仮面幼女とモフモフ道中記

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15話 シマエナガぽい

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 目が覚めてみればまだ薄暗い。

 人間種が暮らしているような場所ではわからないが、小屋から持ち出した照明具は魔素を消費して使用するタイプであるため、現状使用はできない。
 照明の問題はあるようでない。
 夜間に照明がある恩恵は十分わかっているが、日のあるうちに必要な作業を終えておけば見て見ぬふりをすることは可能なので『ある』ようで『ない』訳だが、前世日本人のエリィにとってはやはり照明というのはあってほしいものの一つだ。
 探索スキルで目の代わりはあるとはいえ、まだまだ練度が足りていない。
 知った魔力なら地図で描出追跡もできるが、知らない魔力は正体不明のまま『この辺?』くらいにしか描出できない。魔力を持たないものも同じくできないが、これは練度が上がれば変わるのかどうかわからない。それ以前に感知から漏れている可能性も高いのだ。その上まだ探索範囲が狭い。

 「はぁ…思った以上に問題は山積ね」

 毛皮を布団代わりにひっかけ、セラに埋もれて眠るという、昨夜の就寝姿勢のままぼんやりと小さく呟いた。
 その声に反応したのか、アレクが目のあたりを両前足を重ねて置き、ググっと伸びをしてからふぁぁっと欠伸を一つ。
 セラはというと、とうに起きていたようだ。元野良魔獣(?)だから仕方ないが、眠りが浅そうで少し心配になる。

「おはようさんやで」
「おはよ、セラは眠れた? 3人のなかで目が覚めたの一番でしょ?」
「問題ない」

 よっこいせと起き上がり、毛皮を収納した後は一連の朝の準備をこなし朝食時間となる。メニューは昨日同様爪ウサギの串焼きだ。
 
 串に使った枝は調理のために熾していた火の中へ放り入れて処分し食事の片づけは終わり。火の始末はもちろん水魔法で完璧に処理をする。森林火災の原因に等なりたくない。
 服のまま眠ったから着替えの必要はないし、結界石を収納へ回収すれば出発準備はすぐに完了だ。
 
 
「じゃあまた先導宜しくね」
「ほな行こか」



 早朝の空気はまだひんやりとしていて、少し肌寒い。唯一外気に触れている仮面の下、頬のあたりを手でこしこしと擦る。

「あ、聞こうと思って忘れてた。今って何月何日なの? まずそういう単位なのかもわからないけど」
「単位というか、〇月〇日とかっていうのはこっちでもあるで、今日がいつなんかはしらへんけどな」
「そっか、日本とそこまで変わりはないのね」
「そのうち人族と関わることがあったら分かるんやない?」
「…そうね」

 地面を這うゴツゴツとした大樹の根に、時折足を取られながらも休むことなく歩き続ける。

「せやなぁ、昔は3節に分かれとるだけやったらしいんやけど、そのうち農耕やら漁業やら、人族の生活にあわせて細かぁなってったみたいやで。一か月30日、12の月に区分されるようになっとったわ、最近の事はわからへんけど」
「12の月なら日本というか地球と同じでわかりやすくていいわね。ちなみに一日は何時間? 小屋に居たときはそういうことまで気が回らなかったんだけど」
「僕が知ってるのは結構前の事やからな? 違うてても怒らんといてや? 一日は20時間やったかなぁ」
「そこは地球と違うんだ。10進法が基準になってるのかしらね」

 どうみても食べられそうにないピンク色のキノコに覆われた倒木がかなり大きく、地面との隙間を這って進む。
 アレクは体高のおかげでなんなく通過し、セラはといえばひょいと一飛びにしているのが見えて、エリィはなんとなくもやもやしたが、手や膝部分についた枯葉や土を軽く払って再び歩き出す。
 時折ピチュチチチと聞こえてくる声に、足を緩めて頭上を見上げる。

「あの声って何? 小屋のあたりでは聞いたことないんだけど」

 同じく足を止めた2人も足を止め、アレクはエリィのように頭上を見上げ、セラは探るように目を伏せた。

「ん? ぴちゅ~、ってやつ? ………ヌヴァレイ…ちゃうな、アルメナかぁ?」
「俺たちはナキツゲと呼んでいるな。臆病なやつで、近くに敵がいないときに声を発するのだ」
「なるほど、この辺りは危険が少ないってことね、まぁ魔素も瘴気も変わりないし、スキルにもこれといって反応がないわ」

 伏せていた目を戻し、やや左手前方斜め上にセラが視線を静かに向ける。

「あそこにいるな。静かにゆっくりと頼む。左手の、倒木の奥にある大きな木の横、緑色のキノコが生えている細めの木」

 セラの言葉に従って慎重に視線を動かしていけば見つけた。
 薄緑色で、大きさは少し距離があって分かり難いが小さいように思う。尾はかなり長いが、少しふりふりしている様子が見えて可愛らしい、ふわふわっとした鳥だ。

(――――シマエナガ!!)

 そう、大人しい薄緑色で白くはないが、あの丸いフォルム、円らな瞳、小さな嘴、もうシマエナガにしか見えなくなった。

「ほんまや、意外に近いところおってんな」
「あれはオスのシマエナガだな」
「!」

 驚愕に振り返ったエリィがたてた音にシマエナガぽい鳥がさっと飛び立っていってしまった。

「主殿、どうしたのだ?」

(シマエナガ…なんでセラが『シマエナガ』って言う訳? さっきまで確か『ナキツゲ』とか言ってなかったっけ)

 じっと動かないエリィにアレクとセラは首を傾げる。

(もしかして、そういうこと!? 私が視認して『シマエナガ』だと思ったから、そう自動翻訳されたって事? だから名前だけ聞いて姿を知らなかった時は、そのままの音で聞こえてたのね……今まで何の気なしに話してたけど、そういう感じなんだ。じゃあ鑑定でみたセラの種族名はたぶんこっちでの発音で、対応意訳っていうのが、私が受け取った印象ってところか)

「あ、ごめん、何でもない。まだまだ知らない事気づいてない事、色々と多いなって思っただけよ」

(話は通じてるんだし、特に2人に話しておかないといけないようなことでもないしね)

 エリィは2人を見て、口元にほんの少し笑みを乗せた。



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