【まとめ版】⛓囚われの勇者⛓ -明日にかける鎖-

良音 夜代琴

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【囚勇02】囚われの勇者 -17歳

1話『新たな勇者』(3/4)

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 ***

 リンデルが勇者となるしばらく前。

 騎士団長と十三人の中隊長達、それに国のお偉いさん数人が揃ってテーブルについているのは、城の奥、常に国の行く末を左右する大事な会議が行われてきた部屋だった。

 騎士団長がチラリと時計を見上げて開始までの残り時間を確認する。
 ここでは、これから新しい勇者の候補者を決める会議が行われる。

 騎士団長から少し離れた席で、ルストックは隣に座る金髪碧眼の男に話しかけられた。

「お前が隊から候補を出すなんて意外だな。俺のとこは家柄的に出してやんねーとまずい奴がいるから仕方ねーけどさ、そっちはそういう奴も居ないだろ?」
 ルストックは、二十年来の友であり三番隊の中隊長でもあるその男に答える。
「ああ、勇者に憧れて入隊した若いのがいてな、記念に出してやろうかと思ったまでだ。まあ流石に若すぎるし書類審査で落ちてしまうだろうが……」
 ルストックの言葉に、金髪の男が青い瞳を悪戯っぽく細めて笑う。
「それはわからないぞ?」
「ん?」
「お前は騎士団長に期待されてるからなぁ」
 友の言葉にルストックは信じられないような顔をしてから、眉をしかめる。
「どこがだ。期待どころかしょっちゅう呼び出しをくらっては叱られているぞ?」
「そりゃまあ、九番隊の任務は他の隊より厳しいのが多いしなぁ……」
 金髪の男はそう言いながら、後ろでくくった金色の髪を揺らして苦笑する。
 どうやらルストックは、それこそが期待されている証拠だという事に気づいていないらしい。

「始めるぞ」
 騎士団長が会議の始まりを告げるべく口を開いた。


 ***

 リンデルは緊張していた。
 それこそ、いまだかつてないほどの。人生で最大級の緊張を抱えていた。

 (ああああああ緊張する!)
 胸中で叫ぶリンデルが、もう何度目になるかもわからない確認を繰り返す。
 手元の書類には、間違いなく新勇者の選定試験、二次試験である面接の日時が書かれていた。

 二次試験は騎士団長を含む面接官との面接試験だ。

 廊下に並べられた椅子には、自分以外にも数人の男が座っている。
 この中のいったい何人が次の試験へと進めるのだろうか。
 自分の倍以上の筋肉を持った筋骨隆々な男もいれば、童顔気味の自分よりもずっと美しく背も高い美麗な男もいた。

 勇者には『なりたい』だけではなれない。
 強さも、美しさも、正しさも、優しさも、きっと全てが必要なんだと思う。

 正直俺には、まだどれもこれもが足りていないと思う。

 それでも、リンデルは勇者になりたかった。
 自分の夢をずっと応援してくれた姉のためにも……。


 リンデルは姉の住む村を出た日の事を思い返す。

 出立の前に、小高い丘の上でひとり村を眺めていたリンデルを見つけたのは、やはり姉だった。

「ああ、やっぱりここにいたのね」
 そう言って微笑む姉に、リンデルは微笑みを返して答える。
「最後に、村をよく見ておこうと思って」

「最後だなんて……、長期のお休みには戻ってくるんでしょう?」
「うん」
「王都は……遠いわね……」
 そう言う姉の横顔が寂しげに見えて、リンデルは謝った。
「……ごめん」

「どうして謝るの?」
「いや、姉さんともなかなか会えなくなるから……」

 リンデルと姉には、両親どころか親戚の一人もいない。
 両親は幼い頃に二人の目の前で魔物に食い殺された。
 その後は盗賊団に拾われたが、そこもまた、魔物の群れに襲われた。
 その時に自分達を助け出してくれたのが、他でもない勇者だった。

 リンデルはそれからずっと、自分を助けてくれた勇者に憧れて、彼のようになりたいと、毎日努力を続けてきた。

 夢をかなえるため王都に出て騎士団への入隊を目指すことを、姉も応援してくれた。
 けれど、たった一人の姉を置いて村を出てしまう事だけが、リンデルにはどうしようもなく申し訳なかった。

「あら、私は別に寂しくないわよ? この村には友達がいっぱいいるもの」
 姉は丘を吹く風にワンピースの裾をひらりと翻して笑った。

 リンデルは、姉ならそう言うだろうことを……、たとえ寂しくても自分に心配をかけまいと気丈に振舞うだろうことを分かっていた。

「寂しくなるのはあなたじゃないの? リンデル」
 逆に問われて、リンデルも明るく笑って答える。

「俺は平気だよ! 騎士団に入れば仲間もできるし、勇者になれた日にはきっと沢山慕われて寂しいどころじゃないよ」
「そう、それなら安心ね……」
 そう言って微笑む姉の顔がやはりどうにも寂しげに見えて、リンデルは声をあげた。

「俺、絶対勇者になるから!」

 俯きかけていた姉が、突然の大声に驚いた顔でリンデルを見る。

「勇者になって、俺達みたいに魔物に家族を奪われる人を、一人でも多く減らしてみせる!」

「……ええ、そうね……」
 リンデルの姉、エレノーラは目を閉じて今までの日々を振り返る。
 根がまっすぐな弟は、これまで一度も休むことなく毎日鍛錬を重ねてきた。
 あの積み重ねた日々と、その正直で素直な心があれば、きっと騎士団でもうまくやれるだろう。

 エレノーラは、たった一人の可愛い弟をまっすぐ見つめて言った。
「あなたならできるわ。私はいつだってリンデルの事を応援してるからね」

 そんな姉の言葉と温かい微笑みは、この二年間、慣れない土地で剣を振るリンデルをずっと励まし続けてくれている。

 こんな風に、試験の前で緊張する心をほぐしてくれるのも、やはり姉の存在だった。




「次の方、中へどうぞ」
 呼ばれて、リンデルは「はい!」と答えて立ち上がった。



 ***

 その日、闘技場は騎士達と見物にきた市民達で一杯に埋め尽くされていた。
 貴賓席には有力貴族はもちろんの事、国王の姿まである。

 厳戒態勢の警備の中ではあったが、忙しく働いているのは主に近衛兵達で、魔物討伐を担当している九番隊までの隊員達は観客席にいる者の方が多い。

 それもそのはず、今闘技場で行われているのは、新勇者を決めるための最終試験である対戦試合だった。
 この勝負を勝ち抜いた者こそが、次の勇者となる。
 その一戦をぜひ見たいと集まった人の数は、リンデルが生まれてこれまで見てきた人の数よりも圧倒的に多い。

 大番狂わせに沸きあがる観客達を他所に、関係者用のテラス席から試合を見つめるルストックは眉を寄せて渋い顔をしていた。

「浮かない顔だな」
 ルストックに声をかけてきたのは、先日の会議の時と同じく鮮やかな金髪を後ろで括った青い瞳の男だった。
「……」
 言葉を返す余裕もないらしいルストックに、二十年来の友は何でもない顔のまま続ける。
「お前の隊の子、最終試験まで残ってんだって?」
「……ああ」
 渋々といった様子の返事に、金髪の男レインズは小さく苦笑を浮かべる。
 どうやらルストックは、ちょっとした記念受験のつもりで薦めたまだ若い隊員が、まさかここまで試験に残るだなんて夢にも思っていなかったらしい。

「お前は読みが甘いんだよ」
「――……っ、だが最終は実技なんだぞ。いくらなんでも、入隊して二年のあいつが優勝できるわけ……」

 ギィンッと剣をはじく鋭い音がして、ワアッと観客が沸く。
 舞台の中心では、リンデルが勝利に笑みをこぼしていた。

「また勝ったな」
 レインズの言葉に、ルストックが沈黙する。

 レインズは青くなりつつある親友の顔をちらと覗いてから、幾分かの同情を浮かべつつ言った。
「二年お前の隊で鍛えられた奴が、そう簡単に負けるわけないだろ」

「……俺は、こんなつもりであいつを鍛えたわけじゃ……」
 噛み締められたルストック奥歯が小さく鳴る。

 後悔に染まる親友の肩を、レインズは慰めるようにそっと叩いた。

 本当に、ルストックにも困ったものだとレインズは思う。
 この男はいつだって人のために苦労ばかりしているのに、またこうやって自分から厄介ごとをしょい込む。
 少しは自分の身も大事にしてくれればいいのに。
 今だって朝から晩まで働きづめだというのに、これであの若いのが勇者になった日には、今の仕事に加えて勇者隊としての仕事も、それに伴う書類仕事も大量に増えるだろう。

 ……だというのに、この親友がこんなに後悔しているのは自分のことじゃなく、あの若者のこれからの苦労や騎士としての寿命が縮むことに対してなんだろう。
 まったく、損な性格をしている。

 レインズは、何とも言えない気持ちを隠して緩やかに笑うと言った。
「だからお前は読みが甘いんだよ」


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