仮面幼女とモフモフ道中記

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18話 霧の中で その2

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 アレクの様子が気になるのか、敵が目の前にいる事は重々承知しながらも、エリィは微かに首をアレクの方へと揺らす。
 やや見開いていたアレクの瞳の色が、いつもの桜色からゆっくりと色味をかえ、エメラルドに染まる様子に我が目を疑う。

「アレク…?」
「気ぃぬいたらアカンて」

 咎めるように小さく応えたアレクの瞳はもう元の桜色で、自分が見間違えたかと内心首を捻った。

 ゆっくりと前方の狼が姿勢を低くする。
 その様子にエリィは今一度短剣を握り直し、セラは彼女のやや左寄り前方で威嚇の姿勢を崩さない。
 アレクはというと、エリィの右手側で少し高度を取ったかと思うと再び大きく翼を一振りした。
 狼に今一度羽の矢が襲い掛かる。的確にその顔面を狙うも、同じ攻撃はくらわないとばかりに、こちらから見て左側に小さく跳ねて躱した。
 セラとの距離が一番近くなったその瞬間、その着地地点めがけてセラが一気に距離を詰めた。
 しかしそれも読まれていたのか、間髪入れずに今度は大きく上方に飛び跳ね、突っ込んでくるセラを飛び越えたかと思うとエリィに詰め寄りその牙をむく。
 噛みつこうと伸ばされた首を左半身を捩って躱したが、狼の腕がすかさず横一線を描きエリィの肩を捉えたかと思うと、そのまま地面へと引き倒された。

 右肩を前足で抑え込まれ、爪が食い込みその部分のローブが血に濡れて変色する。
 抑え込まれているだけでも右手の可動範囲が制限されるのに、そこへ痛みと出血が加われば、短剣を持ち続けることが難しい。
 それでも迫る牙に左手も使って刀身を盾代わりかざす。
 狼の口に轡のように刀身を食ませたものの、なおも込められる力に、牙にあたっている刀身部分から悲鳴のような鈍い金属音がした。

(……これやばいよなぁ、めっちゃ痛いし…短い異世界転生だったわ。いやまぁ、死にたいわけじゃなけど、折角転生したんだから、少しくらい世界を堪能させてくれてもいいんじゃない? とは思うわよね。というか、魔物に言っても仕方ないけど、口臭エチケットの普及を求めたいわ――あ~本気でまずいかも…なんかちょっと霞んで…?)

 エリィの肩を濡らす血は地面までも染め、徐々に動きが緩慢になっていく様子にアレクも必死に攻撃を繰り出すが、体毛に阻まれ羽の矢は届かない。目をもう一度狙いたいところだが、近くにいるエリィの方にこそ傷を与えてしまいそうで、とてもではないが狙えず歯噛みするしかなかったが、ドゥッという音と共にエリィに覆いかぶさっていた狼の巨体が横に弾き飛ばされた。
 自分よりも大きな狼の魔物に体当たりをして飛ばしたセラは、そのまま倒れているエリィと、飛ばした狼の間に陣取り、すぐに飛ばした狼の方へと全身で突っ込む。

「ガァァアアアァァァァ!!」

 飛ばされた衝撃で横たわったまま動けなくなっていた狼に、渾身の追撃とばかりに突っ込み、その嘴で腹を突き刺した。
 絶え間なく叫びをあげ、逃れようと手足を我武者羅に振り回す狼に、突き刺したままの嘴をそのまま横なぎに切り裂き、前足の爪で喉も掻き切った。



 ヒュゥヒュゥと声にならない声をあげる間隔が少しずつ長くなっていく。

 

 そしてピクリとも動かなくなった。

 先に我に返ったのはアレクだった、地面に横たわったままのエリィの傍にすぐさま降り立つと耳手と前足で彼女の頬をテシテシする。

「エリィ、しっかりせぇ、寝たらアカン!! 意識しっかり持つんや!!」

 きょろきょろと周りを見た後、狼の腹と喉から身体をはがしたセラに向かって叫ぶときには、既にアレクの身体は浮き上がって移動しようとしていた。

「アカン、収納ン中のモンは出されへんよって、薬草探してくる!」

 グっと力を入れて飛び進もうとしたアレクに静かだが、鋭い声が届く。

「落ち着くのだ」

 止められて、アレクはイヤイヤするように力なく首を横に振る。

「せやかて、治療せんと…やけど、ここじゃ魔法は無理や」
「落ち着かれよ、ただの薬草をとってきたところで、この傷ではさほど効果は望めまい」
「…せやけど」

 向き直ったその場でブルブルと身体を振り、ついた血を払ってからエリィに近づき、その横にセラが座る。
 体感ではとても長く感じた時間だったが、恐らく数分の激闘だったはず。
 であれば、失血量はまだ手に負える範囲ではないかとセラは考える。

「治癒魔法はそもそも適性がない為、俺は使えない」

 グリフォンが治癒魔法を使えるなど、そも聞いたことがない。そんな今更なことを何故?とアレクは不審げな表情を向けた。
 それどころか、早く探しに行きたいのだと、イラついた空気を隠さない。

「だが、水魔法での回復促進なら些少なりとも効果はないだろうか?」




「……え? 水…魔法…?」




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