40 / 114
40話 廃村の探索 その1
しおりを挟む【アレク、セラ、肉串置いてあるからそれ食べてね。ちょっと冷めちゃってるのが申し訳ないけど】
【問題あらへんで、すぐ食べて行くわ】
【ゆっくりで大丈夫よ。徒歩の移動速度だから】
【この辺りは森と言っても浅い場所のようだが、だからと言って魔物が居ないわけではない。俺が露払いに向かう方が良いのではないだろうか?】
【ぁ~探索に引っかかる反応は、殆どが小さいのよ。多分私だけでも問題ないと思うわ。ぁ~結界石の回収はお願いね】
エリィは背後を一瞥した後、ケネスとカーシュを促して歩き出した。
カーシュの体力が懸念事項だったが、低い等級と言えどポーションは効果があったのだろう。下生えの草や落ち葉、湿った地面とそこに這う太い木の根、と決して歩きやすくない場所があるにも関わらず、カーシュ本人は至って元気に歩いている。
エリィはほっとしたように息をつくが、薄暗いとはいえ陽の光の下、そして俯いたり等していない姿勢のおかげで気づくことがあった。首に薄っすらと何かで縛られた跡のようなものが見える。どういう状況だったのか想像もしたくはないが、恐らくそれのせいで喉を痛めていたのだろう。それが証拠に話し方がやや流暢になっている。
「兄ちゃん、凄いよ足が痛くないの。ぁの、ハナミちゃんありがとうです!」
とんだ失態だが、昨夜は綺麗さっぱり記憶から飛んでいたのだ。ケネスもそうだが、特にカーシュの服が酷いものであったのに、回収した服類を渡し忘れてしまっていた。
今朝肉串の準備の合間に、ケネスに拾った物だからと服類を押し付けたので、布一枚という酷い状態からは脱却していた。ケネスも寒かったのか上着を一枚追加で羽織っている。
だが靴はなかったので、肌着の方を適当に裂いて足に巻き付けていたのだが、これでは不十分かもと、エリィが毛皮の一枚を切って上から覆うように巻いたのが良かったようで、痛くないとカーシュがはしゃいでいるのだ。
とは言えはしゃぐ声に近くの魔物が反応するといけない。探索でも気配でも小物の魔物や動物しか反応はないが、まだ完璧には程遠い精度なのだ、カーシュに声を潜めてくれとお願いした。テントで回収した、旅の必需品の中にあった魔物除けも渡してはいるが、使ったことがなかったので、エリィにはどこまで効果が望めるのかわからない。
「カーシュ、もうちょっとだけ声潜めてもらってもいいかしら…小型の生物しかいないとは思うんだけど、それでも寄ってこられると面倒だから」
「ご、ごめんなさい」
途端にしょげかえるカーシュには申し訳ないが、できるだけ安全に進みたいなら最低限必要な行動だ。
途中2回ほど森林狼のような魔物に襲い掛かられたが、それ以外は至って順調だ。運よく『はぐれ』だったようで、難なく撃退できている。
休憩も挟みながらだが、着実に歩を進めていくと、壊れた柵のようなものが見えてきた。
エリィはケネスとカーシュを手で止めると、振り返り『静かに』と自分の口に人差し指を押し当てる。
「ここで身を潜めててくれるかしら。様子を見てくるから」
「ぁ、あぁ、わかった。悪ぃ、面倒をかけちまって」
「うん、わかった。ハナミちゃん気を付けてね」
『ちゃん』付け呼びに微妙な表情になるが、自分の方が体格的に小さいのだし、カーシュに悪気があるわけではないのだからと必死に取り繕うが、そのせいで余計に口元がおかしな表情になってしまった。
「そ、それじゃ行ってくるから、隠れててね」
エリィも身を潜め、木の陰に隠れながら慎重に柵の方へ近づく。
耳を澄ましても不自然な音は何も聞こえない。
後ろを振り返り、こちらからケネスとカーシュが視認できない事を確認すると、瞬間移動を駆使して柵の奥、一番手前の建物の陰に一旦隠れる。
ここでも気配を探るが何も引っかからないので、そっと陰から進み出てみた。
村の様子は犯罪者どもとは言え、人の出入りがあったせいかそこまで朽ちた様子はない。もっとも彼らも放棄したようなので、閑散とした空気に支配されてはいるが。建物の数は多くはない。2階建ての大き目な建物が2つに、小さな平屋が10棟ほど。
小さな平屋はともかく、大きめの2棟は身を隠せる場所も多い。軽く調べておくべきだろう。
近いほうから調べようと近づく。
物音もしないし、何の気配もない。
そぅっと扉をすかし開ければ、窓が閉じられているせいでかなり暗い。テントで必需品セットから念願のランタンも手に入れているが、まだ使うべきではないだろう。
隙間から身を滑り込ませて扉を静かに閉じる。
暗順応するのを待つが、あまりに暗いのである程度気配を探ったらランタンを使った方が良さそうだ。
1階はクリア、何の気配もない。
2階に上がろうと階段に足をかけると、エリィの体重でもギシっと軋む音がしてしまった。咄嗟に身構え短剣を握りしめるが、やはり何の気配もないままだ。
暫くじっと伺っていたが、本当に無人のようなので、ランタンを灯してから2階へと上がる。
2階には廊下に面していくつかの扉があった。一番手前の扉をそっと開いて中を窺うと、ビジネスホテルのような、本当に寝るためだけの部屋だった。簡素な木の寝台に小さな棚が1つ置いてあるのみで、洒落た小物一つない。壁面には閉じられた窓が一つ。
他の扉も開けてみたが、どれも同じような作りだった。
ケネスとカーシュを外に待たせているため、今はザッと確認するに留め1階に降りる。
さっきは暗がりだったからよくわからなかったが、ランタンを掲げて改めて見てみれば、ホールのようになっており、奥には厨房のようなものも見える。
いくつかのテーブルに椅子、どれも質素なものだか機能的に問題はない。
厨房らしき場所の手前にはカウンターと机が置いてあり、カウンターの上には見た事のないモノが置かれていた。
飾り気のない四角い台座の上に丸い水晶のような石が載せられている。
(ぉぉ~、これってファンタジーあるあるの装置っぽい! 冒険者ギルドに必須のアレっぽいわ)
矯めつ眇めつ満足のいくまで装置を観察した後、厨房の奥に暗がりが存在することに気づいた。
気になりそちらへ足を進めると、何かを蹴飛ばしたらしい。ガン、ゴロゴロという鈍い音に、ランタンを掲げながら手を伸ばせば、空っぽの壷が1つ転がっていた。
足元に気を付けながら暗がりを目指すと、地下へ通じる階段だったようだ。
念のため聞き耳を立て気配を探ると。何とも言いようのない音が聞こえた。
エリィは一瞬で警戒レベルを上げるとランタンの光量を最低に絞り、足音に気を付けながら階下へ降りた。
壁に身を隠しながらまず音を拾うと、やはり『ぷよんぷよん』と、何とも場にそぐわない間抜けた音がする。
探索と気配を探ってみれば、見事に引っかかる。
地下だった事で、1階では感知できなかったのだろう。まだまだ鍛錬が必要だとエリィは独り言ちる。
小さな魔物の反応が1つ。まだ知らない反応なのでそぅっと覗き見れば、そこにいたのは透明ゼリー――記憶に従うならスライム。
ただ馴染みある水滴型ではなく、アメーバのように床に平べったい形状をしている。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる