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「犠牲って……殿下を生贄に差し出す側近なんて、側近じゃないでしょうが!!
それ以前の話で臣下でさえないじゃないですか……。
何より私は、あっさりと犠牲とやらになるつもりなんてありませんよ。
最初に私に書簡を見せてくれてさえいれば、あの筆跡が糞女の文字だって直ぐにわかってたんです!」
珍しくレヴァンが声を荒げ、言葉が乱れた。
「糞って…」
思わず呆然と呟いたのはマーセルだ。
「ま、まぁそれは置いといて…。
とりあえず書簡は偽物で間違いないんだな?」
「……あぁ」
マーセルの問いにティルナスが頷く。
「じゃあ次。
何だって令嬢がたった一人でこんな国境近くまで来る事になったんだ?」
マーセルはティルナスに問いかけたのだが、返事をしたのはラフィラスだ。
「目的は…聞いた限りでは僕達と同じみたいだった」
「同じ……だったら何故…」
ティルナスが頭を振りながら、力なく漏らす。
「僕が戻るよう言ったから…かもしれない。
此処に至るまでの道中で、異変そのものは本当だと判断した。
だから、そんな場所へ彼女を向かわせたくなくて……明日、護衛を付けるから…と……ごめん……僕が…」
俯いたラフィラスの声は、後悔に染まっていた。
ティルナスは、ラフィラスのその言葉を否定する。
「いえ、殿下の言葉がなくともあの子ならやりかねません……。
無駄に行動力だけはあるようですから……それに、原因は…」
そう言いながらティルナスは懐から手紙を取り出した。
「長女からの手紙で、私はエリルシアの行方がわからなくなった事を知りました。
鳩も飛ばしたようですが、これは冒険者ギルドから届けられたものです。
……まさか領主の娘とは言え、次女でしかないエリルシアにこれほど手を貸してくれるとは、正直思ってもみませんでした。
また口外しない事も約束してくれましたよ……本当に…ありがたい事です」
ティルナスは少し離れた所で他人の振りをしている、顔見知りの冒険者達をそっと見つめた。
「あぁ、それでなんですが……長女からの手紙では、領の屋敷に異変について触れたものがあるとか書かれてあったのですが、そちらを確認より娘を追いかける方を優先してしまいました…」
「つまり…?」
マーセルが続きを促す。
「多分ですが、娘は今回の異変について何か知っていたのではないかと…。
娘にとっては祖母の遺した何かで、異変の事を知り、動いたのではないかと考えます…」
ティルナスの説明に、マーセルは腕を組んで考え込んだ。
「なるほど…な。
エリルシア嬢は確かに行動力はありそうだ。けれど考えなしに動くとも思えない…彼女には何か手立てがあるとみて良いかもしれない」
「それは……わかりませんが…」
ティルナスとマーセルの話に耳を傾けていたラフィラスが、波立つ感情を抑え込んだ様に低く声を発する。
「兎に角行こう…こんな所でじっとしてなんか…」
「そうですね。殿下達は馬ですか?」
レヴァンが真っ先の同調し、直ぐにヨナスの方へ顔を向けた。
「ぇ…えぇ、軍馬ですが…」
「そうか…じゃあ誰か私と交代してくれないだろうか?
祖父達のやり様に堪忍袋の緒が切れて、王宮へ強引に出仕した迄は良かったが、殿下達の姿がない。急いで聞き出したマナウトへと馬をだしたんだけど、途中で軍用馬車で同方向に向かうウィスティリス卿と会ったんだ。
それで同乗させて貰ってきた」
「そう言う理由で御一緒だったのですね」
ヨナスが合点がいったとばかりに頷いた。
そこへ隊の一員である調査文官の一人が進み出る。
「では私と…。
私はここで他の馬を調達して、ウィスティリス領へ向かいます。
侯爵様、申し訳ないのですが、その異変について触れたものへの調査許可を出しては頂けませんか?」
「あ、あぁ、勿論だ。
一筆認めよう」
すぐさまティルナスが了承した。
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