七月の花とBLの掌編

阿沙🌷

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✿7.15:夏椿

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沙羅しゃらさん、待ってました」
 玄関口にひょっこりと顔をのぞかせた一年ぶりの椿つばきの顔を見て、沙羅は表情をほころばせた。
「ああ。それにしても、椿、めちゃくちゃ身長伸びたな!」
「そうでもないですよ。沙羅さんのほうがまだ上」
「でもそのうち、追い抜かされてしまいそうだな!」
 わははと豪快に笑う一つしか歳の違わない従兄弟を見て、まぶしげに椿は瞼を伏せた。

 毎年、夏になると避暑と帰省を兼ねて、沙羅の家族ともどもこの村にやってくる。古めかしいだけの大きな屋敷が一番活気を得るのもこの時期だ。椿が祖父と共にくらしているこの日本家屋は二人暮らしには広すぎる。
 楽しみに待っていた夏だったが、一週間前、電話がなった。沙羅一家からだった。一家全員で帰省することが困難になったという用件だった。「急な用事でね」と叔母の口調はどこか重たそうだったが、要件に該当しないらしい沙羅は今年も来ることになった。

「おひとりで長旅、お疲れでしょう。今、麦茶持ってきますね」
 居間にまで彼を案内すると、椿はあわただしく足音を立てて台所に飛び込んだ。誰もいない厨の静けさの中にほっとしたような椿のため息がこぼれ落ちる。
「うわー、相変わらずだったなぁ」
 壁に寄りかかりながら独り言を零す彼の頬は暑さだけではなく胸を突き破りそうな感情――一年ぶりの従兄弟との再会によって引き起こされた――で火照っていた。
 冷蔵庫で冷やしておいた麦茶とグラスを用意して戻ってくる。何事もなく装う椿の異変に、沙羅は気が付くはずはない。
「ありがと」
 椿の差し出したグラスに感謝の意を伝えられる。
 沙羅とはそういう生き物だ。
 どんなに些細なことであったとしても、きちんと礼を言う。どこかガサツそうな大雑把な人間にも見えるが、ちゃんと気遣いの出来る男なのだ。椿はそう思っている。
「おう、沙羅くん、おかえり」
 祖父も居間に現れ、彼の顔を見てニッカと白い歯を見せて笑った。祖父のこういう笑い方はどことなく沙羅に似ている。
「どうも。お世話になります」
 ぺこりと腰を折る沙羅に「ええって~、ええってぇ」と軽く流す祖父。穏やかな空気が流れるこのひと時が今年も始まるのだと思うと椿は嬉しさにぎゅっと体が震えた。
 いや、今年は例年とは違うのだ。
 今まで彼の一家が寝泊まりしている状態ではなかなかうまくいかなかったが、今回の夏は彼ひとり。
 これから滞在期間の明一杯を気になる従兄弟と過ごせることに、椿は歓喜を覚えていた。
「でもさ、本当に良く来たねぇ」
「ええ、まあ、俺一人抜けても大丈夫みたいだったのでお願いして……」
「うちの椿が喜んでたよ」
「ちょっと、祖父ジィちゃん」
「え、本当に」
 くるりと丸くなった沙羅の瞳。次第に笑顔に変わっていくその反応が可愛らしい。
「よかった、無理言ってお邪魔になっていたらとか思っていたので」
「お、お邪魔だなんて! 沙羅さんいるとすごく楽しいです!」
「そう? 俺、何も出来ないけどなぁ」
 カラカラと沙羅が笑いながら言った。
「椿みたいなのを愛らしいっていうんだろうなぁ」

(了)

✿7月15日:
夏椿なつつばきJapanese stewartia
 別名「沙羅しゃらの木」。「サルスベリ」とも。お寺のイメージが強い。花言葉は「愛らしさ」「儚い美しさ」だそうです。一日花から儚い美しさという花言葉はきているのだそう。まぶしい白い花びらが鮮やかに初夏を彩る、そういう花だと思うのですが、うーん、なんか起承転結の起の部分しか書けなかったような話になってしまいました。これはタイムアウトです。
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