあるからだ。だが、ひとの家の関係にたかが同じクラスの友人だからといって口出しされるのは、少しだけむっとする。
「いいでしょ。俺たち兄弟なんだから」
「それも双子。一心同体っていいたいんだろ?」
じろりと慈の心の中を覗き込むような学友の目つきに、慈の心臓が跳ねた。
「な、なんだよ、急に」
「別に? ただ、兄弟にしてはなんか甘ったるいなぁと思ってさ」
「何が言いたい?」
「いーや、べつに? まるで恋人を眺めるような目つきだなと思っただけ。でも俺の勘違いだよな? だって、兄弟なんだから」
ぐさりと差し込まれたものに慈の頬に赤みが差した。指先が震えるのを必死にこらえる。
「あんた、最低だな」
学友への侮辱しか吐けないのをそのままに、言葉を投げかけると彼のほうがうわてだった。
「まあ、近親相姦しそうなやつよりゃましだろ」
ふざけやがって。
慈は、椅子の足を蹴った。蹴られてパイプが軋む音が響く。苛立ちを行動でおさめて、なんとか平常に戻さなくては。
そんな慈の救世主のように、次限をつげる鐘の音が響いた。
学友がなにか物足りなさそうにしながら、慈から遠ざかっていく。ほっと胸をなでおろすようにして歴史の教科書を机上で開いた。
彼にはきっと分からない。そういう思いが慈にはある。
透は慈にとって世界のすべてだ。
たとえ彼が大人になって、慈の手を滑り落ちてゆこうとしても――むしろそのために、今、自分がいるのだという認識を慈はしている。
惚れたなんて感情ではない。好きとかそういうものでもない。ましてや恋人になりたいわけでもない。
いつか自分から飛びたってしまいそうな存在が、まだ自分を必要としてくれているのだ。そのことが、慈にとって唯一の幸福なのだ。
「透……」
誰にも聞こえないように、彼の名前を呼んだ。
きっと誰にも聞こえていない。
(了)
✿7月7日:
梔子Gardenia
個人的に好きな花です。葉っぱは幼オオスカシバの大好物! 個人的に虫は苦手なので実物には悲鳴をあげてしまうので、お写真を拝見するたびに可愛い成虫のオオスカシバさんの美麗かつキュートなお姿にキュンキュンします。透明な翅が美しくて好きです。あと色合い。鶯あんみたいな胴部の色が可愛い。オオスカシバは可愛いです(二度目)。梔子の花言葉は「わたしはしあわせです」だそうです。あなた、ぼりぼり葉っぱ食われて妙な形の糞をまき散らされていますが、本当にしあわせなんでしょうか。しあわせって一体何なのでしょうか。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる