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悲鳴を上げた子供へと、その場の全員が弾かれたように視線を向ける。
真ん丸に見開かれたその子の目は、怯えと嫌悪を滲ませて、ある一点に固定されていた。
何時の間に…誰もがそう呟きたくなる。
ゆらりと、まるで幽鬼か何かの様に、ローブを着込んだ何者かが立っていた。
顔を俯かせているので、一瞬誰だかわからなかったが、零れ落ちた一房の髪色で気が付く。
孤児院で暮らしていた子供は、当然その髪色の持ち主を知っている。
そして怖がっていた。一部は危害も加えられていたらしいから、怯えて嫌うのも当たり前だ。
ジャリ…と地面を踏みしめる音に、息をのんだのは誰だろう…。
真っ先に動いたのはヨナスだった。
ヨナスは震えて動けない子供を、直ぐ近くにいるエリルシアの方へと押し出してから、守るべきラフィラスとレヴァンの方を確認してゆっくりと抜剣する。
足元が定まっていないのか、ふらりふらりと揺れ立つアーミュは、本当に不気味としか言いようがない。
不気味である事を否定はしないが、少女一人に何故そんなに警戒をしているのだろう……。
最初は、エリルシアにはわからなかった。
丁度ヨナスの身体で視界が遮られ、首から下が見えなかったから…。
だが彼が動いて視界が広がれば、瞬時に理解出来る。
アーミュはその手に短剣を持っていた。
飾り気のない武骨なそれを、だらりと伸ばした手でしっかりと握っている。
「………フィス、あたしよ…」
ヨナスがすぐさまラフィラスの前に割り込み、アーミュとの間に立ち塞がった。
当のラフィラスは動けないのか動かないのか…ヨナスの背後に庇われながら立ち尽くす。
「……なんで、よ……なんで来てくれないのよ!」
叫ぶと同時に、アーミュは短剣を下げ持ったまま、ラフィラスの方へと足を踏み出した。
間に剣を構えたヨナスが居るのに、見えていないのだろうか…?
だが、相手が少女だろうが顔見知りだろうが、武器を携帯しているような人物を、ヨナスは勿論、動ける護衛兵も見逃したりはしない。
訓練で培った動きで以て、護衛兵が横からアーミュへと槍を振り被る。
アーミュも短剣を振り回した。
出鱈目にぶんぶんと短剣を振り回して護衛兵を威嚇するアーミュに、ヨナスが一気に間合いを詰めて、その短剣を奪い取ろうと手を伸ばす。
だが、それより早く、短剣はアーミュの手から抜け飛んだ。
アーミュの制御を離れた短剣は、ぐるぐると回りながら高く上がり、そして放物線を描いて落下し始める。
落下地点はヨナスの斜め後ろ。
其処には、震えて動けなくなった子供がへたり込んでいた。
動ける者達は必死に、重力に引かれて落ちる短剣へ追い縋ろうと手を伸ばす。
だが間に合わない。
ヨナスから子供を預けられる形になったエリルシアも、落ちてくる短剣の切っ先を見上げながら、動けない子供を引っ張って動かそうとする。
しかし引っ張るエリルシアも子供……体格の変わらない相手を意のままに動かす事等、到底不可能だった。
―――南無三!
脳裏に浮かんだ言葉は恐らく無意識のモノ。
以前、似たような光景の時には、弾き返す為の木剣を持っていた。
しかし、今は何もない……。
エリルシアは動けない子供から離れる事も出来ず、咄嗟に覆い被さる。
「エリルシア!!??」
「だめだーーー!」
「っく!!」
誰のモノか判別のつかない叫びが、その場で膨れ上がった。
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