七月の花とBLの掌編

阿沙🌷

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✿7.20:日輪草

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――貴方あなたは俺の英雄ヒーローです。
 たかが、小学生のころどぶに落ちたところを助けただけなのに、勝手に尊敬と憧れの目で見つめてくる同い年がいる。
 彼――日輪ひわは苦手だ。日向ひなたはそう思った。
 エスカレーター式に高等部まで同じ学舎の中に閉じ込められることになってしまったが、相変わらず彼は夢から覚めないご様子で日向の周囲をキャンキャン言って飛び回っている。
 それだけであったなら、彼がそれほどまでに日輪を苦手とはしていないだろう。純粋でまっすぐな瞳で日輪が日向を見つめる度に、日向はその幻想に乗ってしまうのだ。つまり、日輪の幻想そのものの「英雄」ぶった行動に出てしまう。
 本当なら興味もなかった部活で一軍として活躍するために格闘してみたり、学業だって落第さえしなければというスタンスだったのに日輪の眼力に操られるように主席を目指しキープする日常に変った。
 全てのことに全力投球せざるをえなくなった。日輪という存在のせいだ。
 だが、見方を変えれば、日輪がいなければ、日向などペーペーの存在だ。やる気などどこにしまったのか忘れてしまったような、だらしのない人間、それこそが日向の素なのだから。
 そういう事実を知っているからこそ、時折、不安なのだ。
「あ、日向さん!」
 廊下でばったり日輪に出くわして、日向は内心で「げっ」と舌を出した。流石に外面に出すわけにはいかない。日向は日輪にとってのヒーローなのだから。
「やあ、日輪」
 爽やかな営業スマイルは、日輪のおかげで身についたといってよい。ファースト・フード店でのアルバイトの際、かなり役に立っている。ただし笑顔スマイルはゼロ円でしか売れない。
「今日も放課後は部活ですか」
「うん、今度の週末、他校との練習試合があってその準備のために少し長引くかも」
「そっか。また一緒に帰りたいと思っていたので」
 しゅんと肩を落とす彼は日向の素を知らない。日向の笑顔が作り物であるとすらも。それが日向の胸をチクリと刺す。まるでだましているかのような罪悪感が心に棘をさしてくるのだ。
「でも、これで放課後、日向さんの練習している姿を見られますね」
 ふふっと嬉しそうに笑う日輪に日向はズキリと痛む胸を隠した。
「ありがとう」
 そうお礼を言って、爽やかに立ち去るのが、英雄像だろう。
 困った。
 彼を手放したくないばかりに――いつまでも偶像を演じなくてはならないから。

(了)


✿7月20日:
日輪草ニチリンソウSunflower
 向日葵ひまわりのことです。花言葉は「あなただけを見つめる」。太陽を追うように咲くことからきている花言葉らしいです。
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