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✿7.14:凌霄花
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夏の終わりまで、待って。
気合とノリで言い放った蔓汰の告白の返事は、彼の返したことば一つで延期された。
「やっぱりだめだったかねぇ」
ひとり散歩の最中。公園のベンチに腰掛けながら青空を見やる。手元のコーラはプルタブを開けた瞬間、香りだし、しゅわしゅわと夏の音色を奏でた。
どこまでも青い。澄んでいると形容できそうな色彩に輝くような白色の雲を纏う。
彼のようだと蔦汰は思う。
凌天。
眩しいまでに一途な男だというのが、蔦汰の見解だ。
身長が控えめの彼は不利なはずのバスケで巨人たち相手にレギュラーの座を勝ち取った。細やかかつ俊敏な動きで相手を混乱させる、それが俺の取れる戦法だと息巻いて蔦汰に語ったのを覚えている。どこまでも清々しく笑ったその表情が頭上にぴったりと張り付いている青空のごとく、蔦汰の心の中に張り付いている。
そんな彼に次第に惹かれてゆき――というのはきっと嘘だろう。一目で勝負は決していた。この男に惚れるだろう、それは出会った瞬間に察していたことだった。
その通りにことは進み、実際に惚れた。
だからといって、自分は凌天をどうしたいのか、彼とどうなりたいのか、その答えだけはもやがかかったように曖昧でただ隣に居れればいいと思っていた。
それでも、凌天と蔦汰の気持ちが一緒なわけはない。
部活に一直線な野郎だという見解は外れ、彼がクラスの女子を連れて下校し始めた。――これは付き合いだした。
ショックでありながら、どうじにやはりそうかとも蔦汰の中に納得の二文字が浮かびあがった。だから、余計、この感情の種類が曖昧になる。
恋情にしては嫉妬が足りない。友情にしては独占欲の塊じみている。
それなら、自分であぶりだしてみよう。そう思って、彼に告白まがいのことをした。
好きだと語って、それで自分はどうなるのか、それで決着を付けようとした。
「待って、待って。それ、今、答えなくちゃだめ?」
だが、その行動に想像以上に慌てふためいたのは凌天のほうだった。
「夏の終わりまで、待って。そしたら、ちゃんと答えるから」
真面目くさった表情は彼には似合わない。その不自然な顔でそう告げられて、彼が自分の告白を本気にとったのだと悟った。それが嬉しくもあり、どうじに切なくもあった。
それから答えが出るまであと、一週間。
とうに学校は長期休暇に突入しており、課題に追われる蔦汰は室内に閉じこもって問題の消化に追われていた。気分転換がてらに散歩でも――そう思い立って、現在に至る。
「おーい、もうちょっと肘まげてー!」
風に運ばれてきた女子の高い声。どこかで自分とは無関係の青春が始まって継続中のようらしい。
そんななか、俺はコーラ一缶と向かい合っている。いいさ、こいつと青春してやる。
蔦汰は炭酸を一気に飲み下し、大きなげっぷをした。情けない、自分でそう思いつつ、腰を上げる。
帰ってまだしなければならないことはたくさんあるのだ。そろそろもどらなくてはならない。
なるべく大きく迂回するように帰路を選択すると、空になった缶一つ手の中に納めて、歩みだす。しばらくして、ボールが地面を打つ音を鼓膜が捕えた。
「え。お前」
自然に言葉を零したのは、公園の小さなゴールを練習相手にボールに向かい合う凌天の姿があったからだ。その傍らに彼を観察し指示する女子――一緒に下校していた彼女――のがいる。
気付かれてはならないような気がして、蔦汰は近くの木立に身を隠して彼らの様子をうかがった。
「駄目。もうちょっと瞬時に脇閉めないと」
「了解」
女子のいうことを素直に受け入れる凌天の額には大粒の汗が張り付いてた。
「そろそろ休憩にしよう」
「まだまだ」
「そうやって無茶して体壊しても知らないよ」
「……わかった」
なるべく木陰へと姿を隠すふたり。
「でもさ、意外だった。あんたがあんなに本気になるなんて」
「まあな」
「例の彼女?」
「いや、まあ……そういうものかも」
「どういうことよ」
「誰にもいうなよ。……本命に告られた」
「えっ、うっそぉ」
「だから、少しはかっこいいところ見せられるようになってから、付き合うつもり」
「あー、だから、私に練習見てくれって頼んだのね」
え。
二人の会話に耳を立てていた蔦汰は、唖然とした。
どういう意味だ――。
「さ、立って。練習再開」
「了解」
再び、凌天が立ち上がる。
きりりとした雄姿を目に焼き付けて、蔦汰はその場を静かに立ち去った。
どうやら、とっくに勝負はついていたらしい。
(了)
✿7月14日:
凌霄花trumpet vine
好きです。このオレンジ色を見るたびにああー夏だなーと思います。好きです。名前もなんとなく可愛い響き。凌霄花の霄は大空という意味らしく、天に向かって伸び行くみずみずしさを感じられてなんとも美しい……。いや、もう好きな花なんです。花言葉は「名声」「名誉」だそうで。好きなんですが、書きにくかった。
気合とノリで言い放った蔓汰の告白の返事は、彼の返したことば一つで延期された。
「やっぱりだめだったかねぇ」
ひとり散歩の最中。公園のベンチに腰掛けながら青空を見やる。手元のコーラはプルタブを開けた瞬間、香りだし、しゅわしゅわと夏の音色を奏でた。
どこまでも青い。澄んでいると形容できそうな色彩に輝くような白色の雲を纏う。
彼のようだと蔦汰は思う。
凌天。
眩しいまでに一途な男だというのが、蔦汰の見解だ。
身長が控えめの彼は不利なはずのバスケで巨人たち相手にレギュラーの座を勝ち取った。細やかかつ俊敏な動きで相手を混乱させる、それが俺の取れる戦法だと息巻いて蔦汰に語ったのを覚えている。どこまでも清々しく笑ったその表情が頭上にぴったりと張り付いている青空のごとく、蔦汰の心の中に張り付いている。
そんな彼に次第に惹かれてゆき――というのはきっと嘘だろう。一目で勝負は決していた。この男に惚れるだろう、それは出会った瞬間に察していたことだった。
その通りにことは進み、実際に惚れた。
だからといって、自分は凌天をどうしたいのか、彼とどうなりたいのか、その答えだけはもやがかかったように曖昧でただ隣に居れればいいと思っていた。
それでも、凌天と蔦汰の気持ちが一緒なわけはない。
部活に一直線な野郎だという見解は外れ、彼がクラスの女子を連れて下校し始めた。――これは付き合いだした。
ショックでありながら、どうじにやはりそうかとも蔦汰の中に納得の二文字が浮かびあがった。だから、余計、この感情の種類が曖昧になる。
恋情にしては嫉妬が足りない。友情にしては独占欲の塊じみている。
それなら、自分であぶりだしてみよう。そう思って、彼に告白まがいのことをした。
好きだと語って、それで自分はどうなるのか、それで決着を付けようとした。
「待って、待って。それ、今、答えなくちゃだめ?」
だが、その行動に想像以上に慌てふためいたのは凌天のほうだった。
「夏の終わりまで、待って。そしたら、ちゃんと答えるから」
真面目くさった表情は彼には似合わない。その不自然な顔でそう告げられて、彼が自分の告白を本気にとったのだと悟った。それが嬉しくもあり、どうじに切なくもあった。
それから答えが出るまであと、一週間。
とうに学校は長期休暇に突入しており、課題に追われる蔦汰は室内に閉じこもって問題の消化に追われていた。気分転換がてらに散歩でも――そう思い立って、現在に至る。
「おーい、もうちょっと肘まげてー!」
風に運ばれてきた女子の高い声。どこかで自分とは無関係の青春が始まって継続中のようらしい。
そんななか、俺はコーラ一缶と向かい合っている。いいさ、こいつと青春してやる。
蔦汰は炭酸を一気に飲み下し、大きなげっぷをした。情けない、自分でそう思いつつ、腰を上げる。
帰ってまだしなければならないことはたくさんあるのだ。そろそろもどらなくてはならない。
なるべく大きく迂回するように帰路を選択すると、空になった缶一つ手の中に納めて、歩みだす。しばらくして、ボールが地面を打つ音を鼓膜が捕えた。
「え。お前」
自然に言葉を零したのは、公園の小さなゴールを練習相手にボールに向かい合う凌天の姿があったからだ。その傍らに彼を観察し指示する女子――一緒に下校していた彼女――のがいる。
気付かれてはならないような気がして、蔦汰は近くの木立に身を隠して彼らの様子をうかがった。
「駄目。もうちょっと瞬時に脇閉めないと」
「了解」
女子のいうことを素直に受け入れる凌天の額には大粒の汗が張り付いてた。
「そろそろ休憩にしよう」
「まだまだ」
「そうやって無茶して体壊しても知らないよ」
「……わかった」
なるべく木陰へと姿を隠すふたり。
「でもさ、意外だった。あんたがあんなに本気になるなんて」
「まあな」
「例の彼女?」
「いや、まあ……そういうものかも」
「どういうことよ」
「誰にもいうなよ。……本命に告られた」
「えっ、うっそぉ」
「だから、少しはかっこいいところ見せられるようになってから、付き合うつもり」
「あー、だから、私に練習見てくれって頼んだのね」
え。
二人の会話に耳を立てていた蔦汰は、唖然とした。
どういう意味だ――。
「さ、立って。練習再開」
「了解」
再び、凌天が立ち上がる。
きりりとした雄姿を目に焼き付けて、蔦汰はその場を静かに立ち去った。
どうやら、とっくに勝負はついていたらしい。
(了)
✿7月14日:
凌霄花trumpet vine
好きです。このオレンジ色を見るたびにああー夏だなーと思います。好きです。名前もなんとなく可愛い響き。凌霄花の霄は大空という意味らしく、天に向かって伸び行くみずみずしさを感じられてなんとも美しい……。いや、もう好きな花なんです。花言葉は「名声」「名誉」だそうで。好きなんですが、書きにくかった。
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