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✿7.19:月下美人
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夜。
机上のノートを閉じると月下は、立ち上がった。
「あら、どこに行くの?」
自室を出てリビングまで出てくると夕食の片づけに追われている母親に声をかけられた。
「ちょっと散歩」
「え、まって、今何時だと思っているの?」
壁に掛けられた時計は、九時を指す。
「大丈夫。危ないところにはいかない」
小学生でもないんだしと心中で思いながら、母親を振り切って玄関にしゃがんだ。靴ひもをきつく結んだスニーカー。そのまま外へ飛び出した。
ふと、誰かに呼ばれたような気がした。虫の知らせというやつか。
よく分からないが、近所の通りまで駆け行くと街頭に照らされた道路には人気なく閑静でどこか底冷えするような夏が置き去りにされていた。
そこに彼はいた。
薄暗い世界にそこだけぼんやりと白く光って見えるみたいに。
「あきら、だよな」
月下が尋ねると彼がこちらを向いた。月下をじっと見つめると、静かに首を縦に振った。
月下は彼に近寄る。彼は動かない。
「どうしんたんだよ、こんな夜中に」
「お前こそ」
「お前に呼ばれたような気がして」
月下の言葉に、彼はにこりと微笑んだ。
「俺さ、しばらくの間、遠くに行くんだ」
「遠く?」
「そう、もう戻ってこられないかもしれない」
「何それ、引っ越し?」
「そんな感じかもしれない」
「何言ってんのさ」
「月下、俺、本気だよ」
彼の表情は生真面目そのものだった。月下の瞳を覗き込むその視線が痛いほどに張りつめている。
「あきら……。まって、でもさ。ほら、携帯あるし、好きな時に連絡できるし、離れてても大丈夫だよ」
「それも多分、無理かも。俺の携帯壊れた」
「新しいの買えって、なあ」
彼は、口をつぐんだ。
夜が深まる気配がした。
「それじゃ、月下。俺、行くね」
「え、あ……」
「後のこと、お前に頼むわ」
「お、おう」
「あとさ、俺……」
ひゅっと風が鳴った。
突風に目をつむった月下が再び瞼をあげた時、彼の姿はどこにもなかった。
その日、月下の世界から、彼が消えた。
「聞いた? 篠原さんちの話」
「うん、息子さん、かわいそうにねぇ」
「衝突事故だそうですって」
「運よく旦那さんと奥さんは助かったらしいけれどねぇ」
「あきらちゃん、残念ねぇ。本当にいい子だったんだけど」
あとさ、俺……月下と会えてよかったと思うんだ。
(了)
✿7月19日:
月下美人
「儚い恋」「儚い美」という花言葉を持つ通り、一夜にして枯れてしまう幻想的な植物。コウモリを媒介として使っていたり、完全にファンタジー・ワールドの住人だろ……と思ってしまうくらいお耽美な植物という個人的な感想。いざ、これでSSを書こうと思うと頭の中真っ白になりますね。だめです。こりゃもう非現実的なことににげてしまいますわな……。
机上のノートを閉じると月下は、立ち上がった。
「あら、どこに行くの?」
自室を出てリビングまで出てくると夕食の片づけに追われている母親に声をかけられた。
「ちょっと散歩」
「え、まって、今何時だと思っているの?」
壁に掛けられた時計は、九時を指す。
「大丈夫。危ないところにはいかない」
小学生でもないんだしと心中で思いながら、母親を振り切って玄関にしゃがんだ。靴ひもをきつく結んだスニーカー。そのまま外へ飛び出した。
ふと、誰かに呼ばれたような気がした。虫の知らせというやつか。
よく分からないが、近所の通りまで駆け行くと街頭に照らされた道路には人気なく閑静でどこか底冷えするような夏が置き去りにされていた。
そこに彼はいた。
薄暗い世界にそこだけぼんやりと白く光って見えるみたいに。
「あきら、だよな」
月下が尋ねると彼がこちらを向いた。月下をじっと見つめると、静かに首を縦に振った。
月下は彼に近寄る。彼は動かない。
「どうしんたんだよ、こんな夜中に」
「お前こそ」
「お前に呼ばれたような気がして」
月下の言葉に、彼はにこりと微笑んだ。
「俺さ、しばらくの間、遠くに行くんだ」
「遠く?」
「そう、もう戻ってこられないかもしれない」
「何それ、引っ越し?」
「そんな感じかもしれない」
「何言ってんのさ」
「月下、俺、本気だよ」
彼の表情は生真面目そのものだった。月下の瞳を覗き込むその視線が痛いほどに張りつめている。
「あきら……。まって、でもさ。ほら、携帯あるし、好きな時に連絡できるし、離れてても大丈夫だよ」
「それも多分、無理かも。俺の携帯壊れた」
「新しいの買えって、なあ」
彼は、口をつぐんだ。
夜が深まる気配がした。
「それじゃ、月下。俺、行くね」
「え、あ……」
「後のこと、お前に頼むわ」
「お、おう」
「あとさ、俺……」
ひゅっと風が鳴った。
突風に目をつむった月下が再び瞼をあげた時、彼の姿はどこにもなかった。
その日、月下の世界から、彼が消えた。
「聞いた? 篠原さんちの話」
「うん、息子さん、かわいそうにねぇ」
「衝突事故だそうですって」
「運よく旦那さんと奥さんは助かったらしいけれどねぇ」
「あきらちゃん、残念ねぇ。本当にいい子だったんだけど」
あとさ、俺……月下と会えてよかったと思うんだ。
(了)
✿7月19日:
月下美人
「儚い恋」「儚い美」という花言葉を持つ通り、一夜にして枯れてしまう幻想的な植物。コウモリを媒介として使っていたり、完全にファンタジー・ワールドの住人だろ……と思ってしまうくらいお耽美な植物という個人的な感想。いざ、これでSSを書こうと思うと頭の中真っ白になりますね。だめです。こりゃもう非現実的なことににげてしまいますわな……。
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