万事屋25―futago―

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4章 SYUUI

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 ドアを開けると、カランカランとドアベルの音がした。
 店内は昭和レトロ感な雰囲気で、何となく雑多な印象をうける。そして照明も薄暗いので見通しは良くない。

 数名の客が居るだけの閑散とした店内を見回すが、顔写真を見た等ではない為、誰が『小巻』なのかわからない。
 大声を出して確認する訳にもいかず、店員らしい中年女性を捕まえて聞いてみると、あっさり教えてくれた。
 どうやら常連らしい。

 奥まったテーブル席に近付くと、草臥れた初老の男性がご飯茶碗を手に付け物を口に運んでいた。
 まさか喫茶店で食事……しかも和食系だとは思いもせず、陽月と真は少し手前で足を止める。
 そんな二人に気付いたのか、初老の男性は顔を上げて箸を置いた。

「あぁ、もしかして電話くれはった『鷹峰さん』やろか?」
「ぁ……はい。
 その、御食事中に申し訳ありません」

 立ち止まった場所のまま頭を下げる陽月に倣って、真も慌てて頭を下げた。

「いやいや、こっちこそ。
 貴方が来る前に食べ終わっておこうと思ったんですが、ちょっとだけ出る時間が遅くなってしまって。
 あぁ、立ってないでどうぞ」

 小巻の対面の席に、陽月と真が並んで座る。

「前からある店でねぇ。元は食堂やったんですよ。
 そのせいか、今でも頼んだらこないして定食だしてくれるんですわ」

 小巻の言葉に頷いていると、さっきの女性店員が注文を聞きに来た。
 陽月も真も、遅い時間に握り飯を食べていた事もあり、飲み物を注文するに留める。

 箸を置いたままの小巻に、陽月が声を掛けた。

「あぁ、御食事をどうぞ。
 私達も飲み物を頼みましたので……お話は食後に」
「気ぃ遣わしてしもて、えろうすんません。
 …そんなら……お言葉に甘えて」

 元々食堂だったのなら不思議な事ではないのかもしれないが、昭和レトロな店内は食堂と言うよりしっかり喫茶店な内装で、焼魚定食が妙に浮いて見える。
 だが、これはこれで悪くない。
 地元で長く愛されてきた店なのだと思えば、反対に自然な感じが……しなくも、ない。

 小巻の前から食器が下げられる。
 『いつもの』と小巻が笑うと、程なくしてコーヒーが運ばれてきた。
 陽月一人が紅茶なのは珍しくもない光景だが、もしかすると店主が得意なのはコーヒーの方かもしれない。

「すんません、お待たせしましたなぁ」
「いえ。
 此方こちらが急にお願いしたのに、快諾してくださってありがとうございます」

 小巻が首を振る。

「いやいや。
 そんで…行方不明になった言う女性生徒さんの事やったですかね…」
「はい。
 行方不明になった生徒の名は林田はやしだ 花央里かおりさんと言うのですが、覚えていらっしゃるでしょうか……。
 当時は2年2組。園芸部の当番で29日には登校していたんです」

 コーヒーカップを持ち上げて、小巻は漆黒の波紋を無言で見つめた。

「今日も仕事やったんで、学校でアルバム見てきました。
 覚えてます…いうか、思い出しました…ですなぁ。
 警察にも何度も聞かれましたしねぇ」
「その警察に話した事と同じで構いません。
 申し訳ないのですがもう一度、思い出して話して頂けますか?」

 小巻はコクリと頷く。
 彼の話す内容は、円道から聞いた事と大差ない。
 図らずも円道の話の裏付けとなった。

「まぁ、用務員なんてやる事探し始めたら、キリなんてない仕事やからねぇ。
 あの当時、温室もかなり古うなってて、取り壊そか~なんて話も出とったんやけど、円道先生が顧問してる間は、修理重ねて何とか維持しとったんですわ。
 今はもう無くなってしもてますけどね。
 その日も朝から掃除やらやった後は温室の修理してた思います」
「では、小巻さんが修理をしていた間に、温室を訪れたのは何方どなたです?」
「円道先生と生徒の林田さんだけやったですね。
 9時……いや、10時頃やったかな。
 それまでは校門のプランターの水やりしてくれてたんちゃうかな。
 植込みの方はこっちでも水やりするんやけど、プランターは後回しになってしまいがちやったから。
 そんで12時の少し前位やったかな……生徒さんは温室から出て、多分昼食に行った思います。
 その後は、残ってた円道先生とお昼食べるんが日課でしたわ」





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