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しおりを挟む夜も更けた深夜の回廊は、月明かりを受けてシンと静まり返っていた。
今日は何の催しもなかったようで、巡回の騎士達の靴音だけが妙に木霊している。
そんな一角、こんな時間にも拘らず煌々と明かりが灯り、未だ動く人がいる部屋があった。
―――コンコンコン
ノックの音に部屋の主人が顔を上げる。
「どうぞ」
入ってきたのは文官、部屋の主はラフィラスだ。
文官が書類と手紙を抱えていて、その表情は冴えないように見える。
「どうかした?」
「……はい、その、此方をご覧ください」
そう言って文官は抱えていた書類と手紙を執務机の上に置いた。
その中から1通の手紙を抜いてラフィラスに手渡す。
無言で受け取り、封を開いて手紙を読み始めた。
「………珍しいね。直轄領の代官からと言うのは…」
「はい。
それで此方の書類が添付されておりました」
今度は書類の方から幾つかを抜き出す。
ラフィラスはそれも受け取り無言で目を落とした。
その表情は然程変化を見せないが、見終わると途端に小さく嘆息する。
「ありがとう。
この件はちゃんと考えるから、下がってくれて大丈夫だよ。
今日はもう遅いから、皆にも気を付けて帰る様にと伝えておいて」
文官は恭しく一礼して退出していった。
入れ替わる様に入ってきたのはレヴァンだ。
「こんな時間に文官ですか?」
「あぁ、ちょっと…ね。
それよりレヴァンは帰ったのではなかったの?」
ラフィラスとレヴァン…3年程前は何処かぎこちなかったのに、今では随分と馴染んでいる。
尤も、知る人ぞ知る事情が二人にはあるので、本当に馴染んでいるのかどうかは、傍目にはわからない。
「あぁ、あまりに馬鹿らしい用件だったので戻って来たんですよ」
「へぇ…と言う事は、またウッカー殿?」
レヴァンは苦虫を嚙み潰したように顔を顰めた。
「えぇ、まぁ……あの人は懲りると言う事を知らないようですので」
レヴァンは肩を竦める。
「私より殿下はどうなんです?」
「僕?
僕の方は静かなものだよ。
王陛下もずっと大人しくてしててくれているし、両親である王太子夫妻が、変わらず僕の感情を優先してくれているから……ありがたい限りだね。
それに、どうやら弟か妹が出来そうだから」
さらりと重要な事を聞かされて、レヴァンは眉根を寄せた。
「殿下……」
「まだはっきりした訳じゃないらしい。
明日……もう今日、だね…診察だと聞いてるよ。
……ゃ………」
目を伏せたまま、ラフィラスが小さく呟くが、最後の言葉は聞き取れなかった。
聞き取れなかった言葉を問おうとしたが、その前にラフィラスが続ける。
「そうそう、やっと街道整備の話が進みそうだよ」
「ぇ…ぁ、そう、なんですね」
「うん、本当にやっと…だ。
これでウィスティリス領の復興も、またもう少し進む…」
久しく見なかったラフィラスの微笑みに、レヴァンは目を伏せた。
「レヴァンはウィスティリス領へは?」
「…ぇ、えぇ…1月ほど前に一度。
ただ魔物取引はそろそろ終幕になりそうですね。
ウィスティリス嬢からの情報の検証で、今の分は終わりになりそうです」
ラフィラスが穏やかに目を細める。
「そう。
……その、どうだった?
元気にしているだろうか……」
レヴァンは小さく嘆息してから、少々ぶっきらぼうに話す。
「会えませんよ」
「え……そうだったの?」
「えぇ、ウィスティリス小夫人に完全遮断されていますからね」
ウィスティリス小夫人とは、婚約者との婚姻を済ませ、領地経営勉学中のティルシーの事だ。
「そう……」
3年程前のあの日、ラフィラスとレヴァンは、血を流し意識を失ったエリルシアの姿が最後となっていた。
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