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5話 無事到着
しおりを挟む近づいてくるアレクから感じるのは警戒と諦めだろうか。
エリィは言い出したら諦めない頑固なところがある。大抵のことはさらりと引き下がるし、自分の意見を押し付けてくることもないのだが、時折こうして聞き分けが悪くなる。60歳の精神を内包してるとは言え、身体は紛れもなく幼児で、その辺りにも不安定さがあるのかもしれない。
「どう見てもここは第一現場やし、ヒヴァトスラスが戻ってきたらやばいわ。魔素も多ないし、とにかく一度小屋に戻ろや。エリィの収納は生き物も収納出来るんやろ?」
言われて思い出したと言わんばかりに首をこくこくと縦に振ると、急いで透明パネルを呼び出し、収納設定を個別で生物に変更する。
収納のほうへ放り込むにはグリフォンの身体はぐったりとしていて重く、エリィでは引きずることさえできない為、スキルの方に吸い込むようにして収納を完了させた。
「うん、時間停止状態有効になってる、大丈夫」
収納を終えて立ち上がり、ローブに付いた土やらを軽く払うエリィにアレクが声をかける。
「よっしゃ、そんならこないなとこ、はよ離れよ」
先を歩くアレクを小走りで追いかけた。
地図で見るなら第一第二現場から、ぐるりと大きく南へ迂回してから小屋へ戻るルートをたどっているのがわかる。
ふと地図から視線を外して周りを見れば、よく見かけた花や石なんかが視界に入り、戻ってこれたんだなと軽く息をついてマップパネルを消した。
さらに暫く歩いて、現在の拠点ともいうべき小屋へ到着する。
元は巫女だか神官だかが隠棲していた建物だと、アレクは言っていた。
外観はとても古く草臥れた印象があるが、作り自体は建材が石らしくしっかりとしており、機能的には全く問題はない。扉などの素材が木材部分も古さはあっても破損などはしていない。
小屋の外に置いてあるものは大半が朽ちていて使い物にならなかったが、小屋の内部の方は、時間に置き去りにされたかのように静謐に佇んでいる。それ故エリィの体力など、準備が整うまではここに留まるとアレクは決めたのだそうだ。
扉を押し開けて中に入るととても薄暗い。惨劇の現場ツアーでかなり時間を取られたとはいえ、まだ日は高く明り取りの窓部分から陽光が差し込んでいるが、それだけで室内を明るくするには、室内が存外広いせいか足りないのだ。
アレクが扉横に置かれた直径5㎝ほどの透明な球体に耳から伸びた毛束を伸ばし、器用に一撫ですると側壁に設置された照明が点いた。
エリィは隣のアレクに顔を向けたが、そのまま足元に落とし呟いた。
「……さっき治癒魔法を使おうとしたんだけど、発動までいかなくて」
小さな声にアレクが目を丸くしながら見上げてくる。
「さっきって、あの惨状跡地、っていうかグリフォンおった場所?」
問いに顔は足元に向けたままエリィが頷く。
「治癒魔法は消費魔力が多めやからなぁ、せやから魔法やのうて戦技とか製作とか魔力使わへん技術磨いてもろてたんやけど……そっかぁ、つい魔法の方が出てしもたんやなぁ」
何か腑に落ちるところでもあったのだろうか、アレクはうんうんと頷いている。
「エリィが混乱すると思てあんまし言わへんかったけど、元々のエリィは魔法がすんごい得意やったんや、せやから咄嗟に使おうとしてしもうたんやろ。けどなぁ何度も言うたように、今のこの世界は魔素が薄いんや。魔法使われへんのが普通やと思わんとな」
今更だがこの世界には魔法や魔物等が存在している。
魔法は魔力を使って行使するのだが、体内生成、貯蔵された魔力だけでなく、周辺環境に存在する魔素を魔力に変換して行使するのが普通だ。大きな魔法になればなるほどその傾向が強い。
というのも、体内魔力が枯渇すれば生命維持に支障が出てしまうからだ。そこへ周辺環境の魔素が乏しいとなれば、おのずと見えてくる。
そう、生活するうえで行使されるような極小さな魔法であればともかく、治癒や攻撃などの大きな魔力を要するものは発動が難しくなっている。
体内で生成された魔力を貯蔵する器官と考えられている『魔核』と呼ばれているものの大きさに比例して、行使魔法の限界が決められてしまう、今はそんな世界になっているのだ。
ならば環境魔素を増やせば良いのでは?という疑問も出てくるだろう。
だがここに大きな問題があった。
魔素は循環しているのだ。環境魔素は魔力として取り込まれ瘴気となる。そしてその瘴気を浄化すれば魔素に戻るのだが、現在浄化の仕組みが破綻しているのだ。
結果、消費された魔素は瘴気となり、その瘴気は浄化されないまま溜まり続け、さらに魔素が減るという悪循環に陥っている。
この世界の人間もそこまで馬鹿ではない、だから魔素を消費しないように、魔法そのものを制限したりしているのだが、瘴気がたまる速度のほうが早いのだ。
ここに魔物問題が絡んでくる。
魔物は浄化された魔素ではなく、直接瘴気を取り込んで魔法や強化の行使が可能なのだ。
せめて魔物が利用した瘴気は魔素に浄化される、などという理でもあればまだしも、そんな理などない。魔物にも存在する魔核に貯められていた魔力が、そのまま魔力として破壊時に環境に戻されるのがせいぜいだ。
瘴気が増えれば魔物が増える、魔物は瘴気を直接利用できるから、瘴気が多い環境では強い魔物が増える。となれば魔物以外の生物はそれに抗おうとし、魔法を行使して更に瘴気を増やす。結果、魔素が減り魔法の行使も厳しくなるのに、魔物は増え続け強化され続ける。
もうどこで何をどう止めたらいいのかわからない、負の螺旋なのだ。
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