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4章 SYUUI
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しおりを挟む外からではわからなかったが、店内はそこそこ人が居た。
案内の為に近付いてきた店員に、行木がさっさと人数を伝えている。
奥の方に空いていたテーブルに案内されると、直ぐに真がメニューを眺め始めた。
「なんやちょーっとお高めのレストランか思たけど、お値段控えめやし酒も結構あるんやな」
「まぁ、女性向けのダイニング・バーとでもいう感じね。だから値段は控えめと言うのはそうなんだけど、あくまで『控えめ』と言うだけよ。
でも店内が白く煙ってないって言うだけでも価値があるわ。
ホノカちゃんはどうする?
もう飲める年齢だっけ」
真が見ているメニューを覗き込んでいた行木が、顔を上げて訊ねる。
「ん~……えっと、じゃあ1杯だけ」
「了解。それで何にする?」
行木が手際よく皆の希望を聞き、店員を呼んでオーダーした。
飲み物が運ばれてくるまでに、料理の方も希望を出し合っていく。
それから程なくして飲み物が運ばれてくると、ついでに料理の方の注文も済ませた。
「ついこの間会ったばっかりだけど、まぁ、再会を祝して?」
行木が悪戯っぽく言いながらグラスを少しだけ掲げる。
それぞれ注文したアルコールで、掲げるだけの乾杯をしてから行木が写真を数枚テーブルに置いた。
「先に渡しとくわ。
制服姿と普段着の写真を何枚か持って来たけど、これで良かった?」
「えぇ、十分です」
行木の言葉を受けて陽月は頷くと、受け取った写真を見る。
制服姿の方も普段着姿の方も、弾けるような笑顔のものもあれば、澄まし顔で撮影されたものもあった。
「料理が来るまで少し時間が掛かるだろうし……進捗はどんな感じ?」
松代以外の依頼人が勢揃い状態なので、これまでの事を話しておこうとするが、陽月は先に穂乃花に声を掛けた。
「牧さん、辛いようでしたら言ってください」
自分に声が掛けられると思っていなかったのか、穂乃花は目を真ん丸にしている。
「ぁ、だ、大丈夫です。
あの…父の事も調べてるって聞きました。でも、大丈夫です。
気を遣ってくださって、ありがとうございます」
穂乃花がペコリと下げた頭を戻したのを切っ掛けに、陽月はこれまでの事を話しだした。
「まだ1週間も経ってないのに……見直したわ」
行木が吐き出すように呟いた。
「と言うか……カオリが駅の方に向かってたなんて……考えもしなかったわよ」
「用務員の小巻さんが覚えていて下さらなかったら、わからなかった事だったかもしれないですね」
陽月は淡々と返事をする。
「それにしてもお花……あぁ、だから花央里ちゃんのお父さんの事を聞いて来たのね」
合点がいったとばかりに、井前が頷いた。
「私は……父の事は事故で死んだと聞かされてたから…ちょっと…その、驚いてます」
林田本人も母親も、詳しく説明する事が出来ないままだったのだろう。無理もない。
養父母も、随分と以前に死別した父親の事までは、何も聞いていなかったかもしれない。
「桜子さんがあんなに止めようとしてた理由がわかって……すっきりしたと言うのも変だけど……。
でもそうなると、確かに鷹峰が引っ掛かるのも頷ける。
奇しくもカオリが発見された場所近くの池で、父親が死亡してたなんてね……。ちょっと言葉にし難いけど、運命の悪戯と言うか…やっぱり神様なんて居ないか、居ても底意地の悪い嫌な奴なんだと思うわ」
行木の言葉に、井前は神妙な表情で首を縦に振りながらも、何かを考え込む様に視線を彷徨わせる。
「警察に頼らず、お墓の場所なんて……花央里ちゃんの家近くでも話を聞いてくれたんでしょう?
それでわからなかったなら、お手上げよね…」
「えぇ、ですが……確証があっての事ではありませんが、墓地か事故現場に林田さんが行っていたとして、失踪当日に初めて行った訳ではないんじゃないかと思うんです。
それまでも、母親に内緒で何度か行っていたのではないかと……」
陽月の話に、穂乃花も頷く。
「私も…そう思います。
話を聞いて、お姉ちゃ……姉が父の事を忘れた事なんてないと思うんです。
ずっと気に病んでいたんじゃないかなって……」
「……そう、ね、うん。
カオリってほんと些細な事、覚えてたりしてた。
待ち合わせも、数分の遅刻くらい全然こっちは気にしないのに、何度も何度も謝ってたわよね」
行木が、遠く懐かしむように表情を和らげた。
「あったわね。
滅多に遅刻なんてしないからこそ、余計に…だったのかもしれないけど」
井前も思い出に浸って微笑む。
女性3人が思い出話に花を咲かせているのを、陽月と真は黙って聞いていた。
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