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しおりを挟む「あぁ、大丈夫。
こんな所でぼぅっとしていた僕達が悪いんだから」
避けに避けていた王子殿下だったが、意外にも常識はあるらしい。
確かに訓練場近くの細道に、王族が入り込む等想定外の事だ。
「な!?
フィスが謝る事なんてないでしょう!?
あんたねぇ、フィスに当たりでもしたらどうするのよっ!?
あぁ、大丈夫?」
庇われたにも拘らず、目を吊り上げて一方的に怒鳴るメイドに、エリルシアはポカンとしてしまった。
キーキーとなおも煩く喚いて、エリルシアに食って掛かるピンク髪のメイドを王子が宥めているが、騒ぎを聞きつけたのか、見習い達の教官を務めている騎士の一人がやって来た。
騎士は王子と、その横でピンクの癖髪を振り乱してギャンギャンと、エリルシアを怒鳴りつけるメイドの姿を見て、慌てて割って入り説明した。
木剣を飛ばしたのは、別の見習い騎士だと言う事。
エリルシアは無関係なのに、対処に走ってくれただけだと言う事。
その後、この道は訓練場に近く、訓練時間中は通らないよう通達が出ている事も付け足して説明していた。
詰まる所、通達を無視してこの通路に入り込んだお前達が悪いと、遠回しに言っているのも同然である。
メイドは兎も角、仮にも王族が相手なのに、怯まず注意出来る騎士は大したものだが、別の視点から見れば軽んじているのかもしれない。
ホメロトスと王太子夫妻の関係性を見るに、あながち間違っていないのではないだろうか。
「兎に角、訓練のない日なんてないですし、この付近は危険なので近づかないようお願いします」
騎士の言葉に、立ち上がって土汚れを払っていたラフィラスは素直に頷く。
「ごめん。
馬房に行くのに、ここが近道だと聞いたんだ。
これからは通らないようにするよ」
騎士は『そうしてください』と言いおいて、エリルシアに声を掛けてから戻って行く。
木剣を飛ばした見習いを鍛え直すからと、エリルシアには今日は切り上げてほしいと言う内容だった。
仕方ないと、その場を後にしようとしたのだが、ラフィラスが話しかけてきた。
「君にも、ごめんね。
君が来てくれなかったら、僕は大怪我を負って、見習い騎士が罰せられていたかもしれない。
そんな事にならずに済んだ…本当にありがとう。
ほら、アーミュも謝って。
彼女は飛ばした本人じゃないし、僕達を助けてくれたんだ」
ラフィラスが、自身の斜め後ろに立っていたピンク髪のメイドに、やんわりと言葉を向ける。
「アーミュが僕を心配してくれるのは嬉しいけど、だからって誰にでも食って掛かるのは良くないよ」
本気で意外だ…。
馬車箱の中から覗き見た姿、言葉、そこに前世とそれ以前の記憶を掛け合わせると、絶対にラフィラスは『お頭が花畑王子』だと思っていたのだ。
確かに環境は気の毒だと思う。
王太子夫妻のやらかしのせいで、祖父である現王ホメロトスの手前、溝を感じ肩身が狭いのは事実だろう。
尤も、これまでの王太子ラカール、妃フィミリー、そして経験も知恵もある公爵達の様子から、どうも聞いた話を鵜呑みにするのは危険だと感じている。
自身の祖母もガッツリ絡んでいるし、実際、祖母の言葉にもあった。
―――後は………これは最終手段だけど、王太子殿下と妃殿下なら…
王太子とその妃は噂通りの人物ではなく、祖母の信頼に足る人だと言う事だ。
となれば彼らが絡む一連の話も、裏があると睨んで間違いないだろう。
しかし、当事者達が口を噤んでいるのだから、其処には触れないのが吉と判断を下した。
何にせよ、ラフィラスからは謝罪も感謝も貰ったので、早々に退散したいと思う。
ゴネて感謝も謝罪もしないメイドは、心底どうでも良い。いや、どうでも良いと言うより絶対に関わりたくない。
どうにも厄介な気配が滲み出ている。
となれば君子危うきに近寄らず――撤退一択だ。
なのに、一応常識はあるらしい王子だが、空気は読めないらしい。
「ごめん、アーミュの分も僕が謝るよ。
それにしても君、随分と小柄なのに剣も扱えるんだね、凄いな…。
その、もし良かったら、僕の練習相手になってくれない?」
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