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途中、念の為に街道から少し離れて駆け続けてきたエリルシアだったが、流石に息が切れて足を止めた。
3年前なら兎も角、右肩を負傷して以降は、畑の収穫物や、持ち込まれる魔具の修理等で金銭を得て暮らしてきた。その為、冒険者稼業からは手を引き、日々の鍛錬からも遠ざかってしまっていたから、当然と言えば当然の結果である。
手近な木に凭れ掛かり、そのままズルズルと座り込む。
街道脇の獣道のような場所なので、草が高く生い茂り、もし街道を行く人影があったとしても、へたり込んだエリルシアの姿には気付きようがない。
エリルシアはふと空を見上げた。
時折空に陰りが走るのは、薄く漂う霧……魔素が実体化している為だ。
ここに至るまでも、魔素濃度が上がっているのは感じていた。
だが国境が近づくにつれて、魔素の中に瘴気を感じるようになってきている。尤も、瘴気を感じはするが、まだ捉えどころがなく不明瞭だ。
エリルシアには、その瘴気に魔素が纏わり付いている様子が視えるのだが、どうやら纏わりついた魔素が、瘴気を浄化する瞬間は実体化しているらしい。
魔力器官の有無に拘らず、誰でも認識出来てしまうのだろう。
だから『霧が…』と噂されるようになったに違いない。
集まってきた魔素が纏わりつくおかげで、瘴気はすぐに浄化され、大きな影響を出すには至っていない。
しかし、それも時間の問題だろう。
管理者……ヴィンデの血がこの地を離れた事によって、魔素の集まりが悪い。
そう遠くなく瘴気の拡散の方が上回ると思われた。
エリルシアはふぅと溜息を一つ落とす。
異変を確認しない訳にはいかないが、自分に何が出来るのか、何をしなければいけないのか、まだわからないままだ。
本音を言って良いのなら、不安しかない。
異変…瘴気に近付くにつれ、不安が抑えられなくなるエリルシアと違い、ロザリーはぼんやりする事がなくなった。
魔素の濃度が上がったせいかもしれない。
何にせよ、此処で立ち止まる訳にはいかないと、エリルシアは再び立ち上がった。
無言で進み始めれば、ロザリーも黙って後ろをついてくる。
そして見えてきたのはマナウトの町に入る為の門だ。
時間が遅い事もあり、門は閉ざされている。
どのみち町に入る事も出来ないのだから問題はないとばかりに、エリルシアは大きく迂回して国境代わりとなっている川の近くまで来た。
だが、ここで問題が発生する。
川に近付こうとしたところで、何もない筈の空間に、微かな抵抗を感じるのだ。
グッと踏み込めば、薄膜を突き破る様な感覚の後、抵抗を感じなくなったのだが、その代わりの様にぞわりと不快感に襲われる。
その瞬間理解した。
さっきの薄膜が境界なのだと……旧名ロザントスと、同じく旧名ケテーシアの境。
エリルシアはロザントスの管理者だ。だからケテーシアの魔素も瘴気も異質で、馴染まないと言う事なのだろう。
視れば薄膜の所で魔素が渦巻いている。
ロズリンド…ロザントス側の魔素は薄膜を素通りは出来ないようだ。
少量は通過しているようだが、大部分は堰き止められている。
ロザリーがぼんやりしなくなったのも、その辺りに理由がありそうだ。
エリルシアも感じた引っ張られるような感覚…あれのせいでロザリーを構成していた魔素も引っ張られて抜けてしまっていたのかもしれない。
だがここで堰き止められた事で、ロザリーの構成物に戻ったのではないだろうか……とは言え、今その理由を追及する意味はないだろう。
なにしろ問題はそこではない。
ロザリー自身が薄膜を越えられない様子なのだ。
エリルシアとロザリーが北へ…異変へと引っ張られた事を考えれば、浄化に足りない魔素をロザリーを構成する魔素で補えと言う事なのだろうと思うが……。
「困ったわね……」
つい零れてしまった声に、エリルシア自身が途方に暮れる。
ついっと対岸の方へ顔を向ける。
「ロザリー、此処で待っててくれる?
先に瘴気の状態を確認してくるわ…何をどうすれば良いのかわかるかもしれないし……。
その間に、越える方法も少し考えてみる」
【うん】
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