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46話 新たな仲間
しおりを挟む『元気で』と手をひらひらさせて笑顔で背を向ける。
……向けたのだが、つんつんと上着が引っ張られた。
振り返ると、誘導を買って出てくれていたスライムが、エリィの上着の裾をまた掴んでいる。
まだ何かやり残しでもあるのだろうかと、屈んで問いかけた。
「何かまだあるの? まぁできる範囲でなら請け負うわよ」
二ッと口角を引き上げてやれば、スライムは腕らしきものを2本、エリィに伸ばしてきた。
「抱き上げればいいの? と言うか、抱き上げても平気なのか不安になるんだけど」
大きさ的には問題なく抱えられるが、形状が何とも心許ない。
アメーバ宜しくびろ~んと広がっているので、抱き上げても引きずりそうだし、何なら途中で千切れてしまいそうな不安感に苛まれる。
まぁ成る様になると、抱え上げて見れば千切れたりすることなく無事抱えることができた。
「で、何をしてほしいの?」
問いかけると同時に、スライムがエリィの肩へぷにょんと伸びあがり、そこへ収まった。
「一緒に行きたいて言うてるんちゃうん?」
「……」
アレクの言葉にセラは頷き、エリィは固まっている。
「はぁ?……いやまぁ、待望のスライム君だし、来てくれると言うなら有難いけれど、折角自由になれたって言うのに、家族と離れる事になっても良いの?」
肩で平べったく伸びているスライムの円らな瞳が、頷くように一回閉じられた。
後ろからついてきていた他2体のスライムに顔を向ければ、その子をお願いしますと言わんばかりに、揃ってお辞儀様モーションをしている。
「そっちのんが家族なんか単なる仲間なんかは、わからへんけどな……ほんならまた命名したらんとやな~」
「テイムする気はないんだけど、やっぱり名前つけたらテイム状態になっちゃうのかしら…ぁ~それ以前に私ってテイマーなの?」
「知らんがな! つっか、自分のステータス見たらええやん!? なんで見ぃひんの!? そないに手間かからへんやろ!?」
「……文字がさ、もう約款みたいにズラズラっと並んでて、読みにくいのよ…見てるだけでお腹も頭もいっぱいになるって言うか、それ以前に頭に入ってこない…前にも言ったじゃない、取説読まない人なんだって…」
「あかんやつやん……詐欺とか会うても文句言われへんお人やん……」
「「はぁ」」
エリィとアレクの声に困惑と諦めの色が混じり、溜息となって漏れ出した。
「俺は名がなかった故、命名してもらえたことは喜びであった。名を与えてやる事に何の問題もないだろう」
どんよりと沈んでいるエリィとアレクと違って、何故か空気を読まず胸を張っているセラに苦笑が洩れる。
「セラはそうだったかもしれないけど…もしかしたら本人の意思無視して強制になっちゃってないかと気にはなる。マイナス補正されてても、私のステータスのほうが方がスライム君より高いしね…ぁ、それとは別にセラの名前は少し後悔してるけど」
セラには思いがけない言葉だったようで、目を丸くして驚愕の表情を浮かべていた。
「な、何故だ」
「あの場限りの仮名のつもりだったからね、もっとよく考えれば良かったなと」
「俺は満足している」
セラにしては珍しく力説している様子に、エリィとアレクは互いに顔を見合わせ笑みを深める。
「セラが良いんだったら、それで良いんだけどね…まぁ最初思ったわけよ、セラの翼が天使みたいだなって」
ふむふむと納得しているアレクと違って、セラは首を傾げている。
「テンシとは何であろう?」
グリフォンであるセラに『天使』と言っても通じないのは当たり前だ。
「なんて言ったら良いかしらね…まぁ神様の使いみたいな? 知らなくても良い程度の事よ」
「神の使い…ふむ、セイジュウサマというのがテンシということか、理解した」
今度はエリィが首を傾げる番になってしまった。
「セイジュウサマとは何ぞや?」
「こっちは神様の使いさんは、それぞれを象徴する獣、聖獣って思われとんねん。嘘っちゅう訳やあらへんしな」
「人…もしかしたら人間種だけじゃなく、世界共通認識なの?」
「そないな訳あらへんて。エリィにはようわかると思うねんけど、こっちの世界も宗教はややこしゅうてな。人族は女神さんが多いかもで、エルフ族やったら精霊樹が主神やったんやなかったかなぁ。他も色々や、グリフォンは知らへんけどな」
各宗教の諸々は世界が変わっても変わらないという事なのだろう、アレクの表情はげんなりとしている。
「一族に信仰など持つものが居たかはわからぬが、我々は長を敬い従って生きていた。俺がセイジュウサマという言葉を知っていたのは、単に人間種と一時ともに居たからというだけの事」
「なるほどね。まぁ、セラの名前はこっちの世界で言う、その聖獣様の名前みたいなものって事よ、それだけ」
「そうであったのか…そのように敬うべき御方の名を頂いてもよかったのだろうか」
「セラが嫌じゃないならそれで良いのよ。問題なんて何もないし」
エリィが苦笑交じりに肩を竦めてから、肩にへばりついているスライム君に顔を向ける。
「そうねぇ…長いと呼びにくいけど、呼び名と名は別にしないといけないんだっけ」
暫く唸って考え込んでいたが、やっと決めたのだろう、スライムを指でつつく。
「『睦月』で呼び名がムゥ。まぁ鳴き声ありきなのと、確か誕生日が1月だった記憶があるのよね。どうかしら?」
スライムが声を発するより先に、セラの時同様柔らかな輝きを一瞬放つ。
「これから宜しくね」
「なんや賑やかになってきよったなぁ」
「歓迎する」
「ムムゥッ!」
まだ肌寒いとはいえ、今日も穏やかな晴天に恵まれる中、エリィ達一行に新たな仲間が加わった。
全員でもう一度ハレマス調屯地を顧みる。
「なんだか宿題残された気分で、若干もにょりはするけど、成る様にはなったかしらね。アレクとしては心残りかもしれないけど」
「人さんとは関わらん方がええってわかってんのに、堪忍やったなぁ。まぁ元気な姿でさいならできたし、何も問題あらへん」
「そうね……何も問題が起こらない事を切に祈るわ」
収納に放り込んだブローチを思い描きながら、嫌な予感が消えない事に頭を抱えたくなるが、それは今ではないのだから横に置いておくとしよう。
「さて、それじゃ出発しましょ。で、どの方向へ進めばいいの?」
「南…南東方向っちゅう所やな」
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