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55 狭間の物語 ◇◇◇ レヴァン5
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お茶の入ったカップを誰かに投げつけようとしている?
レヴァンは、その疑問が形になるより先に動いていた。
咄嗟に割って入る。
見事に茶を被ってしまったが、黒い衣装だったので見た目に問題はない。季節的にも直ぐに乾くだろう。
犯人は詰めが甘いのか温度もぬるく、掛けられた衣服の生地もそこまで薄い訳ではないので、火傷の心配もなさそうだ。
犯人へ目を向ける。
ピンクの癖毛、ピンクの瞳……顔立ちは悪くはないのだろうが、粗野な感じにレヴァンは思わず眉間に皺を寄せ『随分と王宮侍女の質は下がっているのですね』なんて苦言を呈してしまった。
そして…思い出す。
自分が隣国へ預けられ、そして呼び戻された元凶の王子……その王子に纏わりつく害虫。
ジョストルからその話を聞かされた時、レヴァンは淡々と王に進言して遠ざければ良いのでは?…と、反射的に問うていた。
だが当の王自身に問題があった。
見栄っ張りな八方美人で単細胞。
目先の事に気を取られ易く、大雑把で深く考えない。
こう列記すると酷い人物のようだが、国民からの人気は高い。
身分に対しても大雑把なので、相手が平民だろうと分け隔てなく対応するのだ。
そんな理由で人気はすこぶる高いのだが、人気に比例して周りが苦労する始末。
ただ、そんな人物なので独裁等に走る事はなく、政務に関わる者達は、窮屈な思いをせずに済んでいるが、反対に頭を抱えているのは公爵他、王を近くで支える者達だ。
侍女とメイドの区別がついていない等の些末な問題に始まり、果ては王太子夫妻の飼い殺し問題……。
単細胞なので思った事が直ぐ顔に出てしまう為、秘密裏に事を進める、欺く等の芸当が出来ないのだ。
王太子夫妻との確執も、その辺りに起因しているらしいのだが、まだ時期尚早とジョストルは判断したのか、レヴァンはそこまで聞かされていない。
それにしても……と、レヴァンは青みがかった金髪の少年を一瞥する。
髪色、そして自分とよく似た青い瞳…王子との顔合わせはまだだったが、彼が王子ラフィラスその人だと判断して良さそうだ。
彼は真っ青になって椅子から立ち上がっていた。
王子に対して不敬かもしれないが、ピンク女が彼付きである以上、責任は彼にあると、レヴァンは言葉で一刺ししておく。
そしてピンク女が茶を掛けようとしていた相手だろう少女…。
癖のない真っすぐな紫色の髪…髪色自体がそこそこ珍しいが、印象的だったのはその瞳。
黒にも見えそうな深淵の紫……。
何よりその少女は怯えてさえいなかった。
使用人に茶を掛けられそうになる等、幼い令嬢なら怯え、泣き出しても不思議ではないのに、彼女はとても冷静に落ち着いていた。
まるで使用人の行動を把握して、被害を減らそうとするかのように、椅子に腰を下ろしたままでいたのだ。
どんな名を冠すれば良いのか、自分でもわからない感情のまま見つめていると、彼女はレヴァンの視線に気付いたらしく、徐に椅子から立ち上がり、年齢に見合わぬ美しい所作でカーテシーまで披露する。
初めてだった。
自分を見ても変わらない態度の相手等、出会った事がなかった。
いや、勿論レヴァンの世界はとても狭く、出会った人物の数なんて高が知れてる。だから、彼女の様に態度が変わらない人間なんて、きっともっと居るのだろう。
しかしこれまでの少ない経験の中で、そんな相手が居なかった事は事実。
今にして思えば、きっとこの時には既に心が傾いていた。
あの時は抱いた感情の名もわからなかったけれど……。
レヴァンは、その疑問が形になるより先に動いていた。
咄嗟に割って入る。
見事に茶を被ってしまったが、黒い衣装だったので見た目に問題はない。季節的にも直ぐに乾くだろう。
犯人は詰めが甘いのか温度もぬるく、掛けられた衣服の生地もそこまで薄い訳ではないので、火傷の心配もなさそうだ。
犯人へ目を向ける。
ピンクの癖毛、ピンクの瞳……顔立ちは悪くはないのだろうが、粗野な感じにレヴァンは思わず眉間に皺を寄せ『随分と王宮侍女の質は下がっているのですね』なんて苦言を呈してしまった。
そして…思い出す。
自分が隣国へ預けられ、そして呼び戻された元凶の王子……その王子に纏わりつく害虫。
ジョストルからその話を聞かされた時、レヴァンは淡々と王に進言して遠ざければ良いのでは?…と、反射的に問うていた。
だが当の王自身に問題があった。
見栄っ張りな八方美人で単細胞。
目先の事に気を取られ易く、大雑把で深く考えない。
こう列記すると酷い人物のようだが、国民からの人気は高い。
身分に対しても大雑把なので、相手が平民だろうと分け隔てなく対応するのだ。
そんな理由で人気はすこぶる高いのだが、人気に比例して周りが苦労する始末。
ただ、そんな人物なので独裁等に走る事はなく、政務に関わる者達は、窮屈な思いをせずに済んでいるが、反対に頭を抱えているのは公爵他、王を近くで支える者達だ。
侍女とメイドの区別がついていない等の些末な問題に始まり、果ては王太子夫妻の飼い殺し問題……。
単細胞なので思った事が直ぐ顔に出てしまう為、秘密裏に事を進める、欺く等の芸当が出来ないのだ。
王太子夫妻との確執も、その辺りに起因しているらしいのだが、まだ時期尚早とジョストルは判断したのか、レヴァンはそこまで聞かされていない。
それにしても……と、レヴァンは青みがかった金髪の少年を一瞥する。
髪色、そして自分とよく似た青い瞳…王子との顔合わせはまだだったが、彼が王子ラフィラスその人だと判断して良さそうだ。
彼は真っ青になって椅子から立ち上がっていた。
王子に対して不敬かもしれないが、ピンク女が彼付きである以上、責任は彼にあると、レヴァンは言葉で一刺ししておく。
そしてピンク女が茶を掛けようとしていた相手だろう少女…。
癖のない真っすぐな紫色の髪…髪色自体がそこそこ珍しいが、印象的だったのはその瞳。
黒にも見えそうな深淵の紫……。
何よりその少女は怯えてさえいなかった。
使用人に茶を掛けられそうになる等、幼い令嬢なら怯え、泣き出しても不思議ではないのに、彼女はとても冷静に落ち着いていた。
まるで使用人の行動を把握して、被害を減らそうとするかのように、椅子に腰を下ろしたままでいたのだ。
どんな名を冠すれば良いのか、自分でもわからない感情のまま見つめていると、彼女はレヴァンの視線に気付いたらしく、徐に椅子から立ち上がり、年齢に見合わぬ美しい所作でカーテシーまで披露する。
初めてだった。
自分を見ても変わらない態度の相手等、出会った事がなかった。
いや、勿論レヴァンの世界はとても狭く、出会った人物の数なんて高が知れてる。だから、彼女の様に態度が変わらない人間なんて、きっともっと居るのだろう。
しかしこれまでの少ない経験の中で、そんな相手が居なかった事は事実。
今にして思えば、きっとこの時には既に心が傾いていた。
あの時は抱いた感情の名もわからなかったけれど……。
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