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✿7.18:唐綿
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好きだ。
その思いは変わらない。
でも――いやだからこそ、俺はあんたを離れるべきだ。
心に決意の火を灯して亜透は彼――綿汰に挑んだ。彼のいる教室まで迎えに行くのはこれで最後だ。綿汰はいつもと変わらない日常を背負ったまま、綿汰は満面の笑みを弾けさせる。
「待たせた?」
綿汰が聞いてきた。
「全然」
亜透が答えた。そののち慌てて言葉を付け加える。いけない、このままではいつもと同じだ。
「少しは待ったかな」
「そっか」
綿汰は亜透の言動になんら不信感を抱かずに頷いた。
「今日、ちょっといいか?」
「いいって何が?」
「帰り道、歩きながらでもいいんだけれど、真面目に、話がある」
「真面目に?」
「ああ、かなり真面目な話」
昇降口を出て帰宅路につく。まだ学校を出たばかりでは人気が多い。歩みを進めて人通りの少なくなってきたころに亜透は話を切り出した。
「綿汰。ちょっといいか」
「ちょっとじゃなくてもいいよ」
「真面目な話」
「うん、何?」
これから何が起こるのかまだ知らない綿汰は、子犬のようなつぶらな目で亜透を見つめた。
これを裏切れるのか――。いや、本当に裏切るわけではない。むしろ、俺たちにとってそのほうがいいに決まっている。決断を下したはずの亜透の心が揺れる。
綿汰はもともと、不登校だった。
中学時代から続く引きこもり状態になんとか外に出そうと懸命になるのは彼にとって外の人間の無関係な問題に過ぎない。そんな外部の人間から家も近所で幼いころに交友のあった亜透が外界と綿汰の仲介点として機能を期待されるようになるのも仕方のないことといえばそうだったのかもしれない。
担任の教師に渡される今日の授業内容のプリントを持って毎週、彼に会いに行くのも仕方がないことといえば仕方がないこと――いや、最初は硬く閉じられていた彼の部屋のドアが次第に緩み始め、拒絶の感情が次第に寛容になっていくさまを見せられると謎のやりがいもあった。
綿汰は外へ出た。それを成し遂げたのは自分なのだという妙な達成感を亜透は抱いた。中学卒業後も亜透の背中を追って高校進学を決めた彼の成長ぷりに満足もしていた。
だが、次第に目の前に現れてきたのは、水面下で育ってきていた綿汰の亜透に対する依存感情。
亜透さえいればそれでいいという態度ばかりとられることの重さ。このまま一生、綿汰を背負って生きねばならないのかという重圧。
そろそろ手放すべき時期なのだと思う。
そうでなければ、多分、両方ともいっぺんに倒れてしまう。
「あのさ。綿汰」
「何?」
「俺たちさ――」
(了)
✿7月18日:
唐綿milkweed
bloodflowerとも。茎から出てくる液体など毒の植物のイメージ。「私を行かせて」という花言葉からぼちぼちこういうカプかなぁと想像してみたのですが……。
その思いは変わらない。
でも――いやだからこそ、俺はあんたを離れるべきだ。
心に決意の火を灯して亜透は彼――綿汰に挑んだ。彼のいる教室まで迎えに行くのはこれで最後だ。綿汰はいつもと変わらない日常を背負ったまま、綿汰は満面の笑みを弾けさせる。
「待たせた?」
綿汰が聞いてきた。
「全然」
亜透が答えた。そののち慌てて言葉を付け加える。いけない、このままではいつもと同じだ。
「少しは待ったかな」
「そっか」
綿汰は亜透の言動になんら不信感を抱かずに頷いた。
「今日、ちょっといいか?」
「いいって何が?」
「帰り道、歩きながらでもいいんだけれど、真面目に、話がある」
「真面目に?」
「ああ、かなり真面目な話」
昇降口を出て帰宅路につく。まだ学校を出たばかりでは人気が多い。歩みを進めて人通りの少なくなってきたころに亜透は話を切り出した。
「綿汰。ちょっといいか」
「ちょっとじゃなくてもいいよ」
「真面目な話」
「うん、何?」
これから何が起こるのかまだ知らない綿汰は、子犬のようなつぶらな目で亜透を見つめた。
これを裏切れるのか――。いや、本当に裏切るわけではない。むしろ、俺たちにとってそのほうがいいに決まっている。決断を下したはずの亜透の心が揺れる。
綿汰はもともと、不登校だった。
中学時代から続く引きこもり状態になんとか外に出そうと懸命になるのは彼にとって外の人間の無関係な問題に過ぎない。そんな外部の人間から家も近所で幼いころに交友のあった亜透が外界と綿汰の仲介点として機能を期待されるようになるのも仕方のないことといえばそうだったのかもしれない。
担任の教師に渡される今日の授業内容のプリントを持って毎週、彼に会いに行くのも仕方がないことといえば仕方がないこと――いや、最初は硬く閉じられていた彼の部屋のドアが次第に緩み始め、拒絶の感情が次第に寛容になっていくさまを見せられると謎のやりがいもあった。
綿汰は外へ出た。それを成し遂げたのは自分なのだという妙な達成感を亜透は抱いた。中学卒業後も亜透の背中を追って高校進学を決めた彼の成長ぷりに満足もしていた。
だが、次第に目の前に現れてきたのは、水面下で育ってきていた綿汰の亜透に対する依存感情。
亜透さえいればそれでいいという態度ばかりとられることの重さ。このまま一生、綿汰を背負って生きねばならないのかという重圧。
そろそろ手放すべき時期なのだと思う。
そうでなければ、多分、両方ともいっぺんに倒れてしまう。
「あのさ。綿汰」
「何?」
「俺たちさ――」
(了)
✿7月18日:
唐綿milkweed
bloodflowerとも。茎から出てくる液体など毒の植物のイメージ。「私を行かせて」という花言葉からぼちぼちこういうカプかなぁと想像してみたのですが……。
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