【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

文字の大きさ
73 / 165

73



 ちょっとした森を抜けて、もう少し進めば湖の畔に辿り着く。
 そこに屈み込んで、何時もの様に感覚を研ぎ澄ました。

 湖の底、深い部分にあった澱みに意識を向ける。
 ついでの練習とばかりに、魔力も意識して伸ばしてみる。

(ん……やっぱり魔力のように感じるけれど、何となく自分の中にあるモノとは異なる様に思えるのは何故…?
 魔力じゃない可能性……。
 まさか妖精とか怪異とか?
 あぁ、やっぱりこの世界の魔法の根幹がわからなくて、何もかもが手探りだわ……これではいつまで経っても…)

 だが、ふと『そう言えば』と小さく零れた。

(魔力じゃない魔力……環境魔素とかなら?
 環境魔素が存在した世界の時は確か……あぁ、そうよ。あれは瘴気に近くない?
 魔物が発する瘴気と少し違うのは、環境魔素が澱んだものだからと考えれば…。
 なら、あの蜘蛛の巣の様に広がっている残滓は…)

 背後でガサリと木の葉を揺らす音がして、エリルシアはハッと振り向く。
 瞬時に視線を走らせ……魔物の気配ではなさそうとわかり、エリルシアは緊張と警戒を解いた。
 ザッザッと下草を踏みしめる音が近づいてくる。

 木々の後ろに人影が見えてきた。
 領民の誰かだろう。
 湖の様子を見に来たか、それとも水を汲みに来たか……何にせよ、エリルシアが此処ここに居ては邪魔になるだろうと立ち上がった。

「あれ、エリー様?」

 領民で冒険者のソッドが目を丸くして立ち止まった。
 ソッドの後ろには、彼の先輩にあたるファングもいる。

 後ろのファングはエリルシアと目が合うと、途端に顔を俯かせて会釈した。
 毎度の事なのでもう慣れはしたが、嫌われる理由に心当たりはない。もしかしたら身分を気にしての事かもしれないが、何にせよ、ちょっぴり途方に暮れてしまうのも事実。
 そんな、エリルシアと兄貴分であるファングの微妙な空気感も知らず、ソッドが嬉しそうにエリルシアに駆け寄る。

「何してんすか? 釣り?」

 にこにこと屈託のない笑顔のソッドに、エリルシアは苦笑を浮かべる。

「釣りではないわね。
 それで? ソッド達はどうして此処ここに?」
「サキュンツァ探しに来たんすよ。
 前に比べたら、めちゃくちゃ減っちゃってるから、探さないといけなくなっちまってて」

 なるほどとエリルシアは頷いた。

 たった3年程前の事なのに、随分と昔に感じる。
 レヴァンから提案された魔物買い取り云々うんぬんのアレだ。
 エリルシアは王宮を後にした後、そんな話はすっかり他の記憶に圧し潰されて、思い出しもしなかったのだが……。
 暫く経ってエリルシアは領地に、両親を始めとした他の者達は官舎館に戻ったのだが、戻った父ティルナスからある日手紙が届いた。

 エリルシアが王宮から去ったので、レヴァンはティルナスに話を持って行ったのだろう。
 その話はゆっくりと現実味を帯び、そして実現した。
 冒険者ギルドとも連携を始めた事で、その規模も拡大出来た。

 あの当時は毎日のように、サキュンツァという金にならない魔物の退治と処理に追われていて、機械的に対応してたのに、それが生きたままならお金になると言われたのだ。
 冒険者は勿論、そうでない領民達も大喜びで生け捕りに参加した。
 そうして盛り上がったサキュンツァ捕獲だったが、水源に水が戻り始めた頃から、その数は瞬く間に激減した。

 元より弱い種で、環境への耐性力、適応力で勢力を伸ばす様な在り方だから、環境が変われば、その時に一番即した競争相手に生息域を奪われるのは想像に難くない。

「それで成果はどう?」

 聞いてみると、ソッドが眉をハの字にして肩を竦める。
 ついでにお手上げのポーズまで追加済みだ。




感想 28

あなたにおすすめの小説

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

婚約破棄される前に、帰らせていただきます!

パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。 普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。