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だが、思わぬところで騒動が勃発していた。
先に部屋を出て宿屋を出たはずのラフィラス達の姿が、まだ1階ホール内に見える。
デマン達も後を追おうと、部屋を出て階下へ顔を向けた時に気付いた。
苦悶…と言うより鬼のような形相のファングを引っ張るソッドに、デマンは何か呟いてから其処に近付く。
「カプロン様、どうしたんです?」
デマンの呼び掛けに。ヨナスが振り返った。
「あ、あぁ…ちょっと…な」
その表情は困惑に縁取られている。
さっぱりわからないと言いたげに、デマンは首を伸ばして覗き込んだ。
「え…ぁ、なんで……御領主様…?」
泣きそうに顔を歪めているティルナスと、ラフィラスに似た格好の人物が、通るのを丁度邪魔する形で立っている。
「………」
「…………」
話しているのはわかるが、喧噪に掻き消されて聞き取れない。
だが彼等の言葉に、ラフィラス達は困惑しているようだ。
カプロンがティルナス達の方に向き直り、声を掛ける。
「こ……でで随分とお疲……御様子。
私共が必………出…ま……で」
喧騒は勿論、話す声そのものがとても小さく、すぐ後ろに立っていると言うのに、デマンに聞こえてくる言葉は途切れ途切れだ。
「いったん外へ出ましょう。
此処で立ち話も邪魔になる」
マーセルの言葉にその場の全員が、すっかり暗くなった外へ出る。
通りの人影は少ない。
その少ない者達も酷く足早に通りすぎていく。
北……マナウトで体調を崩した、北には行かず迂回した方が良い等の情報が錯綜し、手前のトガヤは人が溢れかえっている筈だが、あまりに少なくて反対に不気味だ。
だが、他人に聞かれたくない話をするには好都合。
宿屋の前から少し離れた所で立ち止まる。
「この辺なら良いでしょう。
とにかく一度整理しましょうか。
ティルナスが居ると言う事は、書簡の真偽がわかった…と言う事で良いのか?」
口を最初に開いたマーセルが、険しい表情のティルナスに問いかける。
その問いに、ティルナスはグッと唇を引き結んでから顔を上げた。
「そんな事より、エリィは!?
娘は!!??」
「落ち着け」
「落ち着いてなんて居られるか!!」
マーセルが宥めるが、ティルナスはエリルシアが心配でたまらないのだろう。
「…申し訳ありません……私が令嬢に言及したせい…ですね」
ヨナスがくしゃりと顔を歪める。
後からついてきた冒険者3人も、やっと状況が理解出来た。
恐らくティルナスがこの場に現れる事自体は、然程おかしな事ではないのだろう。それがどういう理由でおかしな事ではないのかは、冒険者達が知らなくて良い……それどころか知ってはならない話かもしれない。
だが、そんな話に至る前に、ヨナスが『エリルシアが此処に居た』とか、『これから追いかける』とか、そんな事を口走ってしまったに違いない。
何にせよ、冒険者3名が聞いて良い話ではない。
デマンがソッドに目配せをしてファングを引っ張り、彼等と少し距離を取った。
「ウィスティリス卿……すまない。
僕が部屋から出てしまったから…」
「……いえ、殿下は適切な行動をしただけです。
誰も宿に残しておかなかった私の判断ミスに他なりません…。
ウィスティリス侯爵、本当に申し訳ございません」
ラフィラスの言葉を聞き、ヨナスが進み出てティルナスに頭を下げた。
その様子にマーセルが小さく溜息を零す。
「兎に角、情報を交換しよう。
何もわからないままでは、進む話も進まなくなる。
それで?
もう一度聞くけど、書簡の真偽はどうなった?」
マーセルの問いに、ティルナスの隣に立ってラフィラス達と向き合っていた人物が、先に口を開いた。
「偽物でしたよ。
ネデルミスから至急の使者が訪れました。
………全く…殿下、私は怒っているんですよ。
何故側近である私を、何も言わずに遠ざけたのですか?
……まぁ、どうせ祖父の横槍か何かなのでしょうけど、それにしたって私はそんなに信用出来ませんか?」
「違う!」
ラフィラスが首を横に振る。
「万が一、書簡が本物だった場合……僕が行くつもりだったから…。
あんな話がレヴァンの耳に入ったら、君が犠牲になろうとするだろうって思ったんだよ…」
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